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クーの迷宮(地下17階 アースジャイアント戦)もどきーッ!

「ストーリー的なものを一つ飛ばしてるような気がする」

「盗賊、倒したのまずかった?」

「イザベル姉ちゃんのせいだ」

「なんでよ!」

 子供たちが笑った。

「あれはこの集落に来てから、追い掛けるターゲットだったんじゃない?」

「芋判、芋判」

「判子よ」

「あっちの集落が悪者の砦だよ、きっと!」

「ラッキーなの?」

 子供たちが顔を見合わせる。

「何言ってるかわかんない」

 工程は省けたようだけど……

「どのみち向こうにも行くことになる」

「そうね。今は進めるだけ進んでおきましょう」

 バンドゥーニさんとイザベルがいざなう。

「早く行こうぜ」

 ジョバンニが先を行こうと壁の境を越えた。瞬間、ヘモジが飛んだ!

 と思ったらあらぬ方角に弾き飛ばされた。

 飛んだ先は奈落の底。

「ヘモジーッ」

 子供たちが叫んだ。

「ナーナ」

「わっ!」

 後ろから現れたヘモジにみんな驚いた。

「お帰り」

「ナーナンナ」

 ミョルニルをシャキンと腰のホルスターに挿し戻した。

 バンドゥーニさんが慎重に前に出た。

 足元を探ると、土のなかから圧力板が出てきた。

「罠だ」

 仕込み矢が茂みのなかに隠されていた。

 バンドゥーニさんは何も言わずに青ざめるジョバンニの頭の上に手を置いた。

「ジョバンニ、結界忘れちゃ駄目でしょ!」

 ニコレッタの言葉に返す言葉もない。

 ヘモジが飛び出さなくてもニコレッタとマリーがいつも通りカバーしていたから、どのみち怪我することはなかっただろう。が、奈落に落ちたヘモジの姿に自分を重ねてしまったようだ。

「ケアレスミスね」

「落ち込むなよ」

 その通り、必要以上に落ち込む必要はない。

「それともビビった?」

 ヴィートが明け透けに言った。

「ビビってねーよ!」

 誰が見たって怖じ気づいたのがわかる。

「痛ぇ!」

 トーニオが尻を思い切り蹴とばした。

 ジョバンニが大袈裟に海老反りになって跳び上がった。

 あの温厚なトーニオが怒っている。

 僕やバンドゥーニさん、イザベルは目を丸くした。

「あんなトラップにお前をやらせるわけないだろ!」

 ミスを怒っているんじゃない。味方を信じ切れないことに腹を立てたのだ。

「そうそう、ちゃんとニコレッタお姉ちゃんとマリーがカバーしてたからね」とマリーが偉そうに杖を振る。

「柄じゃないよ」とヴィートとニコロ。

「アイス一回奢りでいいわよ」とフィオリーナがニコリと肩を叩く。

 どういう理屈だ。

「あ、それいいわね。わたし、アイスミルク、アイス大盛りでいいわ」とニコレッタも追い打ちを掛ける。

 いつか言うべきだろうが、アイスミルクの〝アイス〟は〝冷えた〟という意味であって、アイスクリームが載っていることではない。が、牧場では既にそれが当たり前のレシピになっていた。

「俺なんにしようかな……」

「僕は焼き肉でいいかな」

 ミケーレが言った。

「それ、アイスじゃないだろ!」

 チームが常に勝ち気でいられるのはジョバンニの奔放さ、積極性によるところが大きい。

 トーニオ、フィオリーナ、ニコレッタ辺りは、故にブレーキ役に徹していればよかったし、ヴィートやニコロ辺りはジョバンニの背中を追い掛けていれば前進できた。

「容赦ないわね」とイザベルがまぶしそうに子供たちを見詰める。

「いい蹴りだったな」

 バンドゥーニさんも子供たちの修正能力に感心した。

「ナーナ」

 ヘモジが戦列のトップに戻った。そしてジョバンニを振り返る。

 語る背中は小さいが、ジョバンニは勇気を振り絞って踏み出した。

 全員がジョバンニに結界を掛けた。

「嫌がらせか!」

 完全復活だな。

 僕は空から降り注ぐ瀑布を利用して水流を作ると、目の前の地面に叩き付けた。

 飛沫が子供たちの結界に豪雨の如く降り注ぐ。

「すげー」

「師匠半端ないわ」

「加減知らないわよね」

 おい、こら。

 拭われた地表に圧力板が幾つも出てきた。

 今の衝撃で発動した罠もいくつかあった。

「えい!」

「うりゃぁあ」

 子供たちが破壊していく。

 破壊に参加しなかった子供たちは土の塊を圧力板に落としていく。

 バン!

「あっち!」

 発動した罠が次々位置を晒していく。

 子供たちが順に仕込み矢の罠を破壊していく。

 そして掃討完了。

 これだけ騒いでもアースジャイアントは出てこなかった。


 僕たちは大穴の周囲を巡る螺旋を下りていく。幾つもの吊り橋を越えていくが、どこぞの砦のように迎撃してくる姿はなかった。

 僕たちは手付かずのもう一方の集落を見上げた。半周回って頭上にあった。

「反応あるな」

「うようよいる」

「どうするの?」

「ついでだから見ていくか?」

「やっていいの?」

「敵の出方次第だな」

「全員集まれ」

 僕はまず宙に跳んだ。

 そしてこちらにもあった丸太の防壁の陰に転移すると周囲を警戒。

 安全と判断すると下にいる子供たちの前にゲートを開いた。出口は僕のすぐ後ろだ。

 ヘモジが出てくると続いてジョバンニたちが出てくる。しんがりはイザベルとバンドゥーニさんだ。

「便利なものだな」

 さて、うろついている反応は敵か否か。

「ラバーだよ!」

 オリエッタとニコロとミケーレが戻ってきた。

「じゃあ、容赦しなくていいな」

 戦闘前に敵の配置を把握する。

 ルートを設定。トーニオがゴーサインを出す。

 まずは門番の二体だ。

「誘う?」

「中から出てきてくれた方がいいでしょ」

「じゃあ、ここから撃っちゃう」

 門番が大きくのけぞったかと思ったらそのまま地面に崩れ落ちた。

 雷魔法だと派手過ぎると判断したのだろう。

「『爆裂(ブラスト)』か」

 誰が教えたのかな?

 敵の目の前で爆発した。

「見たか! 『魔弾もどき』!」

 ヘモジがずっこけた。

「見た目は似てるけど……」

 どう見ても火属性だ。

「なんか似てる」

 どこが!

「こんな感じ」

 オリエッタが僕が『魔弾』を放つとき手のひらをかざす仕草を肉球をにぱにぱしながら表現して見せた。

「そっくり」

「オリエッタちゃんかわいい」

 かわいいは師匠とは関係ないだろ!

 マリーとカテリーナも手をにぱにぱしてマネをする。

「そんなに似てるか?」

「エテルノ式発動術式! 『魔弾・プライマー』もどき!」

 ジョバンニが叫んだ。

「え?」

「え?」

「ええッ?」

 頑丈な門扉が炎を上げて吹き飛んだ。

 そして火は木造家屋に広がっていく。

 見事な『火炎(フレイム)』だ。

「伝播してる。まさにプライマー」

 オリエッタがほーっと感心する。

「ジョバンニ…… お前、吹っ切れ過ぎだろ」

 ヴィートとニコロも一緒になって高笑いしている。

「次来るぞ。攻守交代!」

 トーニオが合図する。

「調査も含まれてるんだから、あんまり燃やすなよ!」

「じゃあ『衝撃波』にする!」

「師匠の『衝撃波』は一瞬静まり返るんだ」

「気持ちを高めながら、盛り上げて、盛り上げて。一点集中!」

「来たぞ!」

「とうりゃ!」

 ドーン!

 ずしりとくる重い衝撃と共に、内側の諸々が破裂して細かい瓦礫が空高く舞い上がった。

 門のなかの家々が悉く吹き飛んだ。

「燃えカスでも残っていた方がありがたいんだが……」

 ここの調査は後続に任せよう。

「そんな顔しないで。好かれている証拠よ」

 イザベルが僕の肩を叩く。

「目が笑ってるよ!」

「あれ教えたのラーラだから」

「あいつか!」

「しょうがないじゃない。あの子たち、師匠が好きで好きでたまらないんだから」

 喜んでいいものやら。

 ただ、彼らの所作の一つ一つに隙がなくなってきていることはわかる。騒いでいても警戒の目は常に周囲に向けられている。

「足りないのはもはや経験のみか……」

 壁のなかに入るも敵の攻撃はやまず、盗賊らしい嫌らしい接近のされ方をし始めると、建物が邪魔で連携の取れない子供たちはじわじわと後退し始めた。

「師匠、面倒臭い」

「言うと思った」

「敵が見えているだけ上等よ。ああ見えてあいつら隠遁能力高めよ」

 千年大蛇には遠く及ばないけどな。

「視界の悪い環境では魔法使いは不利ですな」

「でかい図体して、どこが盗賊なんだか」

「見本を見せて貰いたいんじゃない? お師匠大好き少年少女たちは」

「こういうせせこましい町並みのなかでの戦闘はバンドゥーニさんの方が適任なんですけど」

「生憎、手本にはなれんな」

「まあ、冷静になれば難しいことではないんですが」

「あの子たちが冷静ではないと?」

「狭い洞窟のなかと街中と何が違うのやら」

 物陰に隠れながら一対一の戦闘に持ち込もうと躍起になっている敵の動きをプレッシャーに感じているのかもしれない。

「地の利がないなら造ればいい。それが魔法使いというものだ」

「それが面倒臭いの!」

「変な網が屋根に掛かってて雷を防がれちゃうんだよ」

 滝から落ちてくる落下物を防止するためのネットだろうけど。確かに邪魔だな。でも……

「なんのためにエテルノ式を覚えたんだ?」

「あ」

 気付いたか。ゼロ距離攻撃に障害物など関係ない。

 集中しろ。障害の先をイメージするんだ!

「エテルノ式魔法術式! 『魔弾』!」

「もどきーッ!」

 それはもういいって。

 敵は順調に数を減らしていった。そして……



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