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遠い戦場

「はぁ」

 ケバブサンドをウーバジュースで流し込みながら、どこまでも続く海岸線を見遣った。

 手前には白波が寄せては返す砂浜。その先には波に浸食され切り立った断崖が地平線の彼方まで続いていた。

 振り返っても砂だらけ。

「地図わかる?」

 オリエッタが覗き込む。

「たぶんこの辺」

 全然、進んでいない。

 勢い勇んで出てきたが、視界に入るのは海と砂ばかり。そして熱い太陽。

 海面を移動しているときは涼しいが、立ち止まると焼けそうになる。

「日陰ばかり探してる気がする……」

「風が来る!」

 オリエッタが髭をひくつかせる。

 遠くの空に砂が舞い上がった。砂埃を運んでこなきゃただの風なのだが。

 僕は結界を張りつつ、機体を崖の陰に隠すべく降下させた。が、間に合わない。

「はぁ……」

 魔法を使いながら食事したくないんだよ。

 結局、転移してしまった。

 が、一応崖に張り付いて様子を見た。

 やり過ごしたはずだが、遙か彼方を見遣る。

「この辺?」

 オリエッタが手を地図の上に載せた。移動した距離は爪と爪の隙間程もない。

 どの指が差したところを言ってるのか?

 それでも断崖の結構先まで進んだはずだが。

「この辺りだと、目印になる物は…… 顔面岩……」

 どれだよ。

 岩だらけじゃないか。

 本当に一週間で走破できるのか?

 魔石と食事は十分な量を持ってきてはいるけれど、既に帰還するのも嫌になる距離まで来ている。

『補助推進装置』の分、重くなった『ワルキューレ』は『スクルド』の様にじゃじゃ馬になったが、乗りこなすことだけが今となっては旅の楽しみになりつつある。

「飛行時の姿勢をもう少し前傾にできればいいんだけどな」

 傾け過ぎると操縦席が下を向いてしまって前が見えなくなるし、僕は座席のベルトで宙づり、ヘモジとオリエッタは座席の背中に座ることになる。

『浮遊魔方陣』で飛ぶことが前提の機体だから、調整にはまだ時間が掛かりそうだ。

 結界を張っていれば空力を心配する必要はないけれど。

「あった! 人面岩!」

 オリエッタが後ろを指差した。

 通り過ぎていた?

「抽象的過ぎる目印だと思っていたけど……」

 調査隊の誰かが崖の上にある大岩に手を加えたらしい。

「彫刻じゃないか!」

 誰がどう見ても人の顔にしか見えなかった。

「よし、行くか」

 位置確認はできたし。

 最後の一片を口に放り込む。

「ナーナ」

「魔石は充分」

 出力を徐々に上げていく。

 今日は無理でも明日には、明日が駄目でも明後日には。今は亀でも、二、三日後には。じゃないと制限時間に間に合わなくなるから。

『補助推進装置』には連射機能がないので、その都度、発破を掛けなければならない。当然のことながら単発で発動してもすぐ減速してしまう。そうならないために継続的な使い方が最終的には必要だ。

 今は減速までのタイミングを、出力を変えながら計っている。二発目を何秒後に入れるのが理想的か。うまく繋がないと加速と減速の繰り返しで操縦者は酔ってしまう。

 だが、時間制限があるので立ち止まって調整をこまめにする余裕はない。次の休憩までだましだまし、このままの設定で行くしかない。

 自分で蒔いた種とは言え……

 今は高度を上げるために使っている。

 水平飛行するための物なのに、本末転倒ではあるが、これは術者の都合によるものだ。

 移動中ずっとコンマ数秒の緊張を強いられているわけにはいかなかったのだ。大切なのは緊張と緩和。ついでに魔石の節約である。

『浮遊魔方陣』の限界高度まで上げ『補助推進装置』を作動させる。

 何度も発破を掛けながらどんどん高度を上げていく。

 そして上り詰めたところで緊張を解き放つのだ。

「久しぶりに見る高高度からの景色。最後に飛空挺に乗ったのはいつだったか……」

「ナナ」

「行くぞ!」

「おーっ!」

「ナーッ!」

 滑空しながら重力に任せて加速していく。そしてさらに『補助推進装置』で尻を叩いて空気抵抗の壁を打ち破る。

「うひやぁーあああああ」

「ナアアアアアアー」

 僕たちは味わったことのない加速を体験しながら流れていく景色を楽しんだ。

 結界がなかったら、隣のふたりは今頃遙か彼方に吹っ飛んでいる。

 機体のぶれが少しずつ大きくなってきた。

 これ以上加速すると機体が異常を来すと判断したところで慣性飛行に移行。海面の上を滑るように進む。

 そしてポテンシャルがあるうちに機首を上げて再浮上。

 発破を掛け、再び高度を上げていく。どんどん上げて、どんどん上げて、そして急降下。加速して、加速して、加速して、限界速度!

 転移した方が早いに違いないが、これはこれで面白い。

 急上昇時の加速が一番負荷が掛かるから、実験にもちょうどいい。

 と思ったらパンッ! と破裂音がした。

「壊れた?」

『補助推進装置』を切って、着地点を探す。

 次の目標ポイントはまだ見えない。

 今日はさらにその先まで飛ぶ予定になっているのだが……

 なるべく見晴らしのいい平らな地面を探したが、海岸線が入り組んでいるばかりか、岩の段差がまるで(やすり)のようだった。

「転移する!」

 地図を急いで確認。次の目標ポイントがありそうな場所を目視で探す。海岸線を見ながら、岸のせり出しを二つ越えた先に当たりを付ける。

 望遠鏡で景色を確認。嗅覚と聴覚も最大限に発揮して、より具体的なイメージを構築、固まった瞬間に跳躍!

「はい、出ました」

 転移前の慣性はまだ生きている。結構な高さから降下を再開。

 おかしな推進装置なんか造ってないで、転移に特化した装置でも考えた方が現状最良ではないかと少し移り気。時間を取るか、魔力消費を取るか、魔力を持て余す身となれば……


「着陸できるポイントは……」

 ふたりも周囲をキョロキョロ見回す。

「目標、あれ!」

「ナーナ?」

 黒い岩場に陥没した大穴が開いていた。端は視界の先まで伸びている。底は鬱蒼とした茂みと靄で何も見えない。植物たちが身を寄せる安全地帯のようだ。

 ヘモジがそこに降りろと僕をせかした。

 高度的にはもうちょっと先まで行けたのだが、降下して大穴の縁に降り立った。

「いるな」

 緑のあるところに生物あり。穴の底には生命の気配が。自然が濾過した淡水の川も流れているようだ。

 穴から吹き上がってくる風が涼しい。

 ヘモジは修理の間、穴の周りを探検すると言って姿を消した。

 僕は時間との勝負だ。『ワルキューレ』の腰に回って『補助推進装置』の壊れた箇所を探した。

 オリエッタが水筒を取り出してグビグビ喉を鳴らす。

『補助推進装置』のシャッターが丸ごとなくなっていた。

 逆止弁が爆発の衝撃に耐えられなかったようだ。

「貴重なミスリルがぁ……」

 補修材は持ってきてはいるが、同じ物ではまた同じ結果になる。

 肝心の壊れた部品を失ってはどこが悪かったのか検証できない。はっきりしているのは爆発に逆止弁が耐えられなかったという事実のみ。

 直接当たらないようにカバーのような物を間に噛ませればいいか。衝撃圧力を分散させるような形状で。流入してくる空気も妨げられないように考慮しながら…… 細い円錐形を背中合わせにしたような形状。まるでどこかで完成品を見てきたかのように対応策が頭に浮かんだ。

 他の部分も音叉を使って細かい亀裂のチェックをするが、さすがはミスリル。ヒビ一つない。

 魔法でパーツを制作し、筒の内側に組み込んで結合した。

 それが済んだら術式にパラメーターを追加。発動間隔を追加した。考えなければいけないパラメーターがいくつもあるが、今は取り敢えず連射地獄から解放されたい。

 操縦席に回したスイッチ用の伝導ワイヤーを外して、パラメーターをいつでも変更できるように簡易術式を刻んだ操作板に付け替えた。

「ミスリル製、贅沢」

 オリエッタが板を持つ僕をからかった。

「面倒だからいいんだよ」

 資材の切れ端で作った操作板を適当な場所に固定する。

 試運転には発煙筒を一本犠牲にして、空気の流れを目視で確認した。

 魔力消費が小さいから『爆発』を使っているが、不具合が続くようなら指向性のある別の魔法に切り替える案も検討する必要があるかも知れない。余計な仕組みがいらない分壊れにくくはなるが、便利さと魔力消費量は比例する。

 風属性魔法の中間クラスは『(ストーム)』系の気流操作系ばかりで使えない。爆裂系の次の魔法となると上級の『衝撃波』のみ。

 機体ごと木っ端微塵になること請け合いだ。

 創作するしかないか……

 爺ちゃんの家の書庫に行ければ世界中のレアな魔法まで載っている『魔法大全』が見れるんだけど。ギルド通信でできる話題ではないし。

 ヘモジが果実をどっさり抱えて戻ってきた。

「ナーナ」

「『食べれる』って」

 見た目のよい物を一つ手に取った。

「ナーナ」

 僕が受け取った果実に、オリエッタが食い付いた。

「甘い。食べれる」

 僕もかじった。

「うん、甘い。これはおいしいかも」

「ナーナ」

 ヘモジが自分にもかじらせろとせがんだ。

 いっぱい抱えてるだろうに。

 壊れていない方の『補助推進装置』も手を入れなければいけないので、食べかけをヘモジの口に放り込んでやった。

 うれしそうにくねった。食べさせて貰いたかっただけか。

 代わりに新しいのをくれた。

 手を加えている間、ヘモジとオリエッタは布と落ちてる枝を使って日陰を作って涼んだ。



 四日後、同じ景色を見ていた。

 遅れを取り戻すべく全力で飛び続けたが、未だ景色は変わらず、右手に青い海、左手には黄色い大地がどこまでも連なっていた。

 この間『補助推進装置』が壊れること数度。こちらを修理すればあちらが壊れるで、予定は遅れるばかり。帳尻を合わせるために転移に次ぐ転移。

 万能薬は飲んでいるが、段々気が重くなってくる。

 故障は減ったが、溜め息は増えるばかり。

 それにも増して、ヘモジとオリエッタは潰れている。退屈過ぎてもう目は虚ろ。端から見るともう死んでいる。

 要するに僕たちはボロボロだ。

 その分『補助推進装置』は順調に稼働中。気が抜けているのはそのせいもあるかもしれない。

 現場に着いたとき、果たして戦闘できるかどうか。

 一日でいいからのんびり寝ていたい。

 連続発破が可能になったのでヘモジたちにも操縦を代わって貰って、大分遅れを取り戻せてきてはいるが、帳尻はまだ当分合いそうにない。

 現在、行程の半分にも満たない五分の二辺りの地点を飛んでいる。このまま何事もなければ、最終日には追い付けるだろう。

 が、操縦をヘモジたちに任せるようになってから、魔石の減りが早くなってきている。それもかなり顕著に、気に掛かる程に。

 転移魔法程ではないが、やはり『補助推進装置』は魔力を食うようだ。

 在庫を心配する必要はないが、後で提出する請求書を見たら会計担当は腰を抜かすだろう。

 一時間だけ眠らせて貰おう。

 起きたら日が沈むまでノンストップだ。

 日が沈む前にテントを張って、夕飯の支度をして、機体の整備。それから……



マイクロソフトがまたやってくれました。大型アップグレードのせいで縦書き文章の三点リーダが横書き表示になってしまう現象が! 

ATOKだけの問題ではないようで、対応待ちです。いい加減にしろ!

 ふとこのまま縦書き文章が書けなくなったらと考えたら、これってマイクロソフトによる一種の文化破壊テロなんじゃないかという妄想が。三点リーダーではなく五十音のうちの一文字でも使えなくなったら、明日から誰も文章が書けなくなってしまう。怖ッ。

 妄想はさておき、とにかく三点リーダが使えないと、どうにもならない。

 締め切り抱えてる人、どうするんだろう。

 早く修正して下さーい。

 使えるフォントを探して済む問題か。

 直んなかったらどうしよう(泣


 言い忘れました。

 遅くなってすいませんm(_ _)m


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