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むずかしい話

 投稿日間違えたw

「行ってきまーす」

 翌朝、倉庫に向かう子供たちと玄関口ですれ違った。

 遊ぶ前に面倒事を片付けてしまおうというのだ。武器も持たずに軽やかに、あっという間に坂の向こうに消えた。

 僕は前日同様、日の出前から一仕事を終え、欠伸しながら帰ってきたところだ。これから食事をして迷宮に入る予定である。

 模型は外装を組み上げたところで当座の目的であるデザインの確認を終えた。丸みのある先端から流れるような曲線。上下左右全面流線型のまるで飛空挺の気嚢のような船体。わずかにある開口部は両サイドにある空気取り入れ口(エアインテーク)と後部の吐出口のみ。地面に置いたらコロコロと横に転がりそうな船体。でもこれが『補助推進装置』の機構を取り込んだ未来型高速艇の原形だ。

 居住空間は船体の中央、推進装置の内側、球形のコアのなかに置く予定だ。外装とコアは直接触れておらず、魔法的な繋がりで連結される。これはガーディアンの関節部にも利用されている技術で、摩擦面を斥力で浮かせることで摩耗を防ぐのである。今回は居住空間を振り子のように安定させる意味合いがある。高速艇は高機動であるが故に、姿勢制御が不安定になり易い。コクピット周りの安定性は重要であるし、家具や積み荷がその度に暴れて貰っては困るのだ。

 コアの底にあたる外殻部には『浮遊魔法陣』が三機配置される予定だ。大伯母には既に頼んだ。特大魔石十個で話を付けた。

 これで船体を常に安定的に浮かせておける。魔力が続く限り、コロコロ転がることはないはずだ。

 一方、コアの底にはバラストが入ることになっている。水であれ、砂であれ、重りのおかげで常に床面が地面と平行になる設計だ。

 コアのなかは三階建て。最上階に操縦室。中間に居住区。下層に倉庫と格納庫だ。

 そしてコアへの出入りは転移のみ。物資の搬入も転送のみである。

 因みに個人のゲートをポータルを初めとする所有者のある転移システムに無許可で同調させることは重罪に当たる。但し、個人の権限で個人が転移先を決め実行する分にはお咎めはない。認可されていない街中での使用や、街の障壁を越えることはできないが。実際、冒険者は脱出用の転移結晶や回収品の転送にゲートを当たり前に用いている。

 これら珍妙なシステムを可能にしたものこそ、アイシャさんの本から学んだ新しい魔法理論、高次元立体座標を用いた『包囲型魔力制御理論』と『連結座標構築理論』の応用である。

 これにより魔力の少ないこの世界で、アールヴヘイム以上の魔力を内包した空間を造り出し、その膨大な魔力を使うことで隔たれた位置に魔法現象を起こすことが可能になるのだ。

 どちらも既存の現象であり、それをただ理論化しただけのものであるが、理論化できたということは再現が可能になったということである。

 先の例を挙げるならゲートキーパーが創り出す迷宮そのものがそうであるし、後の例を挙げるなら転移魔法の出口の形成こそがまさにそうであると言っていいだろう。


 包囲型魔力制御とは閉ざされた空間、つまり結界の内側で魔力の循環を完結させることをいう。本来、魔力が四散して消えてしまえば、発動行為自体は完結されたと見なされるが、この理論においては続きがある。つまり、四散した魔素の欠片を再び回収して再利用する理屈が加わるのだ。

 これにより総体は維持され、魔力の消耗は極力抑えられるということになる。逆に言えば、空間内に魔法使いが留まる限り、内包される魔素の量は増え続けるという理屈だ。


 そしてそれを可能にする結界領域を生み出す方法論こそ、連結座標構築理論である。

 後で子供たちに教えることを前提に、噛み砕いて解説するならばこういう説明になるだろうか。

 魔法の発動元である術者と、発動先である魔物の周囲を泡で包み込んでその内側で魔法行為を行う。そこで終ってしまったらなんにもならないが、二つの泡を空間座標無視の高次元立体術式で繋いでしまえば、これを一つの空間と見なすことができるのだ。魔力の入りと出を完全に制御下に置くのである。勿論物理現象が伴えば損耗するし、永久機関のようにはいかない。そもそも泡を繋ぐ行為は外側で行う行為であるし。逆に言うなら、泡を繋ぐために消費する魔力量より小さい発動行為に対して利用することは却って割高ということになる。だが、それを上回る行為に使ったとしたら、それは大きな節約になるのだ。故に転移だ、転送だと言えるわけだ。しかも作用域を船体の周囲に限れば、空間を繋ぐ行為そのものを無視できる。

 そしてここからが肝なのだが、これは世紀の大発見と言ってもいいだろう。

 なんと保存魔法で空間自体の固定が可能なのだ。空間を維持するための魔力すら微少で済むのである!

「びっくりするだろう?」

 子供たちの前で僕は大いにはしゃぐつもりだ。これは世紀の大発見なのだ。外部に漏らしてはいけない禁則になること間違いない!

 要するにだ。一言で言い表すなら「自重しなかったら、こんなことになっちゃいました。あっはっはっはっ! ごめんなさい」だ。


 そして、最後にこの船の変形機構の説明だ。

 この船には上下左右に花弁のように展開する巨大な盾が四枚備わっている。爺ちゃんの家にいた巨大蟹のチョビが大きな鋏で全身をガードするような感じだ。盾には自由度の高いアームが付いていて、ガーディアンのユニットコアで制御する。それは飛行ユニットの羽を制御するようなもの。盾は帆走時、帆にもなる。

 模型で可動域を確認する。

 風を受ける以上、強力な腕が必要だ。

「でも鉄の盾じゃ重過ぎて…… 強度を捨てて軽くしていくしかない」

 ミスリルが調達できるまで棚上げするか、ドラゴンの皮でも張って代用するか。

 風をはらみやすいように盾の湾曲は大きく、アームの関節数はできるだけ少なく。動きの制御はどうする?

 アームへの負担軽減のためにどこかに支点を設けるべきか?

 ワイヤーを使うか?

 いや、この船は魔力動船だ。なんのための推進装置だ。だとするなら限界をどこに持っていくか。帆として使うのは諦めるか。


 盾は盾。戦闘時に使うものだ。

 既にわかっていたことだが、この機体の弱点は前面のエアインテークだ。後部の吐出口も然りだが。これらは高速移動時にしか使用されない、戦闘時には無用な物である。盾は本来これらの欠点をカバーするために用意したものだが……

 チョビの鋏のように盾が開口部をカバーする一方、生まれた新たな隙間に武装を配備する。広角旋回式・多連装砲台を取り付ける予定だ。ロングレンジライフルでもかまわないが、いろいろ特殊な鏃が使えるバリスタの方が面白い。

 子供たちが目を輝かせること間違いなしだ!


 砲塔は正面を狙えるか?

 盾の形状はこれでいいのか?

 ギミックを動かしながら適切な形状を模索する。

 カーブを調整し、角を削り、時には面積を広げ、狭め、薄くする。アームの関節と関節の距離を測り、トルクの計算を大まかに行う。強度が足りなければ骨組みを太く、重くなれば中抜きをする。

 調整を続ければ続ける程、盾の可動域の限界が見えてくる。

 ミスリルが調達できるまでは骨太アームと張りぼての盾でいくしかないのか。

 いっそ固定式にして、盾をやめるか。結界があればほぼ無敵なわけだし、物理は捨てるか……


「眠かった」

 折角、オリエッタを連れていったのに話し相手になってくれなかった。即席で作った寝台の上でずっと丸まっていただけだ。

 取り敢えず、予定していた模型は完成した。

 次はいよいよ試作機の制作である。

「図面だけでなく、魔法陣も用意しないといけないな」

 完成はいつになることやら。



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