クーの迷宮(地下17階 アースジャイアント戦)王党派はうなだれる
9日分がアップされてませんでした……
13日分は予定通り今夜アップします。すいません(とほほ……
「罠部屋だよ」
子供たちとヘモジは扉に張り付くと、ゆっくり押し開けた。
「ナナ?」
ヘモジが中を覗き込む。
「ナナナ」
アースジャイアントはいなかった。扉の隙間から三角マークを探す。
「どうだ?」
「左向いてる」
ヴィートが言った。
「左?」
「扉を入って左」
「メモ書きでいうと下か?」
「ナ」
「うん」
「ちょっと待ってろ」
罠部屋のなかに入って左に面した壁も確認しておく。
「仕掛けはないみたいだな」
やはり追加で現れる通路が正解への道なのだろう。
僕たちは三角マークの示す方角に進んだ。
迂回できない通りの角で敵に遭遇した。
わざと見付かった子供たちは結界を盗賊の足元に展開して足を引っ掛けた。
アースジャイアントは向かいの建物の扉に突っ込んだ。が、扉はびくともせずアースジャイアントの頭は跳ね返った。
「うわっ」
「痛そう」
自分たちでやっておいて眉をひそめた。
倒れ込んだアースジャイアントの頭が地面と激突した瞬間凍り付いた。『氷結』程の威力はなかった。
「『無刃剣』!」
氷塊が内側から真っ赤に染まった。
「最近のトレンドなの」
ニコレッタが言った。
「こうすれば血が飛び散らないから回収し易くなるんだ」
ヴィートが言った。
「だったらあのまま凍らせた方がよかっただろ?」
子供たちは愕然となって、なぜかイザベルを見た。
僕も視線を向けると困った顔をして「ラーラが手本を見せたのよ」と言った。
しまった! 教師の威厳が。
ラーラは婆ちゃんと一緒で考えるより先に身体が動くタイプだ。理屈は後回し、というより基本考えない。それでも結果と理屈が後から付いくるから爺ちゃんも僕も何も言えない…… 言い訳考えなきゃ。
「ラーラは昔『氷の剣』を使っていた時期があるから、そのときのイメージが強過ぎたんだろう」
「氷の剣?」
「便利な武器だったからな。触れた相手を一瞬で凍らせられる」
「すげー」
「元が中層の拾い物だったから、下層の大物には威力不足だったんだ。だからそのうち使わなくなったけどな」
「中級魔法は魔力使うから節約。喉渇いた」
オリエッタがリュックから頭を覗かせた。クッキーの甘い香りが漂ってきた。
「お前な……」
「暇だったから」
「デブ猫を肩に載せるのは嫌だぞ」
「水!」
僕は爪の先程の氷を宛がった。
オリエッタの言う通り『氷結』魔法は中級魔法だ。魔力消費はそれなりにある。でも『無刃剣』と比べてどうなんだと言われるとどうだろう? 微妙なところだ。
単品なら兎も角、敵が複数いたと仮定したら……
子供たちの現有能力を考えると、乱戦には即効性がある『無刃剣』の方がリスクが少ないのかもしれない?
「複数の敵を相手にするときはラーラのやり方の方がいいかもな……」
「そうなの?」
「今はまだな。『氷結』を余裕で決められるようになったら話は別だけど」
午前中、充分装備品を剥がしたと言うので、午後は免除した。高価そうな装飾だけ確認して先に進むことにする。
通路の先に同様のエリアがそれとなく続いていた。
「ええと、罠部屋は……」
パターンを参考に九マスの中心を探した。
「あったよ」
「あ」
敵がいた! 九マスの角辺りで王党派と戦闘を繰り広げていた。
「戦わせておきましょう」
イザベルが言った。
「謎を解く方が先だよね」
僕たちは遠巻きに通り過ぎた。
罠部屋の扉の隙間からヘモジが中を確認する。
「ナーナ」
指を四本立てた。
「ナナナ」
「『兵士が四体』だって」
王党派側でプレイしているので兵士には襲われない。
一応、警戒しつつ天井を確認しに向かう。
「味方が戦ってるんだから応援に行けばいいのに」
トーニオが言った。
三角マークの向きを確認すると、入ってきた扉から外に出た。
「今度は上だよ」
罠部屋に入った扉の向きがメモでいう上を向いているわけだから、最初に侵入してきた方角から考えると左ということになる。
こうして僕たちは三角マークが示す方角に向かって四回進んだ。
上を北とするならば、東西南北の四つのエリアを一周した格好だ。床が平らなら最初のエリアと今いるエリアは被っているはずなのだが、その様子は見て取れない。
「三角がないよ」
頼りの目印がなくなった。となれば、ここにゴールへの道があるということだ。
外周をぐるりと回ると見慣れぬ大扉がこれ見よがしにあった。
「一歩前進だ」
トーニオが言った。
「やった!」
子供たちは努力を讃え合って、手を叩き合った。
扉を開けると景色は一変。白亜の御殿だった。
僕たちは真っ白な廊下をひたすら歩く。コンパスの短い足では離れ部屋に向かうのも一苦労だ。
床も柱も大理石だった。おまけに金をあしらった化粧まで。
ギィーンと金属が振動するものすごい音がした。
と同時に地面が揺れた。
「うわッ」
一回り大きな巨人同士が奥で戦っていた。
先日見た『キングジャイアント』と黒装束姿の『アースジャイアント・ヘッドリーダー』である。
「なんだ、場所変えただけかよ」
ジョバンニが言った。
先日は謁見の間だったが、今回はその奥、王族の生活空間の一室のようだった。確証はないんだが。
今回、僕たちが荷担するのは王様側だ。
「一斉攻撃、始めッ!」
子供たちの一撃を浴びて黒装束が体勢を崩した。そこへ王の巨大な棍棒の一撃が炸裂した。
すると別の扉が開いた!
「ナァア?」
敵味方、双方の援軍が決して広くはない部屋になだれ込んできた。
「めちゃくちゃだよ!」
ニコロが叫んだ。
僕たちは物陰に隠れた。
乱戦になってしまった。
「ナーナ」
ヘモジは鼻をほじって成り行きを見守っている。手を出す気はないらしい。
盗賊団にこちらを相手している余裕はない。
子供たちは慌てることなく近場から一体ずつ片付けていった。
盗賊が減っていく度にこちら側は数的優位を築いていく。が、中心にいる二体は反則的に強かった。
攻め込んだら最後、雑魚はあっという間に粉砕、帳尻を合わされる。
結局、二体が最後に残った。
加勢した見返りとして黒装束の方が疲弊しているのは明らかだった。
それでも……
「放っておいたらいつまでも終わらないんだろうな」
手を貸す以外の選択肢がないのが、この手のシナリオの定石だ。
木材回収という意味もあって、僕は散らばっている棍棒を香木であるかないかにかかわらず転移して回った。転がってると視界が塞がれ、危険だったし。
子供たちは氷結魔法で黒装束の動きを封じる作戦に出た。
「膝よ!」
ニコレッタの号令に合わせて放たれた。
王の一撃が動きを止めた敵に何度も叩き込まれた。
「いいぞ、王様! その調子!」
そしてついに……
とどめの一撃が前回とは逆に黒装束のヘルムに落ちた。
崩れる盗賊のリーダー。
王は雄叫びを上げた。
衛士たちがどこからともなくゾロゾロ現れた。
王は抱えられるようにしてあっという間に部屋から連れ出されてしまった。
「あんなにいたんなら最初から手を貸せよって感じよね」と、ニコレッタが言った。
『よくやってくれた。褒美を取らせよう』
王の言葉が天の声となって頭に飛び込んできた。
「心話だ!」
ヘモジで慣れているとはいえ、皆、跳び上がった。
壁に仕込まれていた隠し戸が開いた。
これまたでかい宝箱が現れた。
金と銀があしらわれた豪華な箱だ。
でか過ぎて面倒臭い……
子供たちは魔法で階段を作り、鍵穴までの道を造った。
「ナーナンナ」
ヘモジがぴょんぴょんと跳ねながら階段を登る。
子供たちが一斉に結界を張った。十層近い結界がヘモジを覆った。
「ナァ?」
『迷宮の鍵』を持たずともあっさり開いた。
「褒美だしね」
「鍵掛かってたら怒るよ」
階段を継ぎ足して、皆、宝箱の縁まで駆け上がる。
「凄いわね」
イザベルが感心した。
金貨の山だった。
「でも金貨って嵩張るんだよね」
ヴィートが言った。
「その通り、重いだけで額面通りの価値にしかならない」
宝石や宝飾の類いなら、同じ重さ、大きさでも金貨十枚や百枚やらになったりもするのだが、金貨は金貨だ。十万ルプリ以上でも以下でもない。
それでも当分遊んで暮らせるだけの枚数はありそうだ。
数えるの大変だな……
「いつ消えるかわからないから急いでやるぞ! 全員、回収袋に詰めるだけ詰めろ。口を結わえた物から転送するからな」
ヘモジを見張りに残して、僕たちは金貨の山に飛び込んだ。
山を崩すようにして回収袋を満たしていく。重過ぎるから口を結わえた物はその場に放置だ。
「崩れるわよ!」
「ちょっと上から順番に掘りなさいよ!」
「一度落ちたら這い上がれないんだよ!」
「助けて、足抜けなくなった」
「頑張って掘れ」
「全然減らないよ!」
「こっち袋、もうないよ!」
「凍らせろ! じゃなかったら箱作れ」
回収袋を使い果たした子供たちは金貨を凍らせて大きな金の器を作った。そしてその器のなかに金塊を放り込んでいった。
「子供の発想って予想外」
オリエッタが舌を巻いた。
「後が大変ね」
イザベルも頭を掻いた。
消え去る前になんとか回収し終えた。
「あのさ、宝箱ごと転移しちゃ駄目だったのかな?」
例外はないと思うが、後学のために試みた。が、やはり駄目だった。
部屋のなかの装飾品ももしやと思い、いくつか触れてみたが、やはりエルーダのようにはいかなかった。
王様が出ていった扉は固く閉じられ、開くことはなかった。
「終わり?」
なんとも気の抜けた終わり方になった。
子供たちも半信半疑だ。
例の部屋の『クイーンジャイアント』の出番もなかったし。
「盗賊ルートもやっておいた方がいいかもな」
「盗賊の村から始めるのはまだやってないもんね」
「出口を探そう」
来た道を戻るしかない。と思って部屋を出たら来たときにはなかった扉を見付けた。
「イベントクリアしないと出ない扉か?」
僕たちは扉の奥に進んだ。
「あ!」
前回、見付けた出口の手前に出た。
「終わったー」
「ノルマ達成!」
「まだよ」と、ニコレッタ。
「はぁ…… 倉庫整理か」
子供たちはうなだれた。




