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クーの迷宮(地下16階 ゴーレム・ガーゴイル戦)きょうはここまで

「ヘモジ、後ろ!」

 踏み付けてくるかかとを避けると、軸足の方をヘモジは薙いだ。

 そして倒れたゴーレムの身体の中央に容赦なくミョルニルを叩き込んだ。

 床まで陥没する衝撃! 反動で浮き上がるヘモジ。

 同時に稲光が一瞬、きらめいた。

 周囲の敵がヘモジに迫る。

 が、壁が邪魔して、接近してくるまでこちらは対処できない。

 一斉に来られたら厄介なのだが、そもそも彼らに連携という概念はない。思い立ったら、気が付いたらそのときが動き始めだから、足並みなど到底揃わない。

 移動速度の速いガーゴイルの一派がまず壁の陰から顔を出す。

 動いているガーゴイルの急所は狙いにくいので翼を撃ち抜いていく。

 次々落下するガーゴイル。

 ヘモジに殴られ、石像へと帰っていく。

 ヘモジがガーゴイルを絞めている後ろから重い足取りのゴーレムが姿を現した。

『一撃必殺』を発動させて順番にコアを破壊する。

 動かなくなったゴーレムを後続がお構いなしに押し倒していく。

 そして僕とヘモジの標的になる。

 場当たり的な戦いをしていたら、完全に壁の先の通路が塞がってしまった。

 後続のゴーレムたちはまだ蠢いている。

「消えるまではこのまま待機だな」


 そのうちガーゴイルの群れが次々魔石(小)と石に変わっていく。

 言い忘れたが、ガーゴイルもゴーレム同様、部位や装備品の代わりに鉱石や宝石を落とす珍しい魔物である。通常ルールだと部位から回収できるのはただの石ということになるが、漬け物屋じゃないんだから。

「ガラスある!」

「ナーナ!」

 オリエッタとふたり駆け出した。

 まだ戦闘中だろうに。

 普通の鉱石より屑石に夢中ってどうなんだ。

 自分たちのリュックに回収物を入れていくふたり。

「銅の鉱石採れた!」

 オリエッタが干された皮革のように全身を広げてこちらにアピールした。

 持てないから運べと言うことか?


 戦闘中でもあるのでさっさと回収品を地下倉庫に送った。

 壁になっている骸もそろそろだ。

 ヘモジもあらかた回収終わって、ピトピトと僕の前に立ちはだかった。

 リュックはどうした?

「重い」

 オリエッタがヘモジの分のリュックまで背負って戻ってきた。

 抱き上げろというので肩に抱いた。

 すると僕のリュックのなかに潜り込んで、中身を全部流し込みやがった。

 空にしたリュックを背負って、すっきりした顔で出てきた。

「楽ちん」

 こんにゃろ。

「回収袋に入れろよ」

「ナーナ!」

 目の前のゴーレムの塊が砂に返った。


 つかえていたゴーレムたちが動き出した。

 タイタンをもぶっ飛ばすその力でヘモジは先頭の一体の脇腹をぶっ叩いた。

「ナーナンナーッ!」

 次の一体も、そのまた次の一体も吹き飛ばした。

 おかげで中途半端に生き残ったゴーレムにすっかり包囲されてしまった。

「ミョルニルって丈夫だよな」

「修理いらず」

 オリエッタがくしゃみした。

 ヘモジが一体のコアを破壊した。

 どれもこれもヘモジを狙っている。

 ヘモジの背中を狙う一体を僕の銃弾が撃ち抜いた。

 ヘモジはゴーレムの足元を巧みに飛び跳ねながら次々とどめを刺していく。

 結果的に僕はヘモジの援護に終始した。

 滞りなくすべてを黙らせると、再び僕たちは回収作業に移った。


「ナーナ」

 どこが『終了』だよ。

 重い鉱石はそのままに、宝石など軽い物だけ集めてきて額を拭う。

「こっち」

 オリエッタが先導する。

 重い鉱石は身体強化した僕が回収していく。持ち上がらない物はそのまま転送だ。

 ヘモジがまとめた回収袋を転送しようと思ったら、ヘモジのリュックが肩から落ちた。

「あ」

「……」

 リュックのなかに入りきらない程の屑石が…… 

「後で分ければいいじゃないか」

「ナーナ」

「理屈じゃないって」

 そりゃ、獲物で満杯になったリュックを背負うのは楽しいことかも知れないけど……

「それが担げるんなら、大きな鉱石も運べるよな?」

「ナ!」

 しばしにらめっこ。

 こらえきれなくなったヘモジはのそのそ動き出して、リュックの中身を無言で回収袋のなかに流し込んだ。

 オリエッタも僕も黙ってそれを見守る。

「ナナナ!」

 突然、真顔で振り返って叫んだ。

「ナナナナナーナ!」

「何が『幻惑』攻撃だ!」

 オリエッタと同時にツッコミを入れた。

 ヘモジは発した言葉に自分でおかしくなってケタケタ笑いだした。

「転送するから口紐縛って」

 怒る気も失せた。

「馬鹿ヘモジ」

 オリエッタに尻尾で叩かれる。

 いくら今日のノルマが終わったからといって、力抜き過ぎだぞ。

「よし、次行くぞ」

 メモを閉じて、リュックを背負う。

「ナナナナナナ!」

 回収袋を置き忘れた僕をヘモジが焦って引き留めた。

「おっといけない。忘れるところだった」

 勿論わざとである。

「ナーナ」

 ヘモジが僕の足を蹴飛ばした。

 ヘモジのお宝の入った回収袋を転送すると、僕たちは笑顔で奥へと進んだ。

 ヘモジとオリエッタの足は心機一転軽やかだ。

「ナナナ?」

「やっていいぞ」

「ナーナ」

「ガーゴイルいる!」

「そっちは僕が」

 散発的な敵の登場には脅威を感じない。淡々と先に進むだけだ。


 薄暗い天井の高い通路を抜けると、また大きなフロアに出た。

 先と同程度の敵が潜んでいる。しかも今度は引っ掛かって渋滞する要素はどこにもない。

「準備いいか?」

「待避完了」

 オリエッタがリュックの隙間から顔を出す。

「ナーナ」

 ヘモジが駆け出した。

 まずはガーゴイルを始末する。数が多いので、手抜きはなしだ。

 それでも『動く前に撃つ』ではなく『動いたら撃つ』に方針は変えている。翼が開いたときが攻め時だ。

 おかげでヘモジとの足並みは揃わない。


「ようし、こっちは片付いた」

 最後のガーゴイルが動きを止めた。

「ナーナー」

 ヘモジを囲うゴーレムの一体が動かなくなった。

 ミョルニルの一撃を受けて鳩尾が崩れ落ちた。

 倒れたゴーレムはジャンプ力の欠片もない後続の侵入を防ぐ防波堤となる。ヘモジはそれをうまく利用し、迫り来る群れをうまくあしらっていた。

「ナーナーナー」

 リラックスできたのがよかったのか、ヘモジの動きはいつにも増して冴えていた。

 こちらが終わったのを確認すると、ヘモジは倒れたゴーレムの向こう側にいる敵を相手し始めた。

 ヘモジから距離のある敵を選んで倒していく。

 ヘモジの移動距離を短縮してやることが時間の短縮にも繋がると考えた。

 完全な流れ作業。

 ヘモジは一旦戦闘をやめて立ち止まった。

 散らばっている敵が向こうから接近してくるのを待った。

 その間も僕は攻め続けるが、角度が悪かったり、急所を見せない敵はやり過ごした。

 瓦礫が消失した!

 あっという間に時が過ぎていたようだ。

 残りわずか。後続が押し寄せるも、もはやヘモジの敵ではない。

「終わった」

 オリエッタが鼻をひくつかせながらリュックから顔を出した。

 ヘモジはこっちには戻らず、柱から落ちて粉々になったガーゴイルの元に急いだ。

「なんであんなに屑石が好きかな」

「ガラス楽しい」

「そうなのか?」

 そういえばガラス板を底張りした樽を一体何に使ってるんだ?


「あ、また出た!」

 赤いトパーズの原石をオリエッタが抱きかかえた。

「ゴーレムからも出るのか?」

「もしかして…… 人気フロアになる予感」

 ヘモジがパンパンになった回収袋を引き摺りながら戻ってきた。こちらにも赤いトパーズが混ざっていた。

 ちょうどいい頃合いになったので、マッピングを済ませ、本日の攻略はここまでとした。

 このフロア、近道はないと見た。面倒くさ!



 昼食を済ませると僕は『ビアンコ商会』の本館、オリヴィアの元に向かった。

 三階建ての母屋はほとんど完成していて、内装工事に入っていた。

「どうぞこちらに。店長はもうすぐ参ります」

 応接室に通された。

 金の装飾に彩られた白と緑のコントラストが鮮やかな壁面。家具はどれもこれも一級品だ。最前線だというのに、まるであちらの世界に戻ったかのようである。

 大商会の看板背負って大見得を切る場所だから、これくらいでちょうどいいのかもしれない。

 扉が開くと、かんな屑が頭から落ちてきそうなくらい地味なオリヴィアが現れた。

「いらっしゃい。ちょうど今、別館の床張りをしていたところなのよ」

 何がちょうどなのかわからないが、頷いておく。

「売り物を持ってきた」

「あら? 何かしら? 直接来るってことは新しい情報込みってことかしら?」

「まあね」

 相変わらず察しがいい。

「まずは頼まれていたスパイス。たまたまあったからいろいろ買ってきた。いらなきゃうちで使うから」

 でんと大きな紙袋を三つ、傷付けたらどうしようかと思う程綺麗なテーブルの上に置いた。

 袋のなかには小瓶に小分けされたスパイスが。

「助かるわ。もう少しで売り物に手を付けるところだったのよ」

 社交辞令も板に付いたもんだ。お前がそんなヘマする玉かよ。

「それでこっちが本題だ」

 僕は赤いトパーズの原石を置いた。

 オリヴィアは見るや否や立ち上がった。

 一瞬かよ。

「トパーズ?」

「オリエッタ曰く、正真正銘トパーズだそうだ」

「オリエッタちゃんが言うことなら確かね」

 オリヴィアは呼び鈴を鳴らした。

 すると使用人が現れて用件を賜るのを待った。

 鑑定士の某を呼ぶようにとオリヴィアは言った。

 品定めか。売るとはまだ一言も言っていなかったんだが。

 まあいいか、半分だけ放出しよう。残りは加工してから売る分と子供たちへの教材だ。

「迷宮で取れたの?」

「そうだ。十六層のゴーレムフロアだ」

「嘘でしょう?」

「元々トパーズが出る所だろう。あっても不思議じゃない。オリエッタは人気フロアになると言ってたぞ」

「おかしな条件はないのよね?」

「ゴーレムとガーゴイル、両方から一割ぐらいの確率で出たかな」

「リオでその確率だとすると、他の冒険者だとその三割位かしらね」

「それはどうかな。湧きも倍だし、でかさも倍だから」

 ヒューと口笛を吹いた。

「ずいぶん様変わりしてるみたいね」

 扉が叩かれた。


 革のエプロンをした初老の男性が入ってきた。

「これは珍しいですな」と言いながら、片眼鏡を掛けて原石を見回した。

 原石は安く見られがちなんだよな。やはり加工してから持ってくるべきだった。

 それからそろばん勘定が始まって、オリヴィアにだけ金額が提示された。

 一塊が天然物に比べて大きいのでそれなりの値が付くと思うのだが。問題は迷宮産という点だ。そこがどう評価されるか?

 提示額はほぼほぼ予想していた金額になった。

「安いと思う?」

「僕に聞かれても」

 スパイス分と合わせて支払って貰った。

 細かい内訳は兎も角、原石のまま売るのはやはりやめようと改めて思った。



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