表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/553

クーの迷宮(地下19階 トロール編)続ヘモジクエスト?

 しばらくすると別の群れか、また頭上でキーキー言い始めた。

「大声で集合の合図を掛けてから身を潜めたって駄目だろ」

 配置がもうばればれだ。

「ナーナ……」

 陽動が前方をこれ見よがしに飛び交い、こちらの注意を誘う。前に気が向いている間に、本命が静かに後ろから回り込むというワンパターン。

 風切り羽根があったって結界にぶち当たってちゃ意味がない。

『雷撃』一閃。

「一丁上がり」

 結界を狭めたので今回の落下ポイントは遠くない。

 盗めるものなら盗んでみろ。

 仲間の骸目当てに上空を旋回する愚か者。一刻前に雷を落とされたことは既に頭にないようだ。

 僕は雷を追加した。

 風の魔石(中)ぐらいたまに出るかと期待したが、完全に徒労に終わった。

「ナーナーナ」

 ヘモジも時間の無駄だったと憤懣(ふんまん)やるかたない。

「髪の毛乱れてるぞ」

「ナ!」


 山頂にくたびれた見張り小屋があった。煉瓦造りの塔の先端にハーピーたちが群れていた。壁も周囲も糞まみれだった。

「村人はどこだ?」

 小屋を一周すると地下に反応を見付けた。どうやら足元に縦穴が開いているようだった。奴らの餌場といったところだろう。村人たちはそこに押し込められているようだった。

 何度も言うが、なんで捕まった?

 いくらハーピーの翼が堅固だろうと成人したトロールを持ち上げられるとは到底思えない。追い立てて穴に落とすにも場所が場所だ。

 理由はどうあれ、村人たちは発見した。

 救出を邪魔されたくないので、まず鬱陶しいハーピーを排除することにした。

「ナナーナ」

「一体でかいのがいるな」

 ここの主らしき反応だ。

「それなりの魔石を期待する」

 今度は雷じゃないぞ。大きな岩を塔の上に生成する。

 ハーピーたちはわめくだけで為す術がない。

「塔ごと破壊してやる!」

 大岩が塔を押し潰した。

 ギャアアアア。というおぞましい叫びが空に響いた。

 砂埃を上げながら倒壊していく煉瓦の塔。僕たちは結界を張って粉塵をやり過ごす。

 いたずらが過ぎた。ゲホゲホ。

 一際大きな黒い翼の影が薄闇に浮かんだ。

「あいつが誘拐犯だと言うなら納得できるな」

 トロールを誘拐できる程の巨体がそこにあった。

 やせ細っていた取り巻きと違って、一体だけ芋虫のようにぶくぶく太った奴だった。どこかのクイーンを彷彿とさせた。

「前言撤回。あれ飛べるのか?」

 悪態が聞こえたのか、いきなりの『ハウリング』!

 甲高い音の振動に一瞬、身が竦む。

 意を汲んだかのように小者たちが一斉に襲い掛かってくる!

「悪いな、効かないんだ」

 雷の雨を降らせてやった。

 雑兵は元より、親玉の羽もあっという間に穴だらけになった。

 悶え苦しむ親玉ハーピー。錐揉みしながら落ちていく雑魚供。

 巨大な翼を振り回して巻き込んでいく。

 もはや翼は折れた箒のようだった。

 長過ぎる翼を引き摺りながらこちらに噛み付いてくるが、牙もない醜容では恐怖こそすれ脅威にはならない。

 ヘモジが容赦なく鼻面をぶっ叩いた。

 長い首が弓なりにしなったかと思うと、そのまま地面に突っ込んで絶命した。

「弱っ!」

「ナーナーナ」

 翼持つ者が地を這っているようではそもそも問題外だ。

「しまった。レベルの確認忘れた!」

「四十…… 言う前に死んだ」

 オリエッタがリュックの隙間から首を出した。


 村人を救出しよう。

 傾斜を降りた先に、地面に開いた大穴があった。大小二十体程のトロールが放り込まれていた。

「ナーナーナ!」

『オオー、ユウジャザマ! ダズケニキデグダサッタノカ』

 僕もいますけど。

「ナナーナ」

 ヘモジの合図でトロールたちが一角を空けた。

 僕はそこに階段を造った。

 階段をゾロゾロとトロールたちが上がってくる。草原トロールたちも一緒だ。

『アイズラ、コレヲネラッテイタンダ』

『コデ、ユウジャザマノタベニ、ズグッタ』

 そんな調子のいいことがあるものか。と思いつつ成り行きを見守る。

 ヘモジに渡されたのは『力の(メギンギョルド)』というアイテムだった。神通力を二倍にするという神器であるらしい。神通力とはミョルニルに宿る力のことのようだ。

 今のままで充分だろ!

 ヘモジはありがたく貰うことにしたようで、でかく立派なトロールの革の帯が手渡されると、気の毒な程小さくなった。

「制作者だったらきっと泣く」

 オリエッタに同意する。

『ザア、ブラニボドロウ』

『ユウジャサバモ、ゴイッショニ』

「ナナナナナーナ」

 ヘモジはアイテムの回収をしてから後を追い掛けると言って、村人を先に帰した。

「どうした?」

「ナナーナ」

 ヘモジの家がここにあるはずだったと言う。聞けば、エルーダのこの場所にはこのおどろおどろしい山はなく、盆地があってそこにヘモジの村が数件、軒を並べてひっそりとあるらしかった。

 里帰りが叶わないと知って、少し気落ちしたようだ。

 僕も残念だよ。

 ヘモジを抱え上げて、肩に載せた。

 召喚を解除すれば当人はいつでも戻れるらしいが、僕たちを招待することはエルーダ迷宮であっても叶わないわけで……

 それが寂しいのだろう。


 回収を済ませた僕たちは一気に草原トロールの砦まで転移した。

 因みにボスが残した魔石は風の魔石(大)だった。

 こちらの方が明らかに先に到着したはずだが、救出された村人たちは既に待ち構えていた。

「ザア、ザア。シュビン、ズワル、ズワル」

「オザケ、タラフグ」

 砦の麓の野原で宴会が始まった。大勢のトロールが詰め掛けた。

 トロールが作った濁酒。全身が浸かる程大きな器になみなみと。なんの肉かわからない肉の丸焼きと木の実の和え物。小麦の粉を丸めて焼いただけの巨大パン。中は火が通っておらず、ヘタだけを戴く。トロールはドロドロのままの小麦粉をクリームのようにおいしそうに口に放り込む。

 とても褒められた料理ではなかったが、ヘモジは楽しそうだった。

 クエストが終わってしまえば言葉も交わすことができなくなる者たち。

「酔ったかな」

 現実世界でもちょうど昼時だ。みんな何を食べているのやら。


 宴会はトロールたちが酔って寝てしまって自然消滅した。

 珍しくヘモジも寝てしまっている。オリエッタと場所を入れ替わり、ヘモジはリュックでお休みだ。

 まだ探索途中なんだけど。

 街道をひたすら進む。

 たまに空に鬱陶しいのが飛んでいるが、襲ってくる様子はない。

「迷宮としてどうなの?」

「たまにはいいんじゃない?」

「実入りの少ないクエストだったな」

 元々魔力持ちの僕が召喚主だからヘモジは全力を出せているわけで、常人ならばヘモジの能力を二倍も底上げしてくれる『力の帯』は優秀なアイテムだったのかも知れない。

 素の状態でドラゴン倒せちゃってるしな……

 実入りがないなら長居は無用。さっさと出口を探して、読書でもしよう。


「どうだった!」

 ゲートの外で待ち伏せしていた姉さんが僕の首根っこを押さえ込む。

 仕事はどうした!

「近い! 顔近いよ!」

 周囲の人たちの視線をこれでもかと集める。

「ヘモジは!」

「リュックのなかで寝てるよ」

「そっちのヘモジじゃない! クエストの…… なんで寝てるの?」

「酔いつぶれてるだけだよ」

「なんで?」

「宴会してたから」

「こっちはずっと待ってたのに…… 何してたのよぉおおおおお!」

 浮気を問いただされる男のように襟を掴まれシェイクされる。

「あわわわわわわ」

 気が遠くなる……

 周囲の視線が集まってきたことにさすがに姉さんも気が付いて、酩酊する僕の手を引いてその場を離れた。

 ヘモジ…… 生きてるかー?

「ウプッ」

 ヘモジが自主退場した。


 展望台の屋台でポポラのジュースを買って、展望台の欄干に寄り掛かる。

「クエストはあった」

 姉さんの瞳が見開かれる。

「シチュエーションも近いものがあった」

 拳を握り締める。

「乙女か」

「うるさい!」

「残念ながらヘモジクエストを攻略した者への追加クエストだった」

 一気に影が差す。

「だから、わからないとしか言いようがない。ヘモジを持たない者ならヘモジクエストになるのかもしれないし、ならないかもしれない」

「自分で試さないとわからないということか……」

「今のところ十九階層をソロで歩ける者は限られているからな。ハーピーを相手にするよりヘモジクエストの方が危険だろうけど」

「ハーピー?」

「今回のクエストで戦う相手さ」

 姉さんが大きな溜め息をつく。

「さっさと飲んじゃいなさい。帰るわよ」

 まるで敗残兵だ。

「攻略ルート後で教えなさいよ」

 ここで肩を抱こうものなら鉄拳制裁が飛んでくる。それでも抱き寄せたくなる程細い肩。

「そんな撫で肩じゃ、ヘモジは肩に乗せられないな」

 姉さんは背筋を伸ばした。

「生意気」

 いつもの姉さんになった。

「お酒買って帰るわよ」

「えー、家のから消費してよ」

「きついのが飲みたい気分なのよ」

「何にする?」

「ファーレーン産のグラッパを」

 僕はボトルを一本買ってリュックに収めた。


 家に戻るとヘモジがケロッとしながらスフォリアテッラを食べていた。

「今日のデザートはパイか」

 パイ生地にリコッタのクリームを挟んだ貝殻の形をしたお菓子。

 僕はグラッパの瓶を夫人に手渡し、装備を置きに自室に戻った。

『力の帯』はどうしたものか。レアアイテムだから貴重品用の保存庫に放り込んでおくべきか。

「浄化だけしてヘモジ用の衣装ダンスに仕舞っておくか。付けないんだったら……」

 重い読書をする前に僕も休憩しよう。


「新しくいらしたギルドの奥様が置いていかれまして」

 スフォリアテッラが三つ載った皿とお茶が目の前に置かれた。

「リーチャさん来たんですか?」

「お姉様をお探しにいらしたようですけど、見付からなかったらしくて。今はラーラさんとギルドハウスの方に」

 あんな目立つ場所に立っていて見付からないということはない。故意に身を隠したのだろう。

「冒険者ギルド?」

「いいえ、『銀団』の。迎賓館の上に直通のお屋敷を一軒建てたそうですよ」

「結局、地上に造ったか」

「地下はお姉様が乗り気でなかったようで。地下の謁見の間は潰して劇場や図書館に改装なさるそうです」

「劇場もか。凄いな」

「子供たちは秘密基地だと言って喜んでますけど」

「あいつらにはあのまま幽霊屋敷の方がいいかもな」

「住人の憩いの場所が増えるのは、うれしいことですわ」

 そのためにはガラス集めしないと。いつになることやら。鉱石も魔石も集めなければならないし。

 あー、問題山積だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ