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クーの迷宮(地下17階 アースジャイアント戦)絡まる螺旋


「師匠、この部屋鍵掛かってるよ!」

 集落の構造は先のものと似ていた。ただこちらの破壊を免れた穀物蔵は扉に鍵が掛けられていた。

「下がってろ」

 ヘモジが前に出た。

 カチャリと『迷宮の鍵』が反応して重い扉が開いた。

 中に敵の反応はなし。

「……」

「穀物倉だな」

 子供たちは頷く。

「麦だ」

 子供たちが籠のなかに溜め込まれた麦の山を掬う。

 鍵が掛けられた場所がはずれだったためしはない。何かしらあるはずだ。

 が、それらしき物は一向に見付からない。

 床を掻き分けても何もない。

 仕切りで区切られた収納スペースをヘモジは渡り歩く。

 まじめな顔で何か覗き込んでいる。

「何にもないよ」

「麦ばっか」

 子供たちも迷走する。

 見るところは大方見たが……

 天井を見上げるもあるのは太い梁だけ。

 ヘモジが自分のリュックをバケツ代わりにして床に溜め込まれている麦をごっそり掬った。

「……」

 まさか?

「この麦持ち帰れるのか!」

「ナーナ」

「試してみるって」

 オリエッタが言った。

「回収袋に入れよう」

 まさかと思いながらも、一袋分放り込むと僕は我が家の倉庫に転送した。


 結局何も見付からず、途方に暮れた。ルートは二本あるのに片方の入口が見付からない。

「鼠じゃないんだ。蔵のなかにいても始まらないぞ」

 バンドゥーニさんの言葉に従って全員、蔵を出る。

「螺旋を描くルートはあるのだが……」

 逆に辿っていくも壁のせいで当りが付けられない。

 オリエッタが一番高い首領宅の屋根に登る。

 全員でオリエッタを見上げた。


「この辺りに何か?」

 首領宅の裏庭だが。

「何もないけど」

 オリエッタが指差す方に足場を造ってやる。

 オリエッタは足場を飛び越えながら壁の縁まで進んだ。尖った丸太の上も何のその。先端と先端の隙間にぽってりしたお尻を埋めながら下を見下ろす。

「あっち!」

 飛び降りてきて逆走だ。

「あった、あれ!」

 眼中になかった崩れた家。子供たちが破壊した物か、元々壊れていた物か。瓦礫をどけていくと、地下への階段を見付けた。

 鉄格子?

「ここってもしかして…… 留置所か?」

「うう……」

 奥から唸るような声が微かに聞こえる。

「うう……」

 奥から聞こえる。

「何かいるよ!」

 子供たちにも聞こえたようだ。


 牢屋のなかにくたびれたアースジャイアントがいた。身なりは派手で祭司のようだった。

 今にも死にそうなかすれた声で呟いた。

「お…… お…… 助げてぐで」

 しゃべった! 

 震える手で足元を指差すと事切れてしまった。

「なるほどね」

 エルーダの迷宮では地下にいたのは王様か后だった。

 まさかの襲撃を受けているらしい。

 僕たちの立場も盗賊たちと何ら変わりないのだが。子供たちは正義感に燃えた。

「悪党はぶっ潰す!」

「ナナーナ!」

 話をまとめると金印の村から進む道が王の御前へと続くルートだったようだ。であるとするならばこの囚人の指した先は?


 盗賊団発見!

 立ち往生する盗賊たちがいた。

 場所はエルーダで言うところの巨人の巣窟だ。トラップ用の最終スイッチがある巨大な地下空間だった。

「今回はスイッチないんだな」

 折角人数を揃えてきたのに。隊を分ける必要もなかったわけだ。

 目の前では第三勢力と盗賊団の戦闘が行われていた。

 対峙している別派閥を仮に王党派と名付けよう。

「なんか戦ってるよ」

 王党派は完全武装だった。盗賊団よりレベルが若干低いが、その分ガチガチのプレート装備である。死んだら素材にしてやろう。

「ただで魔石が手に入る」

 子供たちは正義の味方をさっさと放棄して、傍観者に鞍替えした。

「どっちが優勢?」

「五分五分かな」

「介入しなかったらいつまでも終わらなかったりして」

 イザベルが嫌なことを言う。

「でもあながち間違ってはいないかも」

 盗賊団の増援が別ルートから現れた。

「あっち行ってみるか?」

 盗賊の群れはこちらを見ると烈火の如く怒り、牙をむいた。

 子供たちは嫌々配置に就いた。

 そして雷の雨霰。

 視界の開けた場所では圧倒的な破壊力を発揮した。

「弓!」

 敵弓使いが『もどき』を受けて吹き飛んだ。

 じわじわと子供たちが前進する。

 突破してくる敵には足止めの軽い一撃を。そして手が空いた者が、近いところから順にとどめを刺していく。こちらの結界まで到達する者はいない。

 敵を来た道に押し返しながら距離を狭めていく。

 王党派の増援もやってきた。その甲斐あってか、背後では王党派が優勢に転じていた。

「橋を落とせ!」

 吊り橋が敵諸共、奈落に落ちた。

 退去した群れは対岸に置き去りとなり、戻っては来られなくなった。

 子供たちは全員反転、ニコニコしながら戻ってくる。

「いえーい」

 師匠と全員、ノリノリのハイタッチだ。

「向こうも終わりそうだな」

 王党派と僕たちはどう対峙すべきか。

「労せず魔石が手に入るのはありがたい」

 上を見るともう一つの螺旋が王党派の先に見える。

「あちらから下りると王党派の増援扱いか、はたまた盗賊の急襲部隊扱いか」

 それはこちらから下りた僕たちも同じだが。

 子供たちは万能薬を舐めながら次の戦闘に向けて呼吸を整える。

「合流ポイントがちょうど乱戦会場の中心ってことか」


 最後の一体が倒れた。盗賊側は完敗だ。さて、王党派はどう出てくる?

 姿を晒しているこちらには見向きもせず、王党派は下がっていった。

 残ったのは巨大ながらんどうと巨人たちの骸だけ。

「魔石を回収しよう」

 ついでに装備も素材に変えよう。

「あいつらも棍棒なんだな」

「プレート装備に棍棒って似合わねー」

「あった!」

 オリエッタが棍棒の上で踊った。

「香木二本目ゲットか」

「お宝、お宝」

 流通に乗らなければ、ただの古木だけどな。

 僕は香木を転送した。

「さて、これからどうしたものか」

 敵対しない敵を討つか……

「魔物はすべて敵と定義するなら、こだわる必要はないんだけど」

「師匠!」

「ん?」

「変な扉、見付けた!」

 子供たちが見付けた扉は見たことのないデザインの扉だった。

「『開かずの扉』ではないな」

『迷宮の鍵』を使っても閂は元より、閂を留める錠前すら外れず、魔法でも破壊できなかった。

 ただ、盗賊たちの骸を見る限り、彼らはこの扉を目指していた節がある。

「中に何があるんだ……」

 最後の手段を使うことにした。

 細身の剣身がきらめく。

 切っ先は扉をギリギリの所でかすめるが、軌跡は扉に刻まれた。

 ゴンと真っ二つになった金属製の重い閂が床石を穿つ。

「すげー……」

 ヴィートを初め、子供たちが立ち尽くす。

 ギイイイッ。分厚い扉が、切れ端を落としながらゆっくり開いた。

 暗闇へと進む階段が現れた。

 僕たちはしばし脱線することにした。

 巨人の階段程下りにくい階段はない。

 光源だけ先に落として僕たちは深部まで転移した。

「ナーナ」

 ヘモジが万能薬の小瓶を僕に差し出した。

『無双』を使って目減りしたスタミナと転移によって低下した魔力の回復に努める。


 階段の先にあったのは粗悪な塗り壁に囲まれた悪臭漂う空間だった。

 投入した光の玉と子供たちの光の魔石が全貌を露わにする。

「牢屋?」

 アースジャイアントの骸が鉄格子の向こう側に転がっていた。

「牢屋というより、収容所だな」

「反応ないね」

「みんな死んでる……」

 それも雌ばかり…… アースジャイアントの美醜はわからないけれど、どれもまだ若く思えた。

「どういうこと?」

「悪党は王党派も同じと言うことかな?」

「あいつらが身をやつしたのは国の悪政のせいというわけか」

「チープなシナリオね」

「どうするの?」

「全員死んでいる理由がわからないな」

 若い村娘を誘拐したのなら、利用価値は別にあるはずだ。牢に入れておいて殺すというのは…… 殺すことが目的なら、わざわざ牢に入れることもない。

 それとも盗賊側が勝利していれば事態は変わっていたのか?

 僕たちはもう少し探ることにした。

「魔石になんないね」

 子供たちを遠ざけながらの作業だが、今更だな。

 刃物による死ではないことはすぐにわかった。

 監視兵も一緒に毒でやられている。

 状況打開のヒントがないものかと探すも何もない。どうなってるんだ?

「まるで舞台裏だな」

 バンドゥーニさんが言った。

 言い得て妙だ。

 死者は人形のように動かず、じっと出る幕を待っているようにも見える。舞台はセットのようで風すらそよがない。

 まるで時が止まっているかのようだ。


 奥の一角に一風変わった骸が転がっていた。

「これは……」

 クイーンジャイアント…… エルーダ迷宮においてはフロア最深部の『開かずの扉』の住人にして、真のボスキャラだった。

 あちらはぶよぶよのレベル五十だったか、こちらのクイーンは周囲の者とさして変わらない。むしろ細身だ。着ている衣装だけが当人であろうことを示していた。

 オリエッタが首を振る。

 死人にレベルなしか。

「チッ」

 思わず舌打ちした。

 どう解釈しろというのか。盗賊に身をやつしていた連中が実はクイーン派だったとか?

 クイーンとキングが対立?

 あちらの世界では王は婿養子扱いだったけど…… 権力闘争か?

 扉を無理矢理開けたのは間違いだったか。


 収穫がないまま、僕は巨人の巣窟にゲートを開いた。

「え?」

 事態が急変していた。

 僕が顔を出したとき、王党派がずらりとヘモジたちを取り囲んでいたのだ。

「あれ?」

「兵隊じゃん」

「なんで?」

「師匠なんかした?」

「何もしてないぞ。そこの扉を破壊する以外はな」

「それだ!」

「これは、これは」

「秘密を知られて、口封じみたいな?」

 バンドゥーニさんとイザベルもゲートから出るや剣を抜いた。

「むちゃくちゃだよ」

 ヴィートが的確なことを言った。

「どこかでストーリーが絡んだみたいだな」

「あそこだよ、あそこ」

 子供たちが壊れた扉を指差した。

「もうどちらの派閥も敵扱いでいいか」

「ストーリーをなぞるのはまた後日な」

「日を変えてやり直しますか?」

「何かのクエストだったら勿体ないわよ」

「そりゃそうだけど、もうストーリーがぐだくだだし」

「兵隊さんに襲われてるってことは、俺たち盗賊の仲間ってことだろ?」

「じゃあ悪い王様をぶっ倒そうぜ!」

「そうだな。進行中のフラグだけでも消化しておくのも手だな」

「師匠! やっちゃうよ」

「やっちゃうからね!」

「好きにしろ」

 結界にへばりついていた敵兵が一斉に『電撃』を受けて石畳みに沈んだ。

「なんか楽勝だったね」

 子供たちはあっけらかんとしていた。

「驚きを禁じ得ませんな」

「わたしの『電撃』より威力あるわよね。自信なくすわ」

「香木探す!」

 オリエッタが肩から飛び降りて、ヘモジと駆け出した。

 子供たちは魔石の回収まで休憩。僕の装備回収も骸が魔石に変わってからだ。

「師匠、普通の棍棒は持ち帰らないの?」

「ん?」

「木材は貴重だよ」

「お金にはなんないけど、木工とかできるよ」

「言われてみれば……」

 砂漠において木は貴重だ。値段じゃないか。

「持ち帰るか?」

 そこら辺の木を切り倒しても持ち帰ることはできないが、装備品としてなら。

 子供たちが頷いた。

 子供たちは明後日の方に転がっていく棍棒を蹴飛ばしながら修正して一カ所にまとめていった。

 魔石も回収して、他の装備品も回収して、いざ最深部へ。

「お昼だー」

「ご飯、ご飯」

「お腹空いたねー」

「今日は何かな?」

「帰ろ、帰ろ」

「師匠ゲート出して」

「……」

「時間に正確」

「いい弟子だな」

 イザベルとバンドゥーニさんに皮肉られた。

 ようし、決戦は昼食後だ!



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