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フェンリルの巣

「嘘だろ……」

「今までのは前振り? 前振りなのか! ワイバーンとのいざこざもただの前振り……」

 前哨戦だったというのか!

 洞窟の手前には見張りのフェンリルが一体。前脚に顎を載せて眠っている。

 密林を抜けるとフェンリルの巣穴の入口が普通にあった。

「あの先は出口か!」

「冗談言ってないで早くする」

「ナーナ」

 ふたりに頭をぽかすか殴られた。

「やめろ、当たるな」

「周囲警戒する」

 するも何も敵は見えてる一体のみだ。

 心地よさそうに寝ているところを悪いが仕留めさせて貰う。


「五体か……」

 洞窟を入ったところに五体の反応が密集している。

「子供……」

 反応の大きさからして恐らく。

「ナーナ」

 ヘモジが肩から下りて先行した。

 と、思ったらすぐ釣らずに戻ってきた。

「ナーナ!」

 やはり子供だったと第一声。入ってすぐの場所は広くはあったが、大人のフェンリルを相手にするには少し手狭だとヘモジは述べた。

「でも子供相手なら」

 ヘモジは頷いた。

「よし、中でやるか」

 一気に行こう。

「狙撃スタートで」

「ナーナ」

「了解」

「罠に気を付けろよ」

「ナナ!」

 僕は入口を入ったところで一番遠くの一体を撃ち抜いた。

 フェンリルは警戒して周囲を索敵するが、こちらを見付けられないでいる。

「おや?」

「索敵能力ない?」

「ナナ?」

 ミミズクを襲撃したときのあれはまぐれか? スキルではなく、単に俊敏さのなせる技だったのか?

 どうやら親程の索敵スキルはないようだ。

「次!」

 次の相手を撃ち抜いた。

 さすがに今度は気付いたようだ。視線が合った。

 もう一体いけそうだな。

 視線の合った一体に一撃を加え、絶命させた。

 残った二体は親元へ逃げようと踵を返した。

 そこにヘモジが立ちはだかる! が頭上を簡単に飛び越えられた。

 キャンと鳴いて、一体が転がった。

 無視されたヘモジの怒りの一撃が炸裂した。前回の反省から過剰気味に腹に決まった。

 最後に残されたフェンリルは飛び跳ねるように後退した。

 牙をむき出しにするが、親程の貫禄はない。

 ヘモジはミョルニルを肩に担ぎ、じわじわと距離を詰めていく。

 が、傷付いた一体は天井を見上げるようにエビぞりになると喉を震わせた。

「オオーン」と遠吠えが洞窟内に響き渡った。

 なんで遠吠え?

「あ!」

 洞窟の奥から大きな魔力反応が多数!

「まさか!」

 こいつら自身が『増援』トラップか!

 ヘモジが一瞬遅れて鼻っ柱を砕いたが、既に遅し。

 ゾロゾロと反応がこちらに押し寄せてくる!

 僕たちは逃げ出せる準備をしつつ、身を隠した。

「五…… 六……」

 オリエッタが勘定している。

「七…… 八……」

「おいおい」

「九…… 十一。おしまい」

「ちょっと、数がおかしくないか? 雑魚敵じゃないぞ。全部フェンリルだぞ」

 瞬殺できるのは先頭の数体。残りは一斉に来る。今度は子供じゃないからたまったもんじゃない。外で応戦するのはやめた方がいい。

「ナナーナ」

 安全地帯設置のご依頼だ。

「そうだな」

 ここでやるのが賢明だ。

 子供なら五体入れる部屋も大人では三体も入ればぎゅうぎゅうだし、一度に入れる程通路も広くない。結界でさらに入室制限してやれば、なんの問題もなかった。

「一気に行こうか!」

「ナーナ!」

 狙撃で一体目を倒すと後はもう乱戦になった。

 が、やることはヘモジが来る敵を順番に叩くのみだ。

 この辺りの戦法はエルーダと変わらない。

 結界に張り付いた敵をヘモジが嬉々としてぶん殴る。

「ちょろい。ちょろい」

 オリエッタがリュックから顔を出す。

 勢いを殺され、あっという間に味方を減らされた残り数体は後ずさりし始めた。

「来なけりゃ、遠距離の餌食だ」

 僕は銃口を向けた。


「風の魔石(大)がいっぱい」

 どれも欠損軽微で大収穫だ。

「さすがヘモジ」

「ナーナ!」

 踏ん反るヘモジを尻目にオリエッタが柱の陰に宝箱を見付けた。

「またチーズだったりして」

 オリエッタが嫌そうな顔をした。

「まずは記録だ」

 固定かランダムかわからないうちは記録はまめに。

「罠の難易度も試してみるか」

『迷宮の鍵』をリュックに入れ、ヘモジとオリエッタに預ける。

「『万能薬』を」

 いつでもラッパ飲みできるように口にくわえて……

 即死級の罠はこの階層ではまだないと思うが。ゼロとは言えない。

 念には念を入れて多重結界を最大に……

「初級迷宮でたまに鍛えたこの腕で……」

 カチッ。

「あ」

「お?」

「毒針だ」

「失敗!」

「ナーナッ!」

 鍵穴近くから突き出した細い針が結界に阻まれ、折れていた。

「オリエッタ」

『認識』スキルで毒の難易度を調べる。

「毒レベル二。めまい、しびれ、発作。体力減衰、毎分一割」

 念のため小瓶を一舐めして、栓をする。

「わざと失敗した?」

「まじで」

「ナーナ!」

 ヘモジに蹴られた。

「中身はなーにかな?」

 ふたりも覗き込む。

「お」

「ナ?」

「おお!」

 オリエッタの尻尾がピンとなった。

「魔法の槍はっけーん! 『両手、片手槍。近接百二十。魔法付与、魔法攻撃力プラス百。魔力消費、三。魔力貯蔵量、八十一。魔力残量、ゼロ』」

「……」

「レベル相応。残念」

「ナーナ」

 売却決定かよ。

「他には?」

「金貨二枚」

「ナーナ」

 銀貨一枚……

「紙」

「……」

「なんか書いてある」

「『土地の権利書』?」

「十一階層…… 『陽気な羊牧場』……」

「ナーナ」

 裏側に地図?

 自分が書いた十一階層の地図と照らし合わせる。山岳エリアの未攻略エリアだった。

「後で行ってみるか」

 クエスト発動だ。

 宝箱の中身は以上である。評価は『土地の権利書』次第といったところか。


 奥に進んだけれど、敵は見当たらない。近場の者は『増援』に呼び出されてそれ切りだ。

「換気はないのか?」

「フェンリルはそんなこと気にしない」

 獣臭が増してくる。

 フェンリルの巣であるから部屋の一つ一つに扉はない。あっても土砂で埋まっている。奥に行くに従い、壁と天井は人工物が減って土壁の比率が増えていく。

 分岐の突き当たりで宝箱をまた見付けた。

 罠はなく中身は宝石だった。

「ナーナ!」

 中に両手のひらに載るぐらい大きなガラス玉があった。

 ヘモジは喜んだ。

 オリエッタとふたり「火鼠より効率いいんじゃないか?」と、ささやき合った。

 ふたりはその後一生懸命宝箱を捜すが、ないものはなかった。

 穴は先に行くに従い狭くなっていく。ふたりの情熱も先細りしていく。

 フェンリルがまた現れ始めた。

 子供はいないか慎重に調べる。

 どうやらいるのは大人が数体だけのようだ。

 壁に張り付いて照準器に敵の姿を入れた。


 風の魔石が六つ追加された。子供はいなかったので収穫としてはいい感じだ。

「あれ?」

 最深部まで来たが先がない!

「ん?」

 マップを確かめる。

「抜けてないよな?」

「全部調べた」

「ナーナ」

 ふたりも同意した。

 隠し扉などもなかった。

「まさか外にあるのか!」

 あるいは見逃したかだ。確認しながら戻るか。

「ナーナ!」

 宝箱を見付けた。

「埃被ってるし」

 風魔法で砂埃を払う。

「ここまで来たご褒美でも入っているのかな?」

 たぶん罠だな。

 念入りに防御して鍵を開ける。

 カチッ。

「お」

 今度は罠に掛からず開けられた。

 扉を開けると金銀財宝が少し。残念ながらガラス玉は入っていなかった。

 ヘモジが怒って宝箱を思いっきり蹴飛ばしたら、罠が発動した。

 緑色の煙が小部屋のなかに充満した。

「毒レベル三。麻痺。体力減衰、毎分三割」

「思ったより強力な毒だな」

 装備付与だけで充分無効化できるレベルだが。

「ヘモジ!」

「ナーナ」

 金貨が五枚。その他諸々。パーティーを組んだ冒険者の稼ぎとしても十分な金額だが、フェンリル相手に装備が痛まないわけないから、修理代を考えると…… 人数次第か。

 そんなことよりも!

「出口どこ?」



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