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クーの迷宮(地下16階 ゴーレム・ガーゴイル戦)

 下層に繋がる洞窟への入口を塞ぐ扉の前に降り立った。

 そこは尾根伝いに続く山道の終点。頂きの根元、窪んだ山肌にできた大穴だ。

 その入口に茨をかたどった重厚な金属の扉が待ち構えている。

 いつか見た物と変わりない。

 罠の有無を確認して、ないと判断した僕たちだったが、一応ヘモジに施錠を確認させた。

 当然、施錠はなされていてびくともしなかった。罠もエルーダ同様、仕掛けられていなかった。

 残る問題は拾った鍵を試すか『迷宮の鍵』を試すかということである。

 しかし、一度にできることは一つだけ。今後、子供たちやラーラたちが攻略することを考えると、確実に開くであろう『地下十五階の鍵』の出番を後にした方がいいだろうと考えた。

「『迷宮の鍵』を試そう」

 ヘモジに鍵を預けて、扉に接近させた。

「ナ?」

「ん?」

「どうした?」

 ヘモジがぴょんぴょん飛び跳ねた。

「ナーナ?」

 ヘモジが首を傾げる。

 錠に鍵をかざしても反応がない。

 ヘモジと交代して、今度は僕が扉に近付いた。

 より錠と鍵の距離を近付けるが、やはり反応がない。

 まさか、アレンジしたのはこの錠前?

 止むを得ない。

 ヘモジに『十五階層の鍵』を持ってこさせた。

 鍵穴に鍵を挿して回すと、今度は簡単に錠が外れた。

『迷宮の鍵』では開かないようにセキュリティー強化されたか。

「他の冒険者には影響なさそうだけど……」

 この先、今まで安易に開いていた扉が開かなくなる可能性が出てきた。どうか宝物庫の扉は開きますように。

『僕のための迷宮』というのなら、その辺はどうかご配慮を。ヤマダタロウ氏に切に願った。

 鍵をポケットに収めると僕たちは先に進んだ。

「予定より早く済んだけど、どうする? 次行くか?」

「ナーナ?」

「次か? 次の相手はいよいよゴーレムとガーゴイルだ」

「ナーナ」

 ヘモジが面倒臭そうに手を振った。

「休憩するって」


 牧場で新鮮な絞りたて牛乳を頂きながら、行商の品揃えを見て回った。早かったせいか、出店がまだ少なかった。

 たまたまスパイス売りがいたので、オリヴィアに売り付ける分も含めて多めに購入しておいた。

 そして満を持して僕たちは地下十六層に飛び込んだ。


 いよいよ資源集め解禁だ。

 ゴーレムとガーゴイルのフロアである。

 上位のゴーレムと戦えるようになると見向きもされなくなるフロアであるが、二十階層のストーンゴーレムまでは厄介になるフロアだ。

 ゴーレムとは今更言うべくもなく、でかいだけの木偶の坊だ。一撃は痛いが、鈍重であるが故にガーゴイル程の危険性はない。ただ倒しづらいだけの魔物だ。というか魔法生物?

 無印ゴーレムの急所は頭ではなく身体の中央。上級のゴーレムのように個体差で位置が変わったり、手の届かない場所にあったりはしない。あくまで入門編だ。


 一日で採れる鉱石の量はすべてを倒したとしても、一頭立ての馬車の荷台に敷き詰める程度にしかならない。

 それでも鉱石の補充を外部から行う苦労から多少は解放されるだろう。ホバーシップでは重い荷物はまさに重荷にしかならない。多少であってもリソースを別の物に振り分けられるのはありがたいはずだ。


「婆ちゃん、よくつまらないフロアだって言ってたよな」

「肉取れないから」

「ナーナ」

 婆ちゃんにとって動きの遅い敵は敵じゃない。

 ここは魔法使い用の練習フロアだと言って構わないだろう。物理攻撃主体のパーティーは修理費ばかり嵩むことになる。


「ちょっと……」

「ナーナ」

 いきなりふたりに足止めされた。

「どうした?」

 それは目の前の景色が想像していたものと違っていたからだ。

 エルーダ同様、天井の高い地下迷宮ではあったが、天井の高さも一部屋ごとの広さもまるで違っていた。

 何よりこの反応の多さはなんだ?

「……」

 オリエッタも黙り込む。

 ヘモジも唖然と周囲を見遣る。

「剣が何本あっても足りないな」

 近接パーティーは大変だ。

「面倒臭い」

「ナーナ!」

 ヘモジが腰のミョルニルを抜いた。

 フロアの大きさに合わせてゴーレムもガーゴイルも、大きさ、数共に倍になっていた。

「回収量が増えてくれるのはありがたいけど……」

 難易度上げ過ぎじゃないのか?

「サンドゴーレムサイズ」

「ナーナ」

「質も上がってくれていればいいけどね」

 サンドゴーレムは結構いい物を落としてくれた。砂嵐で装備が研磨される分、それに見合うだけの金銀、宝石の原石が出たものだ。さすがにミスリルは出なかったけど。

 しかしでかくなった分、面倒が増えた。コアを直接剣で狙えなくなったからだ。

「銃でいこう」

「ナーナ」

 

「ガーゴイル。柱の上!」

 オリエッタが警告した。

 太い石柱の上に二体の彫像が座り込んでいる。

「でかくなっても見掛けは一緒か」

 ミノタウロスにコウモリの羽根を付けたような石像が通路を鋭い眼光で見下ろしていた。

 初戦の相手はガーゴイルか。

「よし、行こう」

 ガーゴイルにしてもゴーレムにしても索敵能力はあまり高くない。気付いてからの動きも緩慢だし、大概先手が打てる。だが、たまに起動していない奴がいて、こちらの警戒をかい潜ってしまうことがある。それだけは注意が必要だ。

 ガーゴイルの心臓を一撃で粉砕した。

 だが、柱の上のそれは地面に落下すると砕けてしまった。

「ああー?」

「ナー……」

 天井が高くなったことと、対象がでかくなったことで落下の衝撃に耐え切れなくなったのだ。

 柱の足元にクッションでも置けというのか。

 こちらに気付いたもう一体が翼を広げた。

「落ちろ!」

 後ろに吹っ飛んだ。そしてこれも地面に落ちた。が、こちらは原形をとどめた。

 ヘモジは反応が消えるのを見守った。

「なるほど…… 即死させては駄目ということか」

 受け身を取らせてから絞めないといけないわけだ。

「回収品が欲しければ先手は打つなということだな」

「面倒臭い」

「ナーナ」

 回収品の少なさを考えると、やはりガーゴイルはゴーレムに比べ、うっとうしさが勝る。スルーしたいところであるが、決まって要所に配されているのでそれもできない。

 今回はドロップ品の調査も兼ねているのでやぶさかではないが、報酬次第では今後、エルーダ同様即破壊あるのみだ。宝石が出てくれれば当りだが、出てくるのは大概トパーズだった。美しい石だが、亀裂が入り易い石なので戦闘装備に使うには向いていない。


 余談であるが、馬鹿な行為を揶揄する言葉に『トパーズに術式を刻む』という形容がある。実はこれをやる魔法使いは意外に多い。値段も手頃なので買い手が付き易いのが原因だが、宝飾にとどめておいた方がいいだろう。なくてもいいような付与を刻むなら否定はしないが、生死を分けるような付与を刻むのは自殺行為である。

 利口な魔法使いは台座に刻む。

 一見猫には豪華過ぎるオリエッタの戦闘用ネックレスも絶対無効化されたくない術式はミスリルの台座の方に刻んである。

 ただ、これらの蘊蓄はコストを支払える資金があってのこと。机上の空論であり、実践は容易ではない。

 台座の素材が金や銀ならルビーなどの衝撃に強い石に刻んだ方がいい結果を生むだろう。

 もっとも宝石の硬さまで考えて装備を調える冒険者はいない。高けりゃいい装備だと思ってるし、実際それで大概のことは事足りる。

 目くじらを立てるのは爺ちゃんクラスの上級者たちだけだ。ギリギリの戦いをしている最中に付与が切れたりしたら目も当てられない。昔は突然付与が切れる原因がわからなかったそうだ。『装備破壊』や『結界砕き』のような敵の攻撃だとされた時代もあったという。

 どちらにせよ、僕は事実を知っている。知ってしまったが最後、必要十分だとわかっていても手控えようと思ってしまうのが、人のさがというものだ。それはオリエッタもヘモジも同じこと。

「ナーナ?」

「ルビー違う。トパーズ」

「ナナ?」

「それはでっかい屑石」

「ナーッ!」

 いや、ヘモジはそれ以前だった。

「ん?」

 ルビーと間違うトパーズ? それは赤いトパーズということ……

「まさか!」

 僕は駆け寄り、ヘモジが手にした石を取り上げた。

「やっぱり……」

 正真正銘、赤いトパーズだった。

「何?」

「ナナ?」

 屑石の方も差し出した。

「そっちはいらないから」

 どう見てもトパーズじゃないだろ。

「レアだ! これはレアな石なんだよ。赤いトパーズは値段が二桁違うんだ!」

「言われてみれば…… 赤いのはあまり見ないかも」

 オリエッタはワイン色の原石を覗き込んだ。

「間違いなくトパーズか?」

 オリエッタは頷いた。

 これって…… テコ入れか?

 ヘモジが赤褐色の石を無造作に回収袋に放り込んだ。

「うぎゃー、ヘモジ馬鹿!」

「話聞いてなかったのか!」

「ナナーナ」

 指差した方角にお客さんの姿が見えた。



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