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送迎するその前に

「師匠! ロック鳥捕まえてよ!」

 鉱石の類いが本日の分も含めて倉庫に放り込んであったので、整頓していたらヴィートとニコロ、ミケーレがやってきた。

「空振りなんてあり得ないよ!」

 ニコロは鉱石を抱え上げるとよろけながらテーブルに置いた。

「獲物を待つのも狩りのうちだろ?」

「師匠が鍵なくすからいけないんじゃん!」

 ヴィートが回収袋の中身を覗き込んだ。

「だからなくしたんじゃないって。たぶん」

 キョロキョロしている。

 屑石の多さに気付いたか。

「師匠ー、明日手伝ってよ」

 疑問をスルーしたか。

「悪い。明日からまたしばらく留守だ」

「どこ行くの?」

「副団長を前線までお届けだ」

「なんで?」

「団長と交代するだけだよ」

「師匠が行く必要ないじゃん」

「『ワルキューレ』が最速だからな」

「副団長が乗っていって、団長が乗って帰ってくればいいじゃん」

「例の装置の汎用テストもしたいんだ。一流どころの意見も聞きたいし」

「副団長と団長をモルモットにするんだ!」

「一応、工房の実験機だからな。まだ人の手には委ねられないよ」

「しょうがないな。バンドゥーニさんで我慢するか」

「駄目だよ、バンドゥーニさんは空飛べないんだから」

「僕たちが飛んでいいならね」

「追い付かれて餌になっちゃう」

「あはははは」

「笑うなよ!」

「ラーラ姉ちゃんはオーラ出し過ぎだから敵が近付いてこない気がするんだよな」

「そりゃ気のせいだって」

 子供たちは僕の作業を食い入るように見ている。

「自分たちで使う分ならこのままでもいいんだけどな。売るとなると手間を掛けた方が付加価値が付く」

「重さとか純度がわからないと買い叩かれちゃうからでしょう?」

「木箱ごと計れるでっかい計りがギルドの裏手にあるよ」

「だから、それだと原石扱いになっちゃうんだよ!」

「そういうこと。後は良かれ悪しかれ一定の水準をキープすることだな」

「買い手が安心するから。ラーラ姉ちゃんが言ってた」

 精製を済ませた鉱石を土魔法を使って溶かしながら型に流し込む。

 型にはヴィオネッティー家の認証番号の一つ、僕が専用で使っている番号が入っている。トリプルA、僕の信用の証だ。

 やりたそうにしていたので子供たちにもやらせてみた。

 さすがに土魔法の達人。溶かすところまではすんなりできた。

「あれ?」

 型のなかに流し込むと子供たちの物は明らかに量が減っていた。

「それがレベルの差だな」

「嘘。俺の半分になった」

「……」

「溶かし切れてない。僕のだまになってる」

「論外じゃん」

「いずれミスリルも扱うんだからな。レベル上げておかないと大損するぞ」

「土の魔法のレベルはほとんどカンストしてるって、オリエッタ言ってたのに」

「そりゃ岩や砂のレベルでだろ。残りは素材をいい物に変えていかないとなかなか上がっていかないぞ」

「師匠の『鉱石精製』は?」

「あれは『紋章学』の上位スキル」

「うがーっ」

「なんでだーッ」

「紋章を自分で刻むようになったら自然に上がるよ。お薦めは鏃作りだな」

「特殊弾頭?」

「そうとも言う」

「違法じゃん!」

「大丈夫。魔物は気にしないから」


 型のなかからゴロンと塊が出てきた。

 表面の照りがそれぞれ微妙に違う。

『解析』魔法を使って確認したが、どれも間違いなく最高級のインゴットだった。

 僕が精製した同じ素材であるから、異なっていたらそれはそれで困るのだが。

 完成に費やした量は違えど、完成品の重さに差異はなかった。

 子供たちが『解析』を覚えたいというので、いつもの要領で教えてやった。

 子供たちは覚えたての『解析』スキルを発動するが、レベルが低過ぎて解析できない。

「む」

 三人は型入れの作業をほっぽり出して詠唱を繰り返した。

「あ、待って!」

 たまにヒットするも、保って数秒。

 ニコロはさっさと諦め、型入れ作業に戻った。

 今は修練の時ではないと判断したようだ。

 一方、ヴィートはひたすら詠唱を繰り返した。

 諦めが悪いだけなのか、探索に必要な魔法だから一刻も早くものにしたかったのか。

 ミケーレは同時進行という荒技をこっそり試みている。

「みんな同じじゃつまらないよな」と、先程のこともひっくるめて僕は呟く。

「そういや、他のみんなは?」

「トーニオとジョバンニは壺で遊んでる」

「壺? ああ、あれか」

「何してんの?」

 噂をすれば、だ。

「来たか」


 二時間が過ぎ、作業を半分残して夕飯時となった。

 女性陣はどうやら家事を手伝っていたらしい。

 夕食はカルボナーラにイドのマリネ、ドラゴンステーキの香草焼きに羊肉の赤ワイン煮。オリエッタ用ミートボールにサラダ等々。

 女性陣の自慢げな顔が小憎らしい。


 明日出掛ける前にまだやっておくことがある。

 万能薬の原料になる薬草の在庫チェックだ。足りなければ姉さんの『箱船』の畑から失敬してこなければならない。

「ヘモジ、薬草の畑はどうなってる?」

 ヘモジが畑に植えるために一部をずいぶん前に持ち出していた。今どうなっているのかな?

「ナナナ」

 ほう。もうすぐ採れるのか?

「ナーナ」

 一緒に見に行く?

「そうだな」

 いきなり地下に案内された。まさかまた地下を拡張したのか?

 と思ったら空気を取り入れるためのダクト代わりの横穴に入っていった。

「あ、扉だ」

 横穴の途中にアンティークな木の扉があった。

 開けると下りの石段があった。

 光の魔石が足元を照らし出した。

 こりゃ、ヘモジひとりの企みじゃないな。大伯母が手を貸しているのは明白だ。

 植物の蔦がモダンな化粧柱に絡まっている。

 青々とした鉢植えが枯れることなくアーチ状の天井や煉瓦積みの壁の窪みに綺麗に収まっている。

 遠くでチョロチョロ流れる水音が聞こえた。

 外階段は吹き抜けを囲い込むように折れながら下っていく。

 これは外界の喧噪から隔絶された中庭(コルテ)だ。

 緑の茂る最深部から空を見上げる。

 星空が吹き抜けの遙か先に瞬いていた。

 昼時なら光が程よく降り注いで、さぞ美しい光景になるのだろう。自然と人工物が程よくマッチしている。

 傍らに重厚な石のベンチが置かれていた。そこに耕作に関する書籍が無造作に転がっていた。

 まさかヘモジが読んでいるわけではあるまい。

「水路だ」

 平らな床に掘られた溝に水が流れている。

 水路に沿って進むと開けた場所に出た。

 光の魔法で辺りを照らした。

 緑色の段々畑が目に飛び込んできた。

 その先には開口部があり、湖面にそびえる水道橋の橋脚が見えた。

「ここは家の裏手か?」

「ナーナーナ」

 我が家の北に位置する岩場の真下辺りか。

 そこに広めの祠を造ったのだ。

 薬草専用の畑らしい。

 湖面よりまだ大分高い位置にある。

「下から見上げても見付からないか」

 大伯母が好きそうな仕掛けだ。

「驚いたな」

「ナナナ」

 大伯母はいつも「万能薬は前線の生命線だ」って言ってたものな。

 アールヴヘイムで買えば二束三文の野草も、ここでは貴重品だ。

 元気草に活壮草…… そういえばエントランスに並んでいた植木鉢がいつの間にかなくなっていたけど、そうか、ここに植え替えたのか。

「ナナーナ」

 ヘモジはもうすぐ種が取れると言った。そうしたら収穫らしい。

 土の魔石が土のなかから顔を出している。

「これなら姉さんの船から持ってこなくてすみそうだな」

 それにしてもこんな場所を隠していたなんて。

 大伯母にも呆れる。


 翌朝、涼しいうちに旅立つことになった。

 ヘモジもオリエッタもまだ背中のリュックの上で鼻提灯を浮かべている。

 副団長の荷物は既に収納スペースに押し込んであって、代わりに出された荷物が床に置かれていた。補修板や希少品回収用の空の保管箱とか。

 そして大柄な副団長には悪いが、狭いところに座席をこしらえた。

「なんだ、お前らも行くのか」

「ナーナ」

「一蓮托生」

「難しい言葉知ってるな」とオリエッタの寝ぼけた頭をぐりぐり。

 昔からの知り合いだからさしたる緊張はないが、帰りは姉さんと一緒だと思うと……

 幸せな予感がする。



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