表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/553

打開策は力を合わせて

「嘘だったのか?」

「船で飼ってたペットが逃げ出しただけだってさ」

「なんだ、期待してたのに」

「ナナーナ」

「狼じゃ、ドラゴン倒せないしな。せめてフェンリルぐらい強くないと育て甲斐がないよな」

「でも犬の代わりに飼うってのはありよね。召喚獣なら家畜とかは襲わないでしょう?」

「家畜番にする気か?」

 ラーラは突拍子もない。

「わたしもチャレンジしてみようかな」

「うまくいったら姉さんに教えてやってくれ」

「たぶん無理だと思うけど」

「なんで?」

「もしできるなら今頃ヘモサブロウがいると思うのよね。ヘモジの故郷の村がないってことはそう言うことだと思うのよ」

「最下層までクリアしたら隅々まで探索するかな。で、そっちはもうクリアしたのか?」

「当たり前でしょう。ここにいるんだから。二往復する意味ないでしょう?」

「早いな」

「戦闘しないようにと思ってたら、なぜか早足になっちゃって」

「のどかな景色だったのにな」

 ヴィートが言った。

「このウィンナー辛い」

 マリーが昼食のメインディッシュを皿に置いた。

「胡椒が効いてるからな」

「お酒にはちょうど合うんだけどね。こっちの辛くない方をあげるわ」

 ラーラは自分の皿の上の一回り小さなソーセージ二本と交換した。

 カテリーナが僕の袖を引っ張る。

 僕もカテリーナと交換した。

「おいしいのに」とミケーレが呟く。

 目玉焼きで刺激を抑えながら口に運ぶと…… 子供には刺激があり過ぎるか。

「師匠は?」

「ん?」

「終った?」

「ああ、終った。午後からもうワンフロア行ってくる」

「俺たちも」

「二十階層は広いぞー」

「ストーンゴーレムがいる」

「砂漠フロアか」

 ラーラが黙り込む。日焼けを考えているのか?

「サンドワームも出るのよね?」

「しっかりした足場もあるから、現実の砂漠程厳しくないぞ」

「でも歩いて行くのはちょっとね」

「……」

 ラーラと子供たちの視線が突き刺さる。

「サンドワームとストーンゴーレム、サンドゴーレムを一体ずつやったら出るからな」

「資源集めで何度も行くことになるフロアだもんね。予行演習ってことで」

 楽する気満々じゃねーか。

「ヒュドロスとセベクの泥沼の戦闘も見物だったんだけどな」

 転移魔法を持つ者がいた方があのフロアは確かに楽だからな。

「飯食ったら行くとするか」

「やった!」


「ふんふんふん」

 マリーとカテリーナが手を繋いで楽しそうに前を歩く。

 白亜のゲート前には午後の部に行く冒険者の列ができていた。

 待っている間に行程を話しておいた。右回りでサンドゴーレムを倒した後、中央で小物の相手をすると。

 中央の山頂が出口だから、頃合いを見計らって脱出だ。と考えていたら、ラーラの提案で、サンドゴーレムを二体狩ることになった。

 一体はまず見学して貰う。それから対抗策を練って、子供たちだけで実技に入ることに。

 巨大イカをスルーしている現状、子供たちは実力不足を痛感している。またやり過ごすとなると子供たちのストレスは計り知れない。自分たちで限界を設定してしまうかも。そこをなんとか突破させてやりたいというのがラーラの姉心だ。この際、回収品の質を考慮する必要はない。他の冒険者はもっと切実なはずだから。

 テコ入れしたいところなんだが。


 入口を出るといきなりゴールに飛んだ。見晴らしが一番いい場所でもあるからだ。まずこの場所でフロアの構成を語る。サンドゴーレムが徘徊している砂漠の位置と、足元にある小物の狩り場について。

 一度来たので楽勝だ。転移して東の砂漠に降り立つと遺跡まで移動する。ここで待機。サンドゴーレムの気配を探る。空模様は一向に変化なし。

 一時間をだらだら過ごす。すると風が出てきて、ようやく空が暗くなり始める。空の端に砂嵐が現れた。

「行くぞ」

 いつものやり方を教示する。空高く転移して敵の進路を予測することは子供たちにはできない。教えたところでまねることはできないのは承知の上だ。

 進路を確認すると地上に降りて進路上まで転移する。細かい位置の修正。索敵スキルを全開にする。

 子供たちも必死に付いてくる。

「よしこの辺りだ!」

 ギリギリまで引きつけているので、穴を掘る時間は余りない。

「前面に落とし穴を掘る。そしてこっちにも」

 地表部分を残して地下を掘る。地表部分が落ちてしまわないように補強しつつ、梁を巡らす。一方、自分たちが隠れる方は踏まれても安心なレベルまで強化する。僕は普段一人だが、子供たちは作業を手分けしてできる。

「来るわよー」

 フィオリーナの声にみな一斉に穴のなかに隠れる。

 砂嵐が襲いかかる。視界ゼロ。砂丘が大波のように揺れ動く。

「凄いな」

「こんな砂嵐間近で見たことないよ」

 こんな嵐直撃されたら普通死ぬからな。

「サンドゴーレムは? ちゃんと来てる?」

「気配隠せよ。見付かったら罠に気付かれるぞ」

「結界張って突入するんじゃ駄目なの?」

 マリーが聞いてきた。

「やってもいいけど、自分たちの結界はこの嵐を耐えられるのか?」

「微妙かも」

「この戦法はあくまで最大限の収入を得るためのものだから、まねする必要はないんだけどな」

「一撃を浴びせれば砂嵐もやむんだよね?」

「まあな」

 ものすごい衝撃が襲いかかった!

「掛かったッ!」

 間違いなく落とし穴に嵌っていた。

 僕は銃口を向け『魔弾』を放った。


「うわー、凄い。金塊だよ! 宝石もおっきいの出た!」

「練習用素材ゲットだな」

「あううっ……」

 子供たちは黙り込んだ。

「確かに気にしてたら馬鹿みたいだね」

 加工時の損失など気にしていたら確かにそう思えるあろう。前回の大損は今、目の前で一瞬にして取り返したわけだから。

「リオネッロだからできる芸当よ。普通の冒険者じゃ金なんて拝めないんだから。五十年前まではサンドゴーレムが金塊を落とすなんて、誰も知らなかったんだから」

 ラーラが言った。

「自分たちでやってみればわかるさ」

 損耗なしというのはなかなかできるようでできないことだ。


「おっしゃー。やるぞー」

 僕たちは北の砂漠に向かうと、子供たちにすべてを任せた。

「転移ってやっぱり反則だよね」

「大師匠が許可するまで教えないからな」

「わかってますよ」

 ニコレッタが口を尖らせた。


 子供たちも穴を掘り始めた。嵐をやり過ごして迎え撃つ気である。

 それがいい。巨体に暴れられるより増しだし、無駄な魔力消費は抑えるに限る。

 何やらフォーメーションの確認をしている。

「練習した通りにいくぞ。失敗したら二班とすぐ交替だからな」

 ジョバンニが言った。

 失敗するって何をだ?

「イカより楽勝だよ」

「自分の分担が終ったからって気を抜かないでよ。発動のトリガーはトーニオなんだから、トーニオが終るまではみんなでサポートするんだからね」

「そっちこそ、タイミング合わせてよね」

 ヴィートとニコレッタが睨み合う。

「落ち着いてやれば大丈夫だって。三回に一回は成功してるんだし」

 トーニオが仲裁に入る。

「目標は五割よ。二班しかいないんだから」

 ラーラ、お前も絡んでいるのか?

 僕はじっとラーラを睨み付けた。

「し・ゅ・う・だ・ん・ま・ほ・う」

 ラーラが口を大袈裟に動かしてそう言った。

「師匠か……」

 にっこり笑った。

「子供にそんなもん、教えるなよ」

 限界を感じ始めていた子供たちの打開策。それは集団魔法だった。

 複数人で行う大規模戦闘術式のことだ。合同魔法とか、呼び方はいろいろあるが。

 個で適わぬなら集団で。細い矢も束ねればというやつだ。幸い子供たちは人数だけはいる。今の子供たちの長所を最大限に生かそうとすれば、まっとうな帰結と言えた。

 休日の間、ジャイアント・スクィッド戦を想定して練習していたのだという。それをサンドゴーレム相手に叩き込もうというのだ。僕も一度は考えた案ではあるが……

 前回同様、地面に衝撃が走る!

「いくぞ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ