打開策は力を合わせて
「嘘だったのか?」
「船で飼ってたペットが逃げ出しただけだってさ」
「なんだ、期待してたのに」
「ナナーナ」
「狼じゃ、ドラゴン倒せないしな。せめてフェンリルぐらい強くないと育て甲斐がないよな」
「でも犬の代わりに飼うってのはありよね。召喚獣なら家畜とかは襲わないでしょう?」
「家畜番にする気か?」
ラーラは突拍子もない。
「わたしもチャレンジしてみようかな」
「うまくいったら姉さんに教えてやってくれ」
「たぶん無理だと思うけど」
「なんで?」
「もしできるなら今頃ヘモサブロウがいると思うのよね。ヘモジの故郷の村がないってことはそう言うことだと思うのよ」
「最下層までクリアしたら隅々まで探索するかな。で、そっちはもうクリアしたのか?」
「当たり前でしょう。ここにいるんだから。二往復する意味ないでしょう?」
「早いな」
「戦闘しないようにと思ってたら、なぜか早足になっちゃって」
「のどかな景色だったのにな」
ヴィートが言った。
「このウィンナー辛い」
マリーが昼食のメインディッシュを皿に置いた。
「胡椒が効いてるからな」
「お酒にはちょうど合うんだけどね。こっちの辛くない方をあげるわ」
ラーラは自分の皿の上の一回り小さなソーセージ二本と交換した。
カテリーナが僕の袖を引っ張る。
僕もカテリーナと交換した。
「おいしいのに」とミケーレが呟く。
目玉焼きで刺激を抑えながら口に運ぶと…… 子供には刺激があり過ぎるか。
「師匠は?」
「ん?」
「終った?」
「ああ、終った。午後からもうワンフロア行ってくる」
「俺たちも」
「二十階層は広いぞー」
「ストーンゴーレムがいる」
「砂漠フロアか」
ラーラが黙り込む。日焼けを考えているのか?
「サンドワームも出るのよね?」
「しっかりした足場もあるから、現実の砂漠程厳しくないぞ」
「でも歩いて行くのはちょっとね」
「……」
ラーラと子供たちの視線が突き刺さる。
「サンドワームとストーンゴーレム、サンドゴーレムを一体ずつやったら出るからな」
「資源集めで何度も行くことになるフロアだもんね。予行演習ってことで」
楽する気満々じゃねーか。
「ヒュドロスとセベクの泥沼の戦闘も見物だったんだけどな」
転移魔法を持つ者がいた方があのフロアは確かに楽だからな。
「飯食ったら行くとするか」
「やった!」
「ふんふんふん」
マリーとカテリーナが手を繋いで楽しそうに前を歩く。
白亜のゲート前には午後の部に行く冒険者の列ができていた。
待っている間に行程を話しておいた。右回りでサンドゴーレムを倒した後、中央で小物の相手をすると。
中央の山頂が出口だから、頃合いを見計らって脱出だ。と考えていたら、ラーラの提案で、サンドゴーレムを二体狩ることになった。
一体はまず見学して貰う。それから対抗策を練って、子供たちだけで実技に入ることに。
巨大イカをスルーしている現状、子供たちは実力不足を痛感している。またやり過ごすとなると子供たちのストレスは計り知れない。自分たちで限界を設定してしまうかも。そこをなんとか突破させてやりたいというのがラーラの姉心だ。この際、回収品の質を考慮する必要はない。他の冒険者はもっと切実なはずだから。
テコ入れしたいところなんだが。
入口を出るといきなりゴールに飛んだ。見晴らしが一番いい場所でもあるからだ。まずこの場所でフロアの構成を語る。サンドゴーレムが徘徊している砂漠の位置と、足元にある小物の狩り場について。
一度来たので楽勝だ。転移して東の砂漠に降り立つと遺跡まで移動する。ここで待機。サンドゴーレムの気配を探る。空模様は一向に変化なし。
一時間をだらだら過ごす。すると風が出てきて、ようやく空が暗くなり始める。空の端に砂嵐が現れた。
「行くぞ」
いつものやり方を教示する。空高く転移して敵の進路を予測することは子供たちにはできない。教えたところでまねることはできないのは承知の上だ。
進路を確認すると地上に降りて進路上まで転移する。細かい位置の修正。索敵スキルを全開にする。
子供たちも必死に付いてくる。
「よしこの辺りだ!」
ギリギリまで引きつけているので、穴を掘る時間は余りない。
「前面に落とし穴を掘る。そしてこっちにも」
地表部分を残して地下を掘る。地表部分が落ちてしまわないように補強しつつ、梁を巡らす。一方、自分たちが隠れる方は踏まれても安心なレベルまで強化する。僕は普段一人だが、子供たちは作業を手分けしてできる。
「来るわよー」
フィオリーナの声にみな一斉に穴のなかに隠れる。
砂嵐が襲いかかる。視界ゼロ。砂丘が大波のように揺れ動く。
「凄いな」
「こんな砂嵐間近で見たことないよ」
こんな嵐直撃されたら普通死ぬからな。
「サンドゴーレムは? ちゃんと来てる?」
「気配隠せよ。見付かったら罠に気付かれるぞ」
「結界張って突入するんじゃ駄目なの?」
マリーが聞いてきた。
「やってもいいけど、自分たちの結界はこの嵐を耐えられるのか?」
「微妙かも」
「この戦法はあくまで最大限の収入を得るためのものだから、まねする必要はないんだけどな」
「一撃を浴びせれば砂嵐もやむんだよね?」
「まあな」
ものすごい衝撃が襲いかかった!
「掛かったッ!」
間違いなく落とし穴に嵌っていた。
僕は銃口を向け『魔弾』を放った。
「うわー、凄い。金塊だよ! 宝石もおっきいの出た!」
「練習用素材ゲットだな」
「あううっ……」
子供たちは黙り込んだ。
「確かに気にしてたら馬鹿みたいだね」
加工時の損失など気にしていたら確かにそう思えるあろう。前回の大損は今、目の前で一瞬にして取り返したわけだから。
「リオネッロだからできる芸当よ。普通の冒険者じゃ金なんて拝めないんだから。五十年前まではサンドゴーレムが金塊を落とすなんて、誰も知らなかったんだから」
ラーラが言った。
「自分たちでやってみればわかるさ」
損耗なしというのはなかなかできるようでできないことだ。
「おっしゃー。やるぞー」
僕たちは北の砂漠に向かうと、子供たちにすべてを任せた。
「転移ってやっぱり反則だよね」
「大師匠が許可するまで教えないからな」
「わかってますよ」
ニコレッタが口を尖らせた。
子供たちも穴を掘り始めた。嵐をやり過ごして迎え撃つ気である。
それがいい。巨体に暴れられるより増しだし、無駄な魔力消費は抑えるに限る。
何やらフォーメーションの確認をしている。
「練習した通りにいくぞ。失敗したら二班とすぐ交替だからな」
ジョバンニが言った。
失敗するって何をだ?
「イカより楽勝だよ」
「自分の分担が終ったからって気を抜かないでよ。発動のトリガーはトーニオなんだから、トーニオが終るまではみんなでサポートするんだからね」
「そっちこそ、タイミング合わせてよね」
ヴィートとニコレッタが睨み合う。
「落ち着いてやれば大丈夫だって。三回に一回は成功してるんだし」
トーニオが仲裁に入る。
「目標は五割よ。二班しかいないんだから」
ラーラ、お前も絡んでいるのか?
僕はじっとラーラを睨み付けた。
「し・ゅ・う・だ・ん・ま・ほ・う」
ラーラが口を大袈裟に動かしてそう言った。
「師匠か……」
にっこり笑った。
「子供にそんなもん、教えるなよ」
限界を感じ始めていた子供たちの打開策。それは集団魔法だった。
複数人で行う大規模戦闘術式のことだ。合同魔法とか、呼び方はいろいろあるが。
個で適わぬなら集団で。細い矢も束ねればというやつだ。幸い子供たちは人数だけはいる。今の子供たちの長所を最大限に生かそうとすれば、まっとうな帰結と言えた。
休日の間、ジャイアント・スクィッド戦を想定して練習していたのだという。それをサンドゴーレム相手に叩き込もうというのだ。僕も一度は考えた案ではあるが……
前回同様、地面に衝撃が走る!
「いくぞ!」




