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合流

 いきなり副団長が操縦したいと言い出した。

 操縦を替わってくれるのはありがたいし、断る理由もなかったので席を替わって貰った。でかい獣人が操縦席に収まってくれたおかげで却って操縦席周りが広くなった。

「『補助推進装置』を稼働させて高度を一気に上げましょう」

 副団長は大きく息を吐いた。

『補助推進装置』のスイッチは出来合いのコンソールから正面パネルに移してある。スイッチを入れれば後は出力を上げるだけで、システムが勝手に付いてくる。

 オリエッタが肉球を振り回しながらパネルの使い方を説明し、ヘモジが魔石の確認をする。

 風の魔石の新品が一つ載っていたのでヘモジは大きく頷いた。

「ナーナ」

 副団長は獣人であるから、魔石頼りの操縦になることはわかっている。だから魔石は多めに積んできた。

 僕は補助席で欠伸をしながら周囲を見渡す。

 景色がどんどん加速していく。

 そして元々速さに特化した機体が、その限界を超えて空高く舞い上がった。

 副団長はまるで子供のように目を輝かせた。

「すごいな……」

 やっと口を開いたと思ったら、緊張から解放されたのか、急に笑い出した。

「まさか、ガーディアンがここまで進化していたとはね。さすが『ロメオ工房』だ!」

 僕が造ったんですけどね。

 ヘモジとオリエッタは一人分増えた重量のせいで希望の高度に達していないことに若干の不満を感じていた。

 だからって、お前たちが飛び跳ねても高度は上がらないって!


 慣れてくれば周囲の景色を見る余裕も生まれてくる。

 副団長はいつも『箱船』を任されていたから、自分でガーディアンに乗ることはあまりない。

 まして魔素の薄いこの世界で、高高度の景色を堪能することはほぼ不可能。

 副団長は自分が担当する間、急降下と急上昇の連続に酔いしれた。

 当人曰く『スクルド』のじゃじゃ馬にはお手上げだったが、これなら乗れそうだ、だそうだ。

 任せてもよさそうだと判断した僕たちは現在位置の確認を行った。

 左に流されているようなので、若干右に針路をとるよう指示した。

「ナーナ」

 魔石が早速一つ空になった。

 ヘモジが慣れた手つきで取り替える。

「さすがに消耗が早いな」

 副団長も気が付いた。

「そりゃそうですよ。現在位置はここですよ」

 地図を示したら副団長は固まった。

「はあ?」

 機体ごと後ろを振り返った。

 砦は既に地平線の遙か彼方である。

 副団長の感覚ではまだ砦と地平線の中間辺りにいる感じだったらしい。従来機ならその読みは正しかっただろう。

 操縦できる者がこれだけいれば『箱船』まで夜を徹して二日で到着することも可能だ。さすがに遮二無二なる気はないけれど。

 この後、偏西風に偶然乗ったことでさらなる時間短縮に繋がるのだが、その時の副団長の顔といったら。


 食事が簡素になるのは止むを得ないことだった。

 パンに肉や野菜を挟んでかじるだけ。

 ヘモジは蜂蜜入りの野菜ジュースを自分の水筒から注いでごくごく喉を鳴らした。

「ナー」

 締まりのない顔をする。

「マズッ」

 分けて貰った副団長は思わず口を拭った。

 それを見てオリエッタは笑う。

「飲み慣れないとね」

「そうそう」

 僕とオリエッタは素直にウーバジュースを舐めた。

 とは言え、それでも贅沢な食事だというのが副団長の感想だった。

「やっぱりデザートか?」

「ナーナ」

「間違いない」

 疲労回復にはプリンである。今回菓子に選択の自由はないが、僅かな空きスペースに頑張って積み込んできている。

 操縦は一時間交替。日差しが強くなってきたら、地上に降りて一休み。テントを張って仮眠を取る。

 涼しくなったら再び飛び立ち、星空をも駆け抜ける。操縦担当と見張り以外は高いびきを継続だ。

「なんかいる!」

 オリエッタが覗き込む。

「小者だな」

「タロスのペット?」

「キャンプが側にあるのか?」

 進路上には見付からなかったので、スルーして先を急いだ。



 三日目の朝日が昇る前に、何事もなく、若干魔石を使い過ぎた感はあるが、無事本隊に合流した。

「相変わらず目立つ船だな」

 ずらりと東に腹を向けて並んでいる大型船の群れのなかに一際目立つ白い船影。

 副団長に通信を任せながら、僕たちは集団の中央に陣取っている巨大な船を目指した。

 遠くで戦闘が起こっている。空にガーディアンが屯していた。

「気にするな。恒例行事だ」

 早朝の一時、ドラゴンタイプが偵察にやってくる時刻のようだ。

 以前砦でも似たようなことが当たり前にあったが、最近はさっぱりだと思った。

 地味に稼ぎになるんだけどな。

 砦側の戦線は後退したと考えるべきだろうか……

 防壁に塹壕、陣地の構築も進んできていた。

 タイタンを貸してやりたいところだね。

 こう見ると砦の手際のよさが光るな。大伯母様々だ。

「許可が出たぞ」

 概ね男の僕の扱いが決まったと言うところだ。

 毎回例外扱いですいませんね。

 降下ポイントはいつもの甲板、そこからいつもの格納庫に侵入だ。

「オーライ、オーライ」

 空きスペースに機体を滑らせる。

 運搬用の固定台がいいタイミングで背中から差し込まれた。

 機体は直立したまま足元を固定され、空きスペースに押し込まれた。

 機体が何機かいないところを見ると、外で参戦しているのだろうと容易に想像できた。

 要するに出入口を塞ぐなということだ。

 機体の固定が完了するとタラップが架けられた。が、副団長はそれを待たずに飛び降りた。

「団長は?」

「すぐいらっしゃいます」

 二階の通路に繋がる扉が開いた。

「寝起きかよ」

 相変わらずひどい格好でエルフが現れた。

 戦闘中だろう? 大丈夫かよ、この船。

「ルチッラ? どうしたの?」

「お帰りなさい」を連呼されていた副団長は二階通路を見上げた。

 副団長が単独で戻ってきたんだ。緊急だってわかりそうなもんだ。

「頭まだ寝てる」

「ナーナ」

 姉さんの視線がヘモジを捉えた。

「あ」

「目が覚めたか」

 だが、副団長に手を取られ、扉の奥に押し出された。

「いくら親族でもその格好は目の毒ですよ!」

 第一声が、説教か。

 ふたりが馬鹿やってる間に、格納庫にいた整備スタッフがわらわらと『ワルキューレ』に集まってきた。前回なかった見慣れぬ物が腰に装着されているのを見て「なんだ、なんだ」と騒がしい。

「追加装甲?」

「なんであんな所に?」

「新しい武装かしら?」

「不格好じゃない?」

「スラスター? 空力、大丈夫なのかしら?」

「そりゃあ、計算ぐらいしてるでしょう」

「前の方がよかったな」

「男の乗る機体はこれくらい厚みがあった方がいいわよ」

「重くしてどうすんのよ!」

あんたらは朝から元気だな。

「弟君、これは何?」と問われたところで、副団長に「弟君、行くぞ」と声を掛けられた。

「後でね。見てていいから」と言って、僕はその場を去った。


 以前通された船長室に案内された。男子禁制も甘くなったものだな。

 相変わらずぬいぐるみに囲まれた色気のない部屋だ。

 移動中、副団長と二言三言会話しただけで、姉さんは既に頭を抱えていた。

 備蓄に問題はないか聞きたかったが、横槍を入れたらとばっちりが来そうなので、ソファーに座ってふたりの会話が終わるのを待った。

 ヘモジもオリエッタもぬいぐるみの隙間に腰を下ろした。

「備蓄は問題ないけど」

「折角ここまで築いたのに」

 声が漏れ聞こえる。

 前線を後退させる案は却下だな。

 計画が頓挫することより、砦を外部に公開することを躊躇しているようだ。

 食事係が朝食を運んできた。

 僕の顔を見て驚き、ヘモジとオリエッタを見て目を輝かせた。

 姉さんの頭はフル回転していた。食事のことさえ忘れて。

 ヘモジとオリエッタは料理を前にお預けを食らって、悩ましげな顔を僕に向けた。

 戦況的には戻る必要のない案件だろうが、よそのギルドがやってくるとなるとギルマス不在はよろしくない。状況が状況なだけに舐められないだけの備えが必要だ。

「いいのか?」

「今度は長めで貰いますから」

 話は付いたようだ。

 耐えきれずに料理からそっぽを向いていたヘモジとオリエッタが、ようやく機会が来たかと姉さんたちの方を見た。

「待ってなくていいぞ、食え」

 あんたなぁ……

「いいってさ」

「頂きます」

「ナーナ」

 僕の皿から容赦なくがっつくふたり。

「ちょっと出てくる」

 姉さんと副団長が外に出て行った。

 クルーや他の船の指揮官を集めて大事な話をしてくるようだ。

 すぐに全体呼集のアナウンスが館内に流れた。伝声管が「見張り以外、全員会議室に集合」と籠った声で伝えてきた。

「行かなくていいの?」

「行っちゃ駄目でしょ。男子禁制なんだから」

「ナーナ」

 窓の外の戦闘はとうに終わって回収作業に移っているようだ。一隻のホバーシップがドラゴンの落下ポイントに向かって移動していた。

 振り返るとヘモジとオリエッタは食事を平らげていた。残ったのは肉の欠片とラットゥーガが一枚、ふたりについばまれ虫食いだらけになったパンだけだ。

「お水、お代わり」

 水を空いた皿に注いでやるとオリエッタは舐め始めた。

 ヘモジは僕のコップの中身を全部飲み干すと息を吐いた。

 僕はコップを取り上げ水を注ぎ直した。キンキンに冷やして、残り物に手を付けた。

 手付かずの姉さんたちの料理がねたましそうにこちらをずっと見ていた。



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