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『アレンツァ・ヴェルデ』の場合1

「これより五十一年度、ギルド『緑の同盟(アレンツァ・ヴェルデ)』の入団テストを行ないます。お客様には安全のため、当船の展望デッキからのご観覧となりますのでご了承ください。双眼鏡等の貸し出しも行なっておりますので、ご利用の際は遠慮なく団員にお申し出ください。本年度の採用枠は五つ。すべてガーディアンの搭乗要員となります。一次試験はタイムアタック。的を狙撃しながら移動タイムを競って貰います。テスト生の機体は持ち込み、あるいは予めギルドが用意した機体をベースにカスタムした物を使用して貰います。因みにあそこに見える緑の機体が当ギルドが用意したガーディアン、ロメオ工房製ユニット『グリフォーネ』にアレクス工房製のS型軽装甲を採用した機体になります。武装は同工房製六連射ライフルと石化模擬弾、近接ブレードを携行。二次試験では当団員も同機体を用いて対戦いたします。テスト生の武装は数種類から自由に選択。ただし使用する弾は一次予選ではライフル弾。二次予選からは石化模擬弾になります。その他、魔法、スキル等も公式ルールに則って使用可能とします。二次試験は集団模擬戦闘になります。あそこに見えるホバーシップを占拠することが課題になります。反則は即退場。攻守を切り替え、これを一セット行ないます。まずは攻勢から、その後守勢に回って貰います。本テストの参加人数は十八名。一次試験合格者は十名。二次試験は十名対本ギルド選抜五名による対戦となります」

 試験会場は起伏に富んだ山岳地帯を利用した人工的なコースであった。

 見学船は禿げ山の頂から目標のホバーシップを見下ろせる絶好の位置に着底した。

 甲板に出る許可が下りると、客たちは挙って見晴らしのいい場所をキープするため散らばった。

「こっち」

 僕たちも鼻の利くオリエッタの案内で、昇り階段の踊り場をキープするに至った。

 料金を追加して上のビップ席でもよかったと今更ながら頭上の窓を見上げた。

「中は涼しいだろうな」

「ナーナ」

 ここも日陰で風通しもいいから充分涼しいとヘモジは力説した。

「光の乱反射もないし、いい場所をキープできましたね」

 ソルダーノさんの言葉にオリエッタは気をよくしてゴロゴロと喉を鳴らした。

 巨大な岩が大量に転がっている斜面は厄介なコースに思えた。まるで山を占領したタロス兵が芋洗い状態でテスト生たちを待ち構えているかのようだった。


 まず麓からこの頂きを目指してテスト生たちが的を撃ちながら登ってくる。コースは入り組んでいるから低空からのアプローチは難しい。かと言って空から一気にという手段も、的を射る行程があるため限度がある。一々高度を上げ下げしていてはそれだけでタイムロスになりかねない。

 貰った資料を見ながら、自分なりにベストなルートを模索してみる。

「的は全部で八つか……」

 すべての的は距離的にほぼ均等に散らばっているが、ひらけたルート上にある物は一つとしてなかった。的までの枝道は巨岩や凹凸に阻まれかなり蛇行している。

 その内の三つを任意で射ることになる。

 軽装甲なら高度が取れるので、ルートは無視して三つ潰せる最短距離を狙うのが定石だろう。だがそんな簡単な手をこのレベルのギルドが用意してくるはずがない。必ずどこかに落とし穴があるはずだ。

 テスト生たちは既にコースの下見を終え、事前に攻略ルートを作成しているらしい。あとは実践あるのみだそうだ。

「わたしはガーディアン乗りじゃないからわからないけど、どうなの?」

 イザベルが聞いてきた。

 するとみんなの視線も付いてきた。

 ちょうど船体に当たってコースを変えた風の束が僕たちのいる踊り場を吹き抜けた。

「この風がネックになると思うよ。的を正確に射ようと思うなら、風向きも考慮しないといけない。横風はない方がいい。『必中』スキルを使うかでも変ってくるけど、あれは的の中心を必ずしも正確に射貫いてくれるものじゃないからね。コース設定によっては妥協するのも手だけれど。配点の仕組みがわからないと組み立てようがないね」

 僕の言葉に足元にいたギルド員が教えてくれた。

 配点表が展望デッキの中央に説明と一緒に既に貼り付けてあると。踊り場からは死角になっていて見えていなかったようだ。

「ええと、ですね。配点は平均タイムを一秒上回るごとに一点。的の得点エリアは中心から同心円状に三つ。三十点、十五点、五点です。外すとペナルティー、十秒が加算されます。試射は一つの的で一度だけ許されていますが、的に当ててしまったらそれが得点になります。総合点だけでなく、それぞれの技能も評価対象になるので、三回の射撃を正確に当てることも重要なファクターになります」

 三十秒か…… 三回取れば九十秒のアドバンテージになるけど……

「このコース、そんなにタイム差が出るとは思えませんけど」

「それが出るんですよ。機体があれですからね」

『グリフォーネ』は自慢じゃないが、いい機体だ。モジュールだから組み立てパーツ次第でいかようにもなる汎用性が売りだが、推力も操作性もベストセラーに恥じない性能を持っている。軽装ならなおさら…… 軽装? 

「アレクス工房製! 旋回強化ユニット!」

 安定性を犠牲にしてでも小回りを強化する傾向がある玄人好みの工房の、売れ筋強化ユニット! わざとか!

「軽過ぎる機体。狙撃に向かないユニット……」

 シールド兼用のフライングボードの浮力を抑え気味にする必要がある。でもそれだと今度は速度が出せない。コントロールも重くなる。

 セッティング段階から仕掛けてきてるのか…… 凄いな、このギルド。

「ご名答。デフォルトのままだと間違いなく風に流されます。照準も暴れますから長距離は狙えないでしょう。最初に気付けなかった者はそれだけで大きなタイムロスを抱えることになります。暴れる機体を操りながら狙撃するくらいなら、地に足を付けて高得点を狙う方がよいでしょう」

「一々着地して、速度をゼロに落としていては勝負にならない」

「ですが三十ポイントあれば、少なくともロスは帳消しにできます。近接射撃ですれ違い様という手もありますが、そうなるとコース取りが難しくなります。それに十メルテ以内への侵入はもう射撃とは言えませんからね、ペナルティーです」

 まったく。とことん楽しんでいるようだ。

 任意の的選びも仕掛けが満載だ。

 戦術眼も評価対象になっているのだろうか? だとすると隊長枠も含めて部隊丸ごとテスト生で賄うつもりなのかもしれない。

「一メルテ!」

「ナーナ」

 マリーが両手を広げた。ヘモジも真似して両手を広げた。

「……」

 団員が言葉を一瞬失った。

「二分の一メルテと四分の一メルテよね」

 イザベルがからかった。

 笑いが起こった。

成人・・が両手を広げた長さが一メルテです」

 わかり切ったことをわざわざ。真面目だな、この団員さんは。

 それよりも……

 最短ルートの近くには遠距離射撃が比較的有効に思える的が並んでいた。一方、近距離が有効そうな的は最短距離から遠ざかる傾向にあった。

「有効という意味がわからないんだけど……」

 イザベルが言った。

「簡単なことだよ。的まで接近することがその後の行動に有利に働くか、不利に働くかの違いだけだ。例えばここ。接近すればコースを外れて遠回りすることになる。となれば最短コースになるべく近い位置から狙撃する方がいい。でもここはよした方がいいだろうね。今日の風向きだと横風をもろに食らう。遮る物もないしね」

 有利な的を選んでいくとゴールがどんどん遠のいて行く。

 この訓練コースを造った奴は天才だな。

 となれば当人の相性で決める以外にない。難しい…… 使い慣れた専用機を持ち込んだ奴に有利に働くことは間違いないだろうが。

「それでリオだったらどうなの?」

「実際、現地を見ないとわからないけど、僕だったらここと、ここと、この的を狙う」

「さっき不利だって言った的ばかりじゃないの!」

 僕が選んだのは狙撃に適した三箇所の的だった。風向きがよくないと言った的も含まれている。

「理由は簡単。僕ならできるからさ。狙撃ポイントはここと、ここだ」

「二箇所?」

「この位置からは二つの的が同時に狙える」

「距離があり過ぎじゃない?」

「『必中』でいい。当たればラッキーという奴だね」

 オリエッタという優秀な観測手を使えれば『必中』を使わずとも的は狙えるんだけどね。たぶん猫又の持ち込みは禁止だろうから。

「こっちの的だけは真ん中狙うけどね」

「つまり、タイムを優先しようという戦術ですか?」

「それでも四十ポイントは取れる自信はあるよ。『必中』次第では五十ポイントもいけるかも」

「それって……一つは真ん中を射貫ける自信があるっていうこと?」

「距離は少しあるけどね。最後の的が一番リスクのない的だよ。二つの狙撃地点はそう遠くないし、ほぼ同高度を維持して飛べる。僕の『ワルキューレ』はじゃじゃ馬『スクルド』の発展系だからね。推力は他の機体にはないアドバンテージだ」

「なるほど狙撃ポイントをある程度犠牲にする戦術ですか。難しい的には無理して挑まず『必中』を当てることでデメリットを押さえるわけですね」

「言うは易し。机上の空論。リオネッロ、特攻大好き。ヘモジと一緒」

 オリエッタが言った。

「新型ですか!」

 団員が関係ないことに食い付いた。

「あの『スクルド』の…… 一度戦場でドラゴンと戦われているリリアーナさんの機体を見たことがありますが、あれは圧巻でした! カタログはもう出ているのですか?」

 このギルドはメカオタクの集まりのようだ。

「まだ試験段階です。生産ラインに乗るにはあと半年は掛かりますよ。もしかすると『スクルド』のオプションパーツが先かも知れません」

「こりゃ大変だ! みんなに知らせなきゃ」と団員は走り去った。

 光通信用のライトの明滅がしばらくの間、競技そっちのけで麓の船との間を飛び交っていた。



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