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クーの迷宮(地下21階 センティコア、ハギス戦)カリイもいるでよ

 夜の工房にブリッドマンとリーチャさんと三人で訪れた。

「ほー」

 ブリッドマンはさっきから「ほー」しか言ってない。

「やっぱり、いいな。これ」

「オプション装備した『スクルド』もいい感じですよ。この人が『スクルド』を大量買いしたときはなんて無駄なことをと思ってましたが、これがあれば操縦士の力量に頼らずともいけるのですね…… 汎用的に使えるようになれば主力機の代替も容易くなります」

「でも他のオプションが付けられなくなりますから、その辺は慎重に」

「この『ワルキューレ』は名機になる予感がする。だが、それは同時にこれを超える次世代機がそうそう出ないということでもある。未来のスタンダードはこちらだろう。次が出ないということは当分安くはならないということだし、どちらに投資すべきか、悩みどころだ」

 ガーディアンが主戦力の『天使の楽園』なら悩むのは当然だ。武具と同様、命を預ける物だ。手抜きは死に繋がる。が、金が掛かるというのもまた事実。

「発売前の物に悩んでいても仕方がない! こっちだ。『オプション』を二十機貰おう。プラス『スクルド』二十機、当然オプション付きだ」

 即断即決。リーチャさんも唖然とする決断力。

「毎度ありがとうございます。向こうと連絡が付き次第、発注いたします」

 それからふたりはモナさんの『ニース』と荷運び用に改造した『ルカーノ』を見て楽しんだ。

「面白いな。ここまでいじり倒せるとは」

「このよう機体もあったのですね。初めて見ました」

「四十年前の機体と軍用ですからね。知らなくて当然です」

 ふたりは僕と別れるとそのまま宴会場になだれ込み、喧噪のなかに消えた。

 僕は黒い奴に対抗する手段はないか思索にふけりながら、湖面に揺れる不夜城の灯りに目を落とした。

「やってくれるよ……」



 長距離攻撃には長距離で。即席でできることは限られる。

 ロングレンジライフルを改造するしかない。消費魔力を上げて、パラメーターをいじればいいだけだが、弾数が問題だ。精度を上げるには視界確保も必要だから望遠鏡の倍率も上げる必要がある。言わずとも砦や『天使の楽園』の工房が既に対策に着手していることだろう。

 だから僕は朝から暢気に薬草畑で薬草摘みをしている。

『天使の楽園』が万能薬を買い増ししたいと言うので、在庫を売り払って、新しく補充するためだ。多少問題のある地産品も、手を加えれば遜色ないとわかっているので出し渋ることはない。

「こんな場所まであるのね」

 突然の声に驚いた。

「ちょっと、ここは身内以外立ち入り禁止なんですけど!」

 リーチャさんが立っていた。

「わたしもレジーナ様の弟子の一人よ。見逃してくれてもいいんじゃない?」

 そう言いながら僕の背中に負ぶさってきた。

「普通の薬草畑ね」

「変わった物なんてないですよ」

「君のことだから見たこともない薬草を育ててるかと思ったんだけど」

「まだここも実験段階なんです。どんな植物が育つか未知数ですから」

「北には多少緑があるから、ここまで深刻じゃないけど。確かに効果が薄いのは問題よね」

 やはりこちらの作物では効果が薄いのか。

「で、何しに来たんです?」

「う・わ・き」

「よくあの人と結婚しましたよね。昔も今も噂の絶えない人なのに」

「それを言ったら、あなたのお爺さんも、あなたも変わらないでしょう?」

「はぁあ?」

「自覚ないの? あんなにいい女ばかり、はべらせてる癖に」

「…… 僕がそんなポジションの男に見えます?」

「女はね。いい男に引きつけられちゃう悲しい生き物なのよ」と言いながら背中に柔らかい物を押し付けてくる。

「ほんとに何しに来たんです?」

「ぶれない子ね。君の大伯母様を探してたのよ」

「この時間ならたぶん外周防壁ですよ。タイタンがいる辺りを探したら、たぶんいますよ」

「何? あの人、まだ穴掘ってるわけ?」

「『穴熊』ですから。習性はいかんとも」


 薬草を摘みを終え、玄関フロアまで戻ると、ヘモジもちょうど朝の畑仕事を終え、戻ってきていた。

「ナーナーナ」

「お帰り、少し休んだら二十一層行くぞ」

 階段の手摺りで寝ていたオリエッタも首をもたげた。



 エルーダ迷宮二十一階層は『銀団』所属の冒険者が事実上占拠しているフロアだった。二十一層の主、センティコアが水の魔石(特大)の重要な入手源だったからだ。

 ユニコーンの森(ユニコーンズフォレスト)の南、人工オアシスによる砂漠の緑地化政策には水の魔石が大量に必要だった。そのせいでいつ行ってもセンティコアは狩り尽くされていて、僕自身、エルーダで狩った記憶が余りない。

 センティコアは火蟻女王並みに大きな水牛だった。イノシシのような牙があるのが特徴で、物損を抑え魔力消費もさせずに瞬殺できれば、ほぼ確実に水の魔石(特大)が手に入るというおいしい魔物だった。しかも火蟻女王のように一体のみということはなく、フロアに複数点在していた。

 そしてこのフロアのもう一種の主、ハギスも余り狩った記憶がなかった。

 ハギスは丸くてでかい水掻き鼠だ。でかいと言っても鼠としてだが。平らなくちばしをしているのが特徴で、雄の水掻きのかぎ爪には毒があった。人には命に関わるような物ではないが、刺されると激痛に襲われる。魔物除けの原料として使われることもあった。ただエルーダにおいてはセンティコアを狩るとき、邪魔なので一緒に狩られてしまう哀れな奴らであった。


 二十層から入り、出口まで転移して下りた先には、足がすっぽりはまる沼地があった。敵の一方がハギスだけなら楽勝なのだが、そう言い切るにはまだ早計だった。慎重に前進するしかない。

 早速、犬ころ程度の反応があった。間違いなくハギスだ。ハギスは集団で行動する。実入りが小さい分、数で補う感じだが、足場が足場なので無理に相手する必要はない。センティコアを倒せば、嫌という程おつりが来るのだから。

 いつものように足場を凍らせながら進む。

 ヘモジもオリエッタも当然のように僕の肩とリュックの上に乗っている。

「他の魔物はいなさそうだな」

 言ってるそばから見慣れぬ光点が一つ。視界の外から近付いてくる。

「なんだ?」

 ハギスの物より大きかったが、センティコアにしては小さかった。

「来た!」

「ナーナ!」

 水面が揺れる。この軌跡は蛇だ!

 ゴンと結界にぶち当たった。そして氷の塊になって水面に浮かんだ。

「オリエッタ……」

「『カリイ』、レベル四十」

 人の頭を丸飲みにできる程度には大きな蛇だった。が、千年大蛇を見慣れている身としては迫力不足だ。

「小物だね」

 オリエッタに言われちゃね。

「あとで『魔獣図鑑』確認しないとな。一応現物も送っておくか」

 お金になるかわからないので一旦、倉庫送りだ。

「子供たちは嫌がるだろうな」

 泥だらけの地形。魔物があっちにもこっちにも。カリイはハギスも気付かない所からこちらを嗅ぎ付けてきた。探知能力は相当高いと思われる。ここまで来る冒険者が索敵スキルで後れを取るとは思えないが、もしそうであるならばあいつは要注意だ。

「センティコア発見!」

 オリエッタが僕の後頭部を踏み付けた。


「うわ、でか」

 初見ではないが、でかい物はでかい。体積だけでいったら、火蟻女王も目ではない。

「でも牛なんだよな」

 皮が厚いだけで、さして戦闘力のある魔物ではない。まあ、その重量が最大の武器とも言えるのだが。

「『魔弾』」

 奴の探知射程外から狙いを定める。

「『一撃必殺』」

 急所の反応が出た。が、角度が悪い。

「気付かせるぞ」

 足で水面を揺すりポチャンと音を立てた。

 センティコアが一瞬こちらを振り向いた。

 大きな頭が一瞬空を向いたかと思うと、膝が折れた。泥を跳ね上げ転がった。

「急げ!」

 泥のなかを僕は走る。このまま魔石に変わられると発見が難しくなるからだ。転がった骸の下を凍らせ水面の上まで持ち上げる。その間、ヘモジとオリエッタは骸の腹に乗っかって周囲警戒だ。

 センティコアの死体を漁りに他の魔物が寄ってくるなんてこともあり得るからだ。特にあの蛇。骸に欠損があるとその分、魔石の価値が下がる。センティコアの元の大きさにもよるが、特大が取れる可能性は最大限に確保しておきたい。

「変わった!」

 抱える程の大きな塊が現れた。澄んだ水色の魔石。

「やった。特大出た」

 オリエッタが言った。

「ナーナ」

 ヘモジも喜んだ。

「ようし、回収だ」

 我が家の倉庫に直送である。



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