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クーの迷宮(地下15階 ロック鳥戦?)

「よろしいんですか?」

「等価交換ですから、お気になさらず」

「そうだよ。モナ姉ちゃん」

「俺たちのガーディアン、かっこよくして貰わなくちゃいけないからね」

「僅かですけど、地下倉庫に素材をインゴットにした物があるので使って下さい。今日のところは鉄と銅だけですけど」

「すげー重いから、荷運び用のガーディアンで行った方がいいよ」

「そうさせて貰うわ」

 僕たちが出しあった現金と同額の小切手を切って貰った。

「鍛冶屋の代わりをして貰っても?」

「いつでも呼んで下さい」

「ここの鍛冶屋、砦の受注だけで手一杯で」

「工房にいた頃はよくやってましたから」

 溶鉱炉に入れなくても気軽に銑鉄から鋼鉄を作れる僕の能力は一流揃いの『ロメオ工房』内でも重宝されていた。

「やっぱりボロっちいね」

「装甲なんて消耗品なんだからボロくていいのよ。優先度は最後だから」

「ボードじゃないのがよかったな」

「来年ポイントが現金化できたら、買えばいいでしょ」

「ガーディアン乗りにならないんだったら、無用の長物よ。移動で使うだけならこれでも贅沢だと思うわよ」

「ほらね」

「師匠……」

「何事も一歩ずつだ。いきなり『スクルド』に乗っても落っことして大破させるだけだ。あれはミスリル装甲だから加工賃だけで金貨百枚ぐらい簡単に飛んでいくからな。今のうちにしっかり練習しておかないと、売った物を買い戻す羽目になるぞ」

「それもそうね。これでまず自由自在に飛べるようにならないと」

「お前の場合、まず身長を伸ばすところからだな」

 ジョバンニがヴィートの頭に手を置き、からかった。

「自分だってそうじゃん!」

 まあ財布と仲良く相談してくれたまえ。

「そうだ! 師匠の貸して!」

「絶対駄目!」

「ケチッ!」


 その夜、早速溶鉱炉の代わりをさせられた。

 食人鬼の装備から回収してきた鉄を精製して子供たちのガーディアンの表面装甲を仕上げた。

「やっぱり分厚くなるな…… 重そうだ」

「ミスリル装甲と比べちゃ駄目ですよ」

「取り敢えず、凹みと傷はなくなったな」

「これでもう少し愛着を持ってくれるといいんですけど。色どうします?」

「錆止めのままでいいんじゃないですか?」

「またそんなことを」

 子供たちに決めさせるということで、本日の営業は終了。モナさんは工房の扉を閉めた。



 翌日、子供たちは座学である。

 でも早朝からバンドゥーニさんのしごきにあって既にフラフラになっていた。

 僕が留守の間に大き過ぎた我が家の地下倉庫を大伯母が削ってこしらえた学習室に、ゾンビの如き足取りで吸い込まれていった。

「バンドゥーニさん、やり過ぎじゃ……」

「勝手に張り切ってあの様だ。俺は知らん」

「本当に疲れてるなら万能薬、飲むでしょう」

「ポーズよ、ポーズ」

「授業が始まってしまえばケロッと忘れちゃいますよ」

 ラーラとイザベルとモナさんが朝からお茶とケーキで優雅に一杯やりながら言った。

「リオネッロの今日の予定は?」

「十五階のロック鳥」

「暢気に散歩なの?」

「悪かったな」

「鍵があるから楽勝ね」

「使う場所があるか、まず確認しないと」

「宝箱でもあるんですか?」

「出口に扉があってね。専用の鍵がないと開かない仕掛けになってるのよ。エルーダ準拠だと」

「専用の鍵ですか?」

「『迷宮の鍵』でも開いちゃうのよね」

「専用の鍵はロック鳥が持ってるんだけど、フロアに一体しかいないから手に入れるのが難しいのよ。しかも山岳地帯で空以外、ほとんどが進入禁止エリアだから。ルートを外れた場所でロック鳥を倒してもアイテム回収できないっていうおまけ付きなのよ」

「じゃ、ルート上に獲物が侵入するまで待たないと」

「そういうこと。フライングボードがあっても、結局待たされちゃうのよね」

「『迷宮の鍵』がない人は大変そうですね」

「エルーダではそうでもなかったかな」

 ラーラはカップを啜って間を置いた。

「ギルドのアイテムショップで普通に合い鍵、売ってたから」

 イザベルが紅茶を噴き出した。

「『解錠』スキルにも魔法にも対応してるのに、合い鍵だけはノーマークだったのよね」

 僕とラーラにはロック鳥を追い掛けて数日間足止めを食らった経験がある。そしてようやく目的を達したとき、これ見よがしに種明かしする大人たちの嫌らしい顔を見た。一種の洗礼だとわかっていても未だに腹が立つ。

 おかげであの時の値札は今でも覚えてる。


『地下十五階の鍵』 銀貨一枚。


 今回もステージに何かしらアレンジが加えられている可能性はあるが、取り敢えず出口に扉があるか確認してからだ。

『迷宮の鍵』で開くならそれまで。一度クリアしてしまえば、一体のロック鳥を追い掛けてまで狩る理由はない。通り過ぎるだけのフロアだ。合い鍵作りは後続に任せればいいだろう。

「転移したりしないわよね?」

 ラーラが言った。

 エルーダの下層に出現するロック鳥は転移したが、十五層に出たロック鳥はさすがに転移しなかった。

「まさか、そのアレンジはないだろ?」

 もしそんなことになったら難易度、上がり過ぎだ。ただでさえ冒険者の活動域は狭く、敵の活動域は広大なのだ。

 オリエッタが最後の肉片をゴクリと飲み込むのを待って僕たちは立ち上がった。

 珍しくボード代わりの魔法の盾を背中に担いだ。



 地下十五階は、地上同様、明け方だった。

「はあー、気持ちいい」

「寒い」

「ナーナ」

 砂漠の朝よりさらに涼しく、すがすがしい。

 僕たちは岩だらけの切り立った峰の上に立っていた。

 足元にはどこまでも雲海が広がっている。進入不可エリアだ。

 あそこに獲物を落としたら回収することはできない。昔の人はロック鳥が見えても手を拱いているしかなかった。今でこそ空中戦が可能になったが、それでも骸を回収するには活動エリアまでおびき寄せなければならない。

「ロック鳥の相手は後だ」

 コンパスと太陽の位置で方角を見定める。

 エルーダ同様、峰は北東方向へと続いていた。

 道はひたすら稜線の上を走っていた。ボードのない時代はこの勾配を空を警戒しながら斜めに横断するしかなかったが、今はマップ中央辺りまで一気に滑り降りることができる。

「行くぞ」

 僕はボードに載り、片足で地面を蹴り出した。

 マップ作成もへったくれもない。前階層以上の一本道だ。

「うにゃー」

「ナナー」

 直滑降だ。

 道のうねりなど無視して、程々稜線に沿ってまっすぐ飛んだ。

「気持ちいいー」

「ナーナーナー」

 普段より高い位置を飛んだ。迷宮の魔力は潤沢だ。

 オリエッタとヘモジは敵のことなど忘れて通り過ぎて行く景色を楽しんだ。

 が、求めていないときに限って捜し物というものは見付かるものだ。

 中程に着いて一呼吸入れようと速度を緩めたところに羽虫と勘違いしたのか、空から大き過ぎる魔力反応が降ってきた。

 魔石の大きさより、まず鍵の回収だ!

 咄嗟の判断で擦れ違い様、片翼を吹き飛ばした。

 太陽を背にして突っ込んできたそれは、そのままコースを変えることなく落ちていった。

 鳥の形とおおよその大きさが見て取れた。

 肩が急に軽くなったと思ったら、ヘモジが消えていた。

 ターンを決めて踵を返すと、落下ポイントに急行した。

 幸い活動エリア内だった。

 眼下の峰に土煙が上がっていた。峠の片側が音を立てて崩れ落ちた。

「ナーナー」

 突風が土煙を剥がすとヘモジが巨大な物体の上で勝ち誇ったように手を振っていた。

「ヘモジ、小さ過ぎ」

 オリエッタの言う通り、獲物の巨大さがヘモジをより小さく見せていた。

 峰を越える荒れた気流に巻き込まれないように慎重に降下した。

「大きさは変わらないな」

「小者」

 エルーダの同じ階層に出てくるロック鳥と変わらないサイズ。これはこれで相当でかい部類なのだが、エルフの隠れ里周辺を縄張りにしている野生の主と比べると子供程に小者だった。勿論、主がでか過ぎるのだが。

 回収できる物を回収しない手はないだろう。

 どのみち一服する気でいたし。

 ボードの先端を地面に突き刺し、座り心地のよさそうな石の上に腰を下ろすと水筒を取り出した。

 フロアに入ってまだ十分程度。さして喉も渇かないが、待つ以外やることがない。肉も売れるが、魔石にした方が実入りがいいので心臓もそのままだ。

 ヘモジが洞窟の入口を覗き込むように、くちばしに頭を突っ込んだ。

 臭くないのか?


「そろそろ」

 オリエッタが言い掛けたところで塊は消え、ヘモジだけが残った。

「ナーナ」

 ヘモジは地面に転がっている鍵と風の魔石(大)を拾い上げた。片翼だったけど運がよかったかな。

「本日の目標、あっさり達成だな」

「最速」

「ナーナ」

 僕たちはリュックを背負うと再び飛び上がった。

 今度は上りだから、さっきまでのようにはいかないが、目的地に着くまでさして時間は掛からなかった。



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