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クーの迷宮(地下20階 サンドゴーレム戦)鉄かガラスか

 が…… 『虹色鉱石』は二度と出てこなかった。

 金銀銅に鉛、石炭…… 鉱石各種。鉄鉱石も出るには出たけど、期待した程ではなく。

「徘徊しているストーンゴーレムと変わらないな」

 凶悪さは比ぶべくもないが。

「ナ、ナーナ」

「確かにこれまでにないガラスの量だけど…… どうせなら最初から塊で出して欲しいよ、面倒臭い」

 サンドワームの消化器官の関係とか? なぜか粉の状態でしか取れなかった。

「少し日陰で休むか」

 広い砂漠。現実世界よりも暑い熱砂のなかで目印になりそうな景色を追い掛けて奔走するが、サンドゴーレムの姿は未だ見えず、徘徊しているのは硬いだけのストーンゴーレムばかりだった。当然、出口発見への目処も立たない。

 マップ情報がないというのはつらいな……

 このフロアに限っては目指す方角すら定まっていない。だから目印になりそうな場所をピックアップしてフロアの全体像を掴もうとしている。

 入口を出てすぐ、北に位置する山脈の最も高い尾根を目指して進むと深い渓谷がある。左に曲がると渓谷は途切れていそうなので、右に折れ、崖伝いに進む。

 干からびた渓谷を出ると再び波打つ熱砂が広がっていた。

 目印になる物は何もない。

 転移して上空から周囲を見渡すと左手に廃墟らしき点を見付けた。


 そして現在……

「風が……」

 強くなってきた。

 廃墟で涼んでいると遠くの空が黄色く濁り始めた。

「サンドゴーレム!」

 常時、砂嵐を纏うゴーレム。砂嵐で前衛の装備をヤスリの如く削る嫌われ者だ。

 一撃を食らわせれば嵐はやむので、通常は嵐を掻いくぐり、まず一撃を加えることを考える。装備の損傷を気にせず、盾持ちが突っ込むか、結界を張った魔法使いが強引に突破するか。僕たちのようにルートを予測して穴を掘る手もあるが、敵も馬鹿ではないので発見次第ルートを変えられることもしばしば。

 サンドゴーレムは通常サイズのゴーレムの倍の大きさがあるが、強度的には他のゴーレムと変わらない。ただ、再生能力はピカ一で、長い間気付かれることなく『頑丈』だと誤解されてきた。それ故、攻略方法は魔力消失による自壊狙いというのが定番だったが、金塊を落とすとわかってからは方針が一転、即死狙いが定石になっていた。我が家とそれに連なる者の秘匿事項であるが。

「落とし穴」

 オリエッタが遠くを望む。

「いつものやり方で行こうかね」

 砂嵐のなかにある反応をまず探す。どちらに進んでいるか見定めるのだ。

「あっちだ、あっち」

「ナナナー」

 ヘモジを抱えて転移を繰り返し、敵の進行方向の正面に出る。

「穴掘るぞ」

 掘ると言っても魔法で一瞬、地表面を残して地中を掘るのだが。残土はあからさまに周囲にばらまき、罠がありますよと警告、こちらに誘導する。

「早く、見付かる!」

 落とし穴から少し離れた場所に潜むための別の穴を掘る。

「隠れろ」

「早く」

「ナナナー」

 三人一斉に飛び込んだ。

「結界張るぞ」

 ビュービューと砂塵が猛烈な勢いで頭上を通過する。

 暗い空に巻き上げられる草木や石つぶての影が砲弾のように通り過ぎた。穴がどんどん砂に埋まっていく。結界がなければ口や目を開けてはいられない。

 オリエッタとヘモジがふたり揃ってリュックのなかに避難した。

 そして穴がすべて埋まり掛けたとき、ピタリと風がやんだ。

 嵐を抜けたぞ!

 僕たちは穴から飛び出す。

 ズーンという大きな揺れと共に巨大なゴーレムが砂に沈む。うつむく頭部、でかい手が砂を掴む。

「頭!」

 オリエッタに言われなくても『一撃必殺』のスキルが急所を捉える。

「『魔弾』!」

 頭に風穴が空くと同時に対象の反応が消えた。

「ナーナ」

「完璧」

 ヘモジとオリエッタが手を叩く。

「何が出るかな?」

「『虹色鉱石』がいい」

「ナーナ」


「喜ぶべきなんだろうが……」

 出たのは金塊だけだった。いくら現物があっても、物々交換も換金もままならない現状ではただの光る石だった。

「宝物庫行きだな。子供たちの修行に使うか」

 金塊で修行なんて身が竦むと思うが、ミスリルで粘土遊びがしたければ通らなければならない道だ。

「出現位置とルートを書き留めて……」

 見渡す限り砂ばかり。廃墟に戻り進行方向を探る。

「どっちの方角に向かえばいいんだろうな」

 落とし穴を起点に地平線まで何度か転移を繰り返す。東西南北…… オアシス発見!

 来た方角に戻る感じで進むと、序盤に見えていた山脈に当たる。その麓に緑色の一角があった。

「行くぞー」

「おー」

「ナーナ」


 迷宮内での宿泊を想定してか、無人のテントが並んでいる。湖畔には椰子の木が生え、家畜もちらほら見える。ギミックでは栄養にはならないだろうが、飢えは凌げそうだ。

 入口から遠回りせずにここに来られるか、戻りながら午前の攻略を終えた。

『転移』魔法がなかったら、どうなっていたことか。

 万能薬を舐めながら広大な景色を振り返る。


 食堂に子供たちとバンドゥーニさんがいた。

「盗賊共、調子はどうだ?」

 今日の子供たちは十七階層、香木フロアで盗賊ルートを攻略していた。

「すっげー、順調」

「誰が盗賊よ」

 ヴィートとニコレッタがスープにスプーンを落としながら言った。

 でっかいサイコロ肉の入ったミネストローネだ。

 さすがに三度目だからな。

「俺たち、女王を救出したんだぜ」

 ジョバンニが言った。

「あの扉やっぱり開いたんだ?」

「盗賊のリーダーが開けたんだよ」と、ニコロがもちもちパンを頬張る。

 食堂の入口横に荷物を放り出して席に着いた。

 休暇が功を奏したのか、子供たちの表情は晴れやかだ。

 初日に強引に侵入した地下牢のような空間に、盗賊たちと共に潜入した子供たちはそこで動いているクイーンジャイアントに接触したという。

 勢いを増した盗賊団はその後、女王と共に王宮に乗り込んでいったらしいが、子供たちは後を追わずに一旦、お昼休憩に戻って来たそうだ。

「女王がなんで軟禁されてたのかわかったのか?」

 トーニオに尋ねると「王様が入り婿だったんだ」という答えが返ってきた。

 僕とヘモジとオリエッタは噴き出した。

 まさか、ほんとに婿養子だったとは……

「それで実権ほしさに女王を閉じ込めてたってわけ。盗賊は元の王様の部下で放逐? されてたんだって」

 なるほど、盗賊ルートはまっとうだったんだな。

「クイーン、すっげー強かった」

 ジョバンニの言葉にヴィートとニコロが大きく頷く。

 知ってる。

「一緒に助けた奴らも凄かったよな」

護衛(スコルタ)だっけ?」

「でもそのせいで広場の連中みんな、あいつらに倒されちゃって。回収量激減だよ」

「でも小麦は全部の袋にいっぱい取ってきたよ」と、料理に夢中だったミケーレが言った。どうやら皿が空になったらしい。

「そうだ、香木一本、見付けたよ」

「バンドゥーニさんが匂いを嗅ぎ付けたんだよね」

「お、おう」

 バンドゥーニさんが照れた。

「普通の棍棒も二十本ぐらい倉庫に送っておいたから、間違わないでよね」

 倉庫のなかはカオスになってるだろうな…… 


 昼食を済ませると僕たちは揃って午後の部に出掛けた。

「ナーナ」

 ヘモジが突然、しゃがみ込んで地面に耳を当てた。

「サンドワーム!」

 オリエッタが耳をばたつかせた。

「ナーナ!」

 ヘモジも方角を指差した。

「いくぞ」

「ナーナ」

 ヘモジはミョルニルを腰のホルダーから引き抜いた。

『衝撃波』!

 地面に手を当て、全方位に向けて放った。

 網に掛かった!

 ズバーンと砂を巻き上げながら巨体が宙に舞った。

「ナー…… ナー…… ナーァアアアッ」

 強烈なミョルニルの衝撃にワームの全身が震えた。かと思うと動かなくなった。

「死んだ?」

 オリエッタが言った。

「一撃かよ」

 急所でもないところを叩いたのに急所が見事に破壊されていた。

「ナーナ、ナーナ」

 ヘモジが尻振りダンスを始めた。

 そんなにガラスが欲しいか!

「『虹色鉱石』出る?」

 真顔で見詰められても、僕は確率の神ではないのでなんとも……

 変化するまで退屈だったので、たまたま見掛けたストーンゴーレムに『魔弾』を放り込んだ。

 一撃で沈んだ。

「まだ?」

 オリエッタは僕にますます顔を近づけた。

「もうちょっとじゃない?」

 情報を書き加えようとメモを出したところで、変化が訪れた。

「出た!」

 鉄の塊がやっと出た。当然ながら金塊の量など目ではない。大雑把に言って量は鉱石の価値に反比例する。

「子供たちに素材回収やめさせておけばよかったかな」

 それだけの量の鉄が一気に取れた。

「銅も出た」

 銅の塊は鉄のおまけのようだったが、それでも一抱え分あった。一方、ガラスは出なかった。

 ヘモジは打ち拉がれ、地面に膝を落とした。

 大袈裟な……

「ナーナンナ……」

「次回に期待だな」

 ついでに倒したストーンゴーレムの方に向かうと、量は少ないがこちらも鉄が出た。

「宝石、出た」

「お、でかいのが出たな」

 これがメイン報酬だろうな。整形して圧縮すれば、いい値段で売れるだろう。

「ナーナ……」

 ヘモジはしゃがみ込んだ。

「はい、次行きますよー」

 ヘモジは慌てて僕の足に絡んだ。


 それで次の目標地点は……

「ナーナ」

 最初の目標地点、一番高い稜線を目指すことにした。

 砂漠に、岩の大地。岩陰に若干の緑、というか干からびた黄色。

「風が…… 暑い」

 熱砂を越えてくる風が涼しいわけがない。

「ストーンゴーレム発見」

 三体がよちよち歩いていた。

 地盤が固いのか、サンドワームはいないようだ。

「よっこらせ」

『魔弾』で一撃、二撃、三撃。

 観測士のオリエッタの評価待ち。

「ナナ?」

 ヘモジも望遠鏡を覗き込む。

「反応消えた」

 オリエッタが言った。

 僕たちは歩みを再開した。


「あからさまだな」

「ゴーレムがいっぱい」

 山の麓まで来たが、高い天然の壁が果てなく続いていた。

「どっちに行こうかね……」

 どちらも有望さに変わりない。右方向に行って帰ってきたから左に向かうか、それとも右側を埋めてしまうか。

「ナーナ」

 左の空が汚れてきていた。

「砂嵐か…… よし、左だ。左に向かうぞ」

「ナーナ!」

 視線の届く範囲は転移で進む。見逃しがないように短距離で刻む。

 そして山の稜線が切れると、また広大な砂漠が出迎えた。

「本日、二体目!」


 大きな落とし穴のなかにガラスの塊が残っていた。鉄とほぼ同等の量が採れた。これは凄い。地下の城に使う分のガラスは調達できたのではないだろうか? 地下空間を照らす明かり取り用の巨大ガラスにはまったく足りないが。いい兆候だ。

「明日は倉庫整理かも」

 かもじゃなくて、倉庫整理だ。

 子供たちには鎧を剥いで鉄を取る必要はもうないと伝えておかないとな。



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