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会場作り

「終わった」

 最後の石の不純物を取り除いたところで終了だ。

「半分売りに行くか?」

「ナーナ」

 火の魔石も風の魔石も我が家では間に合ってる。船やガーディアンを動かす動力源にして貰った方がいい。代わりにその金で土の魔石を購入する。畑のために。

 魔石の半分をリュックに入れて、担ぎ上げる。

 残りはそのままにヘモジと部屋を出ると、オリエッタができたてのクッキーを食べていた。おやつ兼、ソルダーノさんの店に並べる新商品開発の一環であるらしい。

「石を売って来ます」

 僕たちは非常口に向かった。

 オリエッタもクッキーをくわえたまま付いてきた。

「何味?」

「バター風味」

 扉を開けたら突風が吹き込んできた。

「ナーナ」

 ヘモジが後退った。

「風、強いな」

 結界を張りつつ、少しずつでき上がっていく村の景色を眺める。

 特徴的なのは隣家との境がないこと。何軒かで一つの集合住宅になっていることだ。その何軒かが中庭を中心に囲うように建てられている。中庭の草木を砂塵から守るための取り組みだ。

 カテリーナの家は我が家に近い高台にあって、斜面に面している棟が二階建てになっている。しかも中庭には特設の小さな噴水がある。

 遠くの景色が砂塵で黄色く靄っている。

「会場はどこだ?」

「ナーナ」

「展望台?」

 ヘモジ曰く、開発の手がまだ入っていない、村の西側、岩肌むき出しの空きスペースを利用するらしい。

 あそこなら恒久的に会場として使っても構わないだろう。宅地にするには勾配がきつくて後回しになっていた場所だ。

「そうだ。ピザ窯造らないと!」

「ナナ?」

「煉瓦。オリヴィア、持って来たかな。今からじゃさすがに間に合わないか」

「煉瓦どころか、でき上がりがもう会場に設置してある」

 背後から大伯母の声が!

 振り返るとヘモジが足を掴まれ、ぶらーんと宙吊りになっていた。

「ナァー……」

 奇襲に対応したヘモジが大伯母と気付いて蹴りを引っ込めたところを、釣り上げられたようだ。

「嘘でしょう?」

「積んであった資材を使って商会の連中が来る途中、船の上で組み上げたらしい。確実に購入する客が一人いるのはわかっていたからな。余程、船旅が退屈だったとみえる」

「僕のこと?」

「他に誰がいる?」

「だったらうちに設置してよ!」

「それは後でもできるだろ。今は住人と共有しておけ。そうすればピザ生地もソースも売れる」

「商売人かよ!」

「いいから早く行け。子供たちだけじゃ終わりそうにないからな」

「ち、ちょっと! 師匠。それ」

「ん?」

「ナーァナ……」

 逆さまヘモジの額が地面スレスレにあった。

「おでこ擦りそう……」

 オリエッタとまさに額を合わせた。

「あ…… すまん」


「金貨三十枚と銀貨二十枚になります」

 純度が高いんだから、もう少し高く買い取って貰えると思ったのに。

 商業ギルドが来ていない現状では買い取りも無尽蔵というわけにはいかないらしい。流通が滞っている現状では致し方ない。

 でも子供たちのモチベーションは維持してやりたいな。

「火の魔石と言えば…… 焼き肉…… 焼き肉と言えばドラゴン……」

「?」

「??」

 いきなり過ぎたか?

「どうしたの、この人」状態で心配そうに見上げられた。

 ドラゴンタイプはドラゴンの肉の等級で言えば中の上。カラードやエンシェントには代えられないが、それなりにいい肉だ。ドラゴンの肉というカテゴリー自体、そもそも最上級ランクなのだから、庶民にはなかなか手の届かない代物だ。

 だが、ここではただだぶついた肉に過ぎない。

 肉の消費を促せば、当然、火の魔石も消費される。が、これからしばらく迷宮に潜る者が増えることを考えると…… 焼け石に水。消費する側を増やさなければならない。現状、ここにはほとんど冒険者しかいない。必要なら自分で取りに行ける連中ばかりだ。

 早く安全宣言が出せればいいんだけど。タロスとはまだ一戦しただけ。先は長い。

 商業ギルド、早く来ないかな…… 『銀団』に卸してもいいんだけど、身内ということもあり、代金はあるとき払い。つまりランキングポイントが現金化されたときということになる。急ぐわけではないけれど、モチベーションは大事だ。

 特に今のあの子たちには、成果そのものが成長を計る明確な尺度になるのだから。

「商会に直接流すといい顔しないんだよな…… おまけに商会は足元見るから」

 戦が長引けばよかったとか武器商人みたいなことをふと考えた。


 会場が見えてきた。

「やってる、やってる」

 平らにした地面は硬質化され、滑らかな鏡面仕上げが施されていた。

「掃き掃除し易そうだな」

 そこに格子状の化粧線が入っていて、それを目安にテーブルと椅子が並べられていた。

 子供たちは会場の端の岩場で、石を切り出してはテーブルと椅子の加工にいそしんでいた。

「すっかり板に付いちゃって」

 僕の姿を見付けると、現場監督をしていたラーラが寄ってきた。

「師匠がとんでもないから、あの子たちの常識がとんでもないことになってるわよ」

「砂いじりばかりしてたからな。土の魔法だけならもういいレベルだろ」

「あそこまでいったら、工芸品よ。今度、本格的に美術の授業もしないといけないわね。いっそオリヴィアを講師に招こうかしら?」

「ただでさえ忙しいのに」

 子供たちが作ったテーブルや椅子のできを商会の人間だろう、大人が確認しては、並べる作業をしている者たちに流していた。

 授業はもう始まってるようだった。

「何席作るんだ?」

「取り敢えず、四百席かな。明日の昼までにはできるでしょう」

「弟子がいなきゃ、リオがやってたのよね」

 オリヴィアがやって来た。髪を束ね、どこか安っぽいローブを羽織っていた。

「色褪せちゃうのよ」

 強烈な日差しが高価な染め物を駄目にするというので、安物を着込んでいるらしい。そこを無理して押し通すのが金持ちだろうに、とからかったら見本を見せろと言われた。

「僕は僕でやることがあるんだよ」

 話を逸らす意味も込めて早速、窯を見せて貰った。見慣れた物とほぼ同型だった。

 これなら使い方もわかる。

「酒の注文は?」

「もう頂いたわ。在庫分しかないけど」

 当然、考えて持ってきてるんだろ?

「酒蔵を造る資材も運んできてるから、早い段階で自給できるようになると思うけど。それまでは保たせて欲しいわね」

「きれいな水もあるし、いい物ができるんじゃないかしら」

「でもここまでしちゃっていいの? テーブルあのままにするんでしょう?」

「石のテーブルなんてそもそも動かすもんじゃないからな」

「将来は飲み屋街にするつもりらしいわよ。そこの岩場をくり抜いて店舗を何軒か押し込むつもりみたい」

「それならここも有効活用できるわね」

「湖の畔にも人が住むようになれば見晴らしもよくなるし」

「先の話だけどな」

「もう今夜から始めちまおうぜ」

「え?」

 作業員の心の声が聞こえてきた。

「おお、いいね! 持ち込んでやっちまおうぜ」

 ふたりには聞こえていないが、僕にもオリエッタにも聞こえている。

 オリエッタが唖然と声のする方を見詰めている。

「嫌な予感」

「オリヴィア、ソルダーノさんに言って、今日中に酒の在庫を増やした方がいいかもしれないぞ」

 オリヴィアも事態に気が付いた。

「禁止するのも野暮かしらね」

 ラーラも呆れ返った。

「無法地帯にならなきゃ、いいさ」

「ロマーノさんの耳には入れておいた方がいいかしらね」

 肉を焼くテーブルがずらりと並んでいる。相変わらずのビュッフェスタイルだ。商売用の通路が裏手に設けられている。既にテーブルクロスに使う布や、食器を積んだ荷車が運び込まれていた。

「あの食器は?」

「依頼されてた物よ。砂ですぐ傷が付くと言われたから陶器にしようか悩んだんだけど、床がこれだから木製にしたわ。そうだ、光の魔石はどうするの? 頼まれてないんだけど」

「それはこっちで用意するわ。使い切りタイプじゃないから」

「こういうとき教会がいると便利なのにね」

「ただじゃないわよ。それなりのお布施がいるんだから」

「そろそろ来る準備ぐらい、して欲しいわよね」

「ここを一般に解放するまでは無理ね」

「利権の調整をするにしても敵を排除しないことにはな」

「でもあんたの無茶のせいで敵地の状況が少しはわかってきたんでしょう?」

「そういう話題は酒の席まで取って置いて貰うとして。師匠さん、呼んでるわよ」

 子供たちが汗だくになりながら手を振っている。

「親方の腕の見せどころかしら?」

「誰が親方だ!」

 僕たちはふたりと別れて子供たちと合流した。



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