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クーの迷宮(地下18階 鏃海老&隠れ岩蟹&ジャイアント・スクィッド戦)イカもいかが?

「あれ、あれ!」

 オリエッタにポンポン頭を叩かれた。

 海面が下がったのか?

 さっきまでなかったルートが島の反対側に忽然と現れた。

「潮が引いたのか?」

 僕たちは新たに現れた砂州を渡った。

 その間、敵は出現してこなかった。ただただ日差しがきついだけだった。

「コリコリ」

「ボリボリ」

 カランコロン。

 小さな氷を氷の器に入れて、舐めながら進んだ。

 時より海のなかに嫌な反応が現れるが、無視して先を急いだ。

「どうせでっかい蟹だろ」

 対岸の島に到着すると標高が緩やかに上がり始めた。踏み固められた道らしきものが坂の上へと続いている。岩と緑が増えてきて、やがて土肌が地面を完全に覆った。

 弾力がなくなった足元はいつもより固く感じられた。

 感覚というのは厄介だ。絶対値を揺るがす。立ち位置が揺らぐのは魔法使いにはよろしくない。

 そんな細かいこと気にしたことないけど。

 感覚が戻るのを待ちつつ周囲を索敵する。

 が、森のなかに反応は一つとしてなく、肩透かしを食らった。

 もしかしてさっきの反応は階層のボスだったか?

 この気の抜けた感じは大物の支配領域、縄張りのような……

 だとしたら…… 

 だとしてもこの低層でこの領域…… 広過ぎる。

 どんな敵なのか?

「確認しておいた方がいいか…… やるぞ」

 魔弾を海面に撃ち込んだ。

「釣れるかな?」

「お」

 反応が動いた。近付いてくる!

「ナーナ?」

 遠くを望むヘモジとオリエッタ。

「コリコリ……」

 海面が徐々に盛り上がってくる!

 こりゃ大物だ!

「ガリッ」

 ヘモジが口に含んだ氷を噛み砕いた。

 巨大な鞭のような物が、数本、風を切り裂いた。

 と思ったら、地面が吹っ飛んだ!

 綺麗なカーブを描いていた砂州が真っ二つに分断された。

 雨でもないのに飛沫が丘の上まで降ってきた。

「あの脚!」

 オリエッタが目を見開いた。

「ナナーナ!」

「十八階層だぞ!」

 海の魔物と言えばあいつである。あいつと言えば海の魔物の代名詞である!

「クラーケン!」

 巨大な頭が思わせぶりに海面からせり出してくる。

「あれ?」

「違う?」

「クラーケンの子供?」

「ナナ?」

「イカ?」

「タコ?」

「『ジャイアント・スクィッド レベル四十』! イカ!」

 オリエッタが断定した!

「紛らわしい!」

「ナーナ!」

「手に何か持ってる?」

 手じゃなくて触腕だけど。

「蟹だ。食いかけの隠れ岩蟹」

 比較するとイカの大きさがわかる。やっぱでかいな。

「やり過ごすか。こっちの隠遁に気付かずに、目の前を素通りされたお間抜けだ。正体さえわかれば、いつでも」

 食事中のようだし。

「もう手遅れ」

 オリエッタが言った。

「は!」

 ヘモジがいない!

 ヘモジの身体は既に宙に舞っていた。

 丘を飛び降り、落下の真っ最中だった。

 いくらヘモジでもこの高さは……

 姿が消えた。

 次の瞬間、土砂を巻き上げ、巨大なトロールが大地に降り立っていた。

 ヘモジが吠えた!

 触腕が鞭のようにヘモジに向かってくる! 左右、続け様に二本!

 ヘモジは地面を蹴った! そして最初の一歩でイカの懐に入った。

 触腕はヘモジを捉え損ねて地面を叩く。

 足元が揺れた。

 ヘモジは触腕を掴むと、足を踏ん張り、ぶん投げた!

 イカが宙に舞った!

 残りの足は為す術なく風になびいた。

 空を覆う程の巨体が頭上に降ってきた。

 が、失速して足元の岩盤に頭から突っ込んだ。

 ちぎれた触腕をヘモジは投げ捨てた。

 イカは残りの八本の足を広げて威嚇、接近を拒む。だがヘモジは物ともせず接近、ミョルニルを叩き込んだ!

 墨を血飛沫のように撒き散らすイカ。

 ミョルニルが頭にある心臓部を丘の斜面諸共、叩き潰していた。

 僕たちは下を覗き込んだ。

 もたげていた足が、力尽きて地面に落ちる。

 ヘモジが勝利の雄叫びを上げた。

「真っ黒だな」

「墨ヘモジ。楽しそう」

 目が合った。

「無理だ」

 ダイブしようと思ったのか一瞬、間が空いた。残念ながら今回はこちらの方が高地にいる。

 だがヘモジは消えた。

「ナーナナー」

 目の前にポンと現れたところをキャッチした。

「お帰り」

「ナナ!」

 墨も綺麗に消えている。

 肩によじ登り定位置に戻った。

 が、何かが引っ掛かるようで、さっきまで立っていた場所を振り返る。

「どうした?」

「ポージングしてない」

 オリエッタの言葉に、がーんと衝撃を受けて膝を突いた。

「戦闘よりダメージでかいな」

 やっちゃったもんはしょうがない。というか、やってたら今頃、げそに簀巻きにされてたに違いない。


 骸の前に転移した僕たちは巨大イカを即刻、解体屋送りにした。

 サンプルにするので大まかに胴と足を切り分けるに留めた。

 サンプルの情報は冒険者ギルドに報告され、僕の提出するマップ情報と後で紐付けられることになる。

 マップ情報に記載するかはギルドが決定することだが、されてもされなくても情報料は手に入る。


「見付けた!」

 道の行き止まり、丘のてっぺんに吹けば飛ぶような掘っ建て小屋があって、そこから足元の海岸に下りる石階段が続いていた。苔生した階段を下りると、その途中に出口に繋がる祠を見付けた。


 砂地を動き回るのは結構ハードな運動になった。

 階段の踊り場から振り返れば、芋ずる式に繋がった大量の島々が僕たちの足跡となって海面に浮かんでいた。

 僕は休息がてらメモを確認、位置情報を修正する。イカの位置情報もしかり。

 ヘモジとオリエッタは木の上で時間を潰していた。

「子供たちには厳しいかな」

 今までも決して楽だったわけではないが、それどころではない。

 僕は獣人の血を引いていることもあって、足腰にはそれなりに自信があった。その僕の足が今、悲鳴を上げている。砂漠の民とは言え、子供たちの足でこの砂地行脚は苦行といっても過言ではないだろう。

 フルプレートの前衛職なんて、絶対音を上げる。

 子供たちには万能薬を多めに持っていくか、ガーディアンを持ち込むことを進言しよう。

「帰るぞ」

 木の上に声を掛ける。

 急にルートが開けたのも気に掛かる。潮位が下がったのは時間経過によるものではないだろう。トリガーは最終島に上陸することか、蟹か海老の討伐数か。他に何もないからな。謎は今後の検証課題ということで。

 僕たちは薄暗い祠に踏み込んだ。


 子供たちが食堂のテーブルに突っ伏していた。

「どした?」

 ラーラが苦笑いする。

「判子持っていった奴が見付かんないんだよ」

「盗賊の村も全滅させたのに」

「もう一方の村は?」

「手遅れ」

「前と同じ」

「お前ら先手打ったりしてないよな?」

「先手って?」

「盗む前の盗賊、倒したんじゃないかってこと。今朝、早かったろ?」

「あ」

 全員が固まった。

 思い当たることがあるようだ。

「村に向かう途中だったかも……」

「逃げるというより、これから向かう感じだったかも……」

「でも、村はもう滅びてたし!」

「泥棒班とは別だったんだよ」

「じゃあ、判子はどこ行ったのよ!」

「本来ある場所にまだあるんじゃないか?」

「それどこ?」

「村長の家のどこかだろ?」

「師匠、午後、手伝って」

「用事があるからだーめ」

「何すんの?」

「蟹とか海老とか解体屋に送んなきゃいけないんだ」

「何それ?」

「イカの件もあるから解体屋に顔出さなきゃ」

「十八層って釣り堀か何か?」

「釣り堀であんなでかいイカ、釣れるわけないだろ。クラーケン並みだぞ」

「クラーケンって何?」

「師匠ー」

「ラーラ!」

「こっちは初日同行してないんだから」

「リオさん、小麦届きましたけど、どうします?」

 そうだった。パンも焼かないと。

「今夜焼くので、窯だけ用意しておいて下さい」

「ナーナ」

 わかったよ。

「見付けるまでだぞ。判子、見付けたら今日の探索は終了だからな。お前らもう集中力ないだろ?」

 正直、こっちがない。

 文句を言いながらも、誰も反対しなかった。

「じゃ、後はお願いね。わたしはレジーナ様の手伝いに行くから」

 地下の迎賓館かよ。

「やること山積だな」

 倉庫整理も残ってるし……

 三男もまだ戻ってこないし。一度転移したら、消耗した魔力が回復するまで戻って来られないのはわかっているけど。

 何もかもが、中途半端だ。

 しっかりしないと。今は一つずつだ。


 午後、僕は子供たちと一緒に地下十七階層に潜った。判子を捜すためだけに。



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