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クーの迷宮(地下13階 ドラゴンフライとハンターフライフロア)泥沼決戦 

 慣れというものは恐ろしいもので、攻め立てられていた子供たちは見違えるように快走していた。射程に関しては即興では無理ということなので、別の方法で挑むことに。イメージより紋章に頼るなど当家の流儀ではないのだが、基本もしっかり学んで欲しいし、あー面倒臭い! あ、いや、ここは我慢である。

 子供たちは考えた末、基本に立ち返ることにしたようだった。足りないところは地形を味方にして補おうと。

 この洞窟はそもそも飛行タイプが戦い易い地形になっている。だったら戦いづらい地形にしてしまえばいいだろうと結論付けられた。

 天井を下げ、足元をせり上げるという大掛かりな仕掛けだ。これなら泥に埋もれず魔石も拾い易くなる。

「土魔法は得意だもんねー」

 既にチビ熊レベルである。

 なるべく天井の低い場所を選び、その天井にさらに人工の氷柱をぶら下げる。

 射程が取れる高度まで降りてきたところを、総攻撃する算段だ。

 ドラゴンフライも地面までせり上がってると思わないから正面から不意打ちを受ける。

 羽を落とされ、キモい頭を吹き飛ばされたら、もう魔石になるまで見向きもされない。

 近場の敵がいなくなると、おびき寄せるために豪快に魔法をぶっぱなし、泥沼を爆破したり派手にやっている。泥遊びって楽しいんだよね、子供の頃は。

 あらかた狩り尽くすと前進、新たな陣地を構築、そして殲滅を繰り返す。

 魔力がいくらあっても足りない。万能薬あっての作戦だ。

「準備できたよー」

「ニコロ、ミケーレ、おびき寄せろー」

「おーッ!」

 敵の強さに馴染んできて段々、剛胆になっていく。

 一斉に三体をおびき寄せた。

 陽動組の脱出を援護するために、火の魔法が次々天井に向けて打ち上げられる。

 怒ったドラゴンフライは我を忘れて子供たちに迫る!

 そして気付いたときには…… 低い天井に押さえ込まれている。

「今だッ!」

 本物の氷柱がドラゴンフライの背中に突き刺さり、地面に標本のように突き刺さった!

「なんであれができて、射程が取れないんだろうな」

 大伯母に何がいけないのか聞いてみるか。

「ハンターフライ!」

 ニコロが叫んだ!

 緊張が走る。

 ハンターフライの『体力吸収』だけは攻略しようがない。体力を削ったところで『体力吸収』を使われると、こっちが瀕死になる。

 見掛けたら優先的に、迅速に排除だ。

 羽さえ落とせれば、狩りの手段は変わらない。

 一気に接近し、一斉に魔法を放つ!

「はい、屑石決定」

 僕はにやりと笑う。

 侮って墓穴を掘るぐらいなら、石橋を叩いて破壊する。生きていれば次がある。子供たちはあの歳でもう戦いの壺を心得ている。

 そして次のドラゴンフライに見付かって、一斉に駆け戻ってくる。

「撤収、急げー」

「追い付かれるぞー」

 トーニオとジョバンニが手を回して撤収を促す。

「元気だなぁ」

「一時はどうなることかと思いましたが、なんとかなりましたな」

 バンドゥーニさんもほっと胸を撫で下ろす。

「甘えてるだけですよ。九本首を倒した者がドラゴンフライでつまずく方がおかしい」

「弓使い優位のフロアですからな」

「魔法の鏃の作り方も教えた方がいいかな?」

「余り詰め込むのはどうかと」

「出口だ!」

 子供たちが出口を発見、なだれ込んだ。

「終わったぁ」

「あれはもういいのか?」

「下、沼だし」

 追い掛けてきた一体は見逃すようだ。

 子供たちはさっさと互いに浄化しあって、回収品の確認を始めた。序盤のぐだぐだで魔石の数は少ないが、落ち込む程悪い稼ぎではない。普段がよ過ぎるのだ。

「思ったより時間掛からなかったね」

 広いということは見晴らしがいいということだ。その分寄り道も少なくて済む。

『精神支配』を持つオリエッタにはドラゴンフライの羽音など風切り音と変わらない。魔法を使わないのでそもそも『沈黙』の意味もないし。オリエッタにかかれば残った袋小路も迂回ルートも羽音の反響でお茶の子さいさいだ。今日は同行していないけれど。

「そういうルートだからな」


 地上に出ると何やら様子がおかしかった。

「何かありましたかね」

 バンドゥーニさんが言った。

 換金ついでに聞いてくるか。

 僕たちは冒険者ギルドに向かった。

 事務所には大勢の冒険者たちが屯していた。

「うわ、満員だ」

 初めて見る異様な景色に子供たちは驚いた。

「本来、冒険者ギルドってのはこういうもんだ」

 皆、船やガーディアンを失ったり、修理中だったりで手の空いた連中だ。中には修理代を稼ごうって奴もいるだろう。

 そんな連中が年端もいかない子供たちのパーティーを見たらどう思うか。

「おいおい、聞いてたのと違うな。この迷宮は中上級者向けだって聞いてたんだが、初級者用の迷宮だったのか」

 笑いが起こった。

 当然、子供たちはカチンときた。勿論、師匠もだ。

「それも違うぜ、おっさん。ここは中上級者向けじゃない。世界初の上級者向け迷宮(ダンジョン)だ。エルーダをやっと攻略した程度じゃ、十層も越えられないぜ!」

 ジョバンニは馬鹿にされて反抗した。

 お前、エルーダ知らないだろ?

「誰の受け売りだ?」

 側にいたマリーに聞いた。

「大師匠。こないだ宣伝文句考えてた。この迷宮を売り込むのに何かいい文句ないかって」

「まあ、確かに九本首が二体も出る迷宮だからな」

 バンドゥーニさんがポツリと漏らした。

 一斉に静まり返った。

「九本首って…… ヒドラだよな?」

「エルーダ準拠って話だからな」

「九本首が複数だって?」

「マジかよ……」

「俺、エルーダも途中リタイヤだぜ」

「さっさとしょぼい稼ぎを換金してこい!」と、僕はこれ見よがしにトーニオの背中を叩いた。

 確かに日頃の僕たちからはしょぼい稼ぎだが、周りの大人たちはどう評価するか。年端のいかない子供が魔石(中)を大量に売り込みに来るなんて、僕やラーラですらずいぶん奇異な目で見られたものだ。

 窓口のお兄さんまで「確かに今日は不作だったみたいだね。ドラゴンフライは手強かったですか?」と話を合わせてきた。

「羽音が耳障りでさ」

「あれは魔法使いにはつらいらしいですからね」

「こいつら魔法使いか!」

「ドラゴンフライってことは――」

「十三階層!」

「そういやこいつらの格好」

 そう。魔法学院の制服のレプリカ! というより、校章外しただけの本物だ!

「もしかして……」

「あー、いたいた。リオ!」

 扉から若い男が入ってきた。

「カトゥッロ!」

 スプレコーンの幼なじみだ。

「副団長たちが探してたぜ」

「久しぶり、こっちに来てたのか?」

「向こうにいてもやることないからな」

「お。これが噂のお前の弟子か。みんなちっけーな。こんな幼い子たち、よく弟子にしたな」

 猫族のお前に言われたかないだろう。

「成り行きでね」

「そっか、将来有望だな。でもそうなるとあの『ヴァンデルフの魔女』の直系の弟子になるんだな」

「大伯母もこっちに来てるよ」

「え? マジで?」

「やべ、見付かったら使いッぱにされる! 俺、行くわ。伝えたからな。詰め所に急げよ!」

「直系の弟子…… 道理で……」

 周りが囁いた。

 また新しい色が子供たちに付いたようだ。

 子供たちをバンドゥーニさんに任せて、僕は急いで砦に向かった。

 この異様な雰囲気と関係があるのだろうか。


 詰め所の扉を通して貰うと、そこには久しぶりに会う顔がずらりと並んでいた。姉さんの直属、酔っ払い集団だ。

 他にも新しい連中が数人。あとは砦の指揮官ロマーノ・ジュゼッペ老と参謀たち、それとラーラと大伯母だ。

「すいません、呼ばれてたみたいなんですけど」

「久しぶりだな」

 副団長が言った。

「どうも」

「南部が落ちたらしい」

 大伯母が言った。

「渓谷砦が!」

「いや、中海の南の方だ」

「え?」



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