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リオネッロ、異世界に立つ

 ラジオから賑やかな声が聞えてくる。

『やって来ました! 『第五十回冒険者ギルド主催、ミズガルズ勇者ランキング』! 今回はなんと五十回の記念大会! 組織委員会も力が入ってます! とはいえ、相変わらずドラゴンスレイヤーに払うには安過ぎる賞金額なんですが…… その代わりと言ってはなんですが、スポンサー様から優勝者には以下の賞品が送られます!ギルドが所有するオアシス区画の豪邸。ランディングシップだろうがホバーシップだろうが好きに改造できる世界最高水準のドック船を優先的に使用できる権利。有料ってのが鼻に付きますけどね。アールヴヘイムとの往復チケット十年分に始まり、各種飲食店の割引チケットなど選り取り見取り! 詳しくはパンフレッドをご覧下さい。酒盛りやるなら呼んでくれ! 今年も残り一週間、最後のポイント争いが熾烈を極めています! トップは皆さんご存じの、この人ッ! 五年前、突如彗星の如く現われた伝説の美少女! アールヴヘイム出身、彼のエスト・ヴィオネッティー伯の長女にして四年連続、最多ポイント獲得者! 不動のキング・オブ・キングス! リリアーナ・ヴィオネッティー! 今年も既に二位と六千ポイントの差を付けて、独走状態だ! 今年も優勝なるか? オッズは最低の一.一ポイント! ブックメーカーが破産する前に誰でもいいから彼女の暴走を止めてくれー』

「ナーナ」

「表彰式には姉さんもメインガーデンにやってくるはずだから、そこで会えるはずだよ」

 僕たちはヒッチハイクしたホバーシップの格納庫の一角で、厳しい日差しを避けて涼んでいた。

「鼻が乾きそう」

 小人のヘモジが霧吹きを尻尾が二本ある、鼻先と前脚二本だけが白い黒猫に吹きかけた。

「ヘモジ、オリエッタ、人が来る」

「猫の振りする」

「ナナ」

 猫又のオリエッタと小人のヘモジが僕の背中に隠れた。

「腹減ったろ、飯だ」

 トレーを運んできたのはこのホバーシップの船員、トレボーさんだった。飛び込みの客の客室係を仰せつかっていた。

「夕方にはメインガーデンに着くそうだ」

「ビフレストからメインガーデンまでこんなに遠いなんて思ってもいませんでした」

「ポータルも引けない距離だからな。天上から来た連中には不便だろうな。飛空艇のあった時代ならこれでもよかったんだけどよ。この世界じゃ、魔石は貴重だってんでだんだん低く飛ぶのが当たり前になっちまってよ。けちりにけちった挙げ句、地面すれすれを飛ぶようになっちまった。時代っていうのはときに逆行するもんなんだなと身につまされるぜ」

 退化に見えるそれもまた進化の過程なんですけどね。要は制空権を無視したドラゴンにどこまで虚勢を張れるかってことなんだ。強い奴程高く飛んで自分の力と富を誇示するわけだけれど、周りは砂だらけで見つかったら最後、隠れる場所はない。デッド・オア・アライブだ。

 大事な物資を積んだ船がすれすれを飛ぶのは商人として至極当然の理屈だ。

 商人はドラゴンの探知スキルと目のよさを知っているから。

「中型艇はまだ飛んでるみたいですね」

「ああ、駅馬車代わりと金持ち連中さ。まあ、あんなもんは人しか運べねぇけどな」

「そうなんですよね。手荷物がちょっと増えただけで乗車拒否されるなんて思ってもみなかったですよ」

「そりゃ、断わられるだろ? 大体なんだ、あれ? ガーディアンじゃねぇのか? あんなでっかい物、中型艇で運べるかよ」

「でかいと言っても木箱一個分ですよ。フライトシステムも付いてるのに!」

 ガーディアンというのは魔物と戦うために開発された搭乗型の小型戦闘用装備のことである。元々ゴーレムだった物を爺ちゃんの知り合いのロメオ爺ちゃんが、魔力が希薄なこのミズガルズのために改造した火力増強システムだ。搭乗型なのはロメオ爺ちゃんの単なる趣味だ。戦闘狂の冒険者たちに人気が出てしまって、引っ込みが付かなくなって今日に至る。因みに僕の『ワルキューレ零式』は単独起動もできるし、ヘモジやオリエッタの脳波コントロールでも動く。

「しかもこれ、ロメオ社製の新型だろ?」

 工房はロメオ社だけど、造ったのは僕自身である。エヘン、とこっそり胸を張る。

「乗せて貰える船がなかったら、これで移動するしかないと思ってたんですけど。助かりました」

「そんなことしてたら魔石がいくらあっても足んねぇよ。砂漠を長距離行くならやっぱりホバーシップかランディングシップが最適だ。風さえあれば、浮いてる分の魔力だけあればいいんだからな。それにお前が運賃を支払ってくれたおかげで、この船は魔石を買えて、メインガーデンに行けるんだからお互い様だ」

「この船は何を運んでるんですか?」

「この船か? この船はな、元々ドラゴンスレイヤー御用達の『箱船』だったのさ」

「『箱船』?」

「この世界にはタロスって呼ばれる馬鹿でかい先住の魔物群が跋扈(ばっこ)していてよ、それを狩るトップランカーの冒険者たちが大勢ひしめいてるわけなんだが。そいつらを運ぶのが通称『箱船』といわれる輸送船だ。冒険者のためのすべてが詰め込まれた、言うなれば冒険者の家だ。この船だけでドラゴンだろうがなんだろうがその場で解体できる能力があるんだぜ。ランカーたちと専属契約して俺たちは本来成り立つ商売なんだが…… うちの船長がな……」

 ランキング上位の冒険者と契約すれば当然獲物を解体するチャンスも増えるし、金も入ってくる。お互いウィンウィンの関係であるらしいのだが、上位ランカーなんて数える程しかいないのだ。しかも大概上位ランカーには下積みの頃から専属契約している船があるわけで、新規参入は難しく、ランカーと死に別れたりした場合、まず復帰は叶わない。

 そのため上位ランカーと徒弟になった下位のランカーとが同じ船でチームを組んだりするのだそうだ。ポイントはどちらに振っても構わないが、大概強い敵は上位が、雑魚は下位が取ることが多いらしい。

「この船も錆だらけだけど、昔は勇者ランキングでブイブイ言わせてたんだぜ。勇者ランキングっていうのは俺たち『箱船』のランキングでもあるんだ」

「それじゃ、新しい冒険者と契約するために?」

「まあな。そのためにメインガーデンに入港しようってんだけどよ。誰だってオンボロ船より最新鋭の方がいいわな」

「大変ですね」

「まあな。船長が堅物じゃなきゃ、もう少しうまいもんが出せたんだがな」

「おい、救難信号だ!」

 突然、船員たちが騒ぎ始めた。

「まずいぞ、逃げないと」

「なんで? 救難信号なら助けに行かなきゃ!」

「行ったところでどうやって戦えって言うんだ? この船には勇者様はいないんだぜ」

「その通りだ。おまけにこの船には寄り道できる程の魔力は残ってないんでね」

 艦長らしき人物が現われた。こんなオンボロ船を運行しているから、髭もじゃな海賊のような男を想像してたのだが、普通のがたいのいいおばさんだった。雰囲気は我が家の女性陣に近いものがあったが。

「でも!」

「大丈夫だ。冒険者を積んだ船がメインガーデンに続々と集まってきているはずだからな」

「そんなのいつ来るかわからないだろうに!」

「ないもんはないんだよ」

「僕が行く!」

「はあ?」

「お前冒険者か何かなのか?」

「別に、ただの道楽息子さ」

 僕は魔石を懐から取りだした。

「ヘモジ、スタンバイだ」

「ナーナ!」

「オリエッタ、起動しろ」

「分かった」

「うわっ、猫がしゃべった!」

「失礼な、オリエッタは猫又! スーパーネコ!」

 だから猫じゃないだろ…… 

 箱の幌がヘモジによって払われると銀色に輝く金属の箱のロックが外れた。中心を真っ二つに切裂いたように分かれた箱のなかから、人型の人形が現われた。

「ハッチを開けて!」

「悪いが、船は止められんぞ。運搬しなきゃいけない物資はお前だけじゃないからな」

「仕方ありません、後続の船にでも飛び乗りますよ」

「精々頑張りな」

「狼煙は見えるな」

「うん。見える」

「気を付けてな。死ぬんじゃないぞ!」

「ありがとう」

「メインガーデンでまた会おう」

「行くぞ! 『ワルキューレ』!」

 僕を乗せたゴーレムは人と寸分違わぬ動きで、ハッチを潜り抜けると甲板で重心を低くした。

「フライトシステム正常稼働! 魔力薄いね」

 オリエッタが言った。

「後で調整しなきゃ」

「ナーナ!」

「振り落とされんなよ! 発進!」

 僕の『ワルキューレ』は空に舞い上がった。

「凄ー、飛んでやがるぜ」

 トレボーさんが手を振った。

「ナナーナ」

「戦ってるのは一人だけ」

「冒険者か?」

「やれそうなのか?」

「やれるなら救難信号出さない」

「それもそっか。でも助けに来る船影はないみたいだな」

「世知辛いね」

「ナーナ」

「間に合ってくれればいいけど」

「信号弾、撃て!」

 青空に白煙を棚引かせて舞い上がった信号弾は息切れしたところでパーンと弾け飛んだ。



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