第93話 クリスマス・フィードバック・ブディズム その4
「もよりさん、久しぶりだね。メイド服の調達以来・・・」
「わー!わーわー!」
「何?突然叫んで」
「いや、大志くん、ちょっと・・・」
わたしは大志くんを文芸館のエレベーター脇に引っ張っていく。大志くん目当てでやって来た牧田さんの顔が険しくなるけれども、それどころじゃない。
「それ、内緒だから」
「え?奈月先輩からメイド服を借りて、それを着たってことが?」
「・・・何、その省略無しの解説口調は」
「そっか、分かった。内緒なんだね。うん、誰にも言わない」
「もよりー」
あ、奈月さんだ。
「もより、そのスーツ、滅茶苦茶似合ってるよ」
「ありがとうございます」
「でも、わたしはやっぱりメイド服の方が・・・」
「わー!わわー!」
「何、何、びっくりするじゃない」
「奈月さん、それ、駄目だから」
「駄目?何が?」
「メイド服を着たってこと、言っちゃ駄目だから」
「そんな、いいじゃない。かわいいのに。ほら」
スマホをぱっ、と見せるとわたしのオーバーニーの画像だった。
「やめて下さい!本気で絶好しますよ!」
「え、それは困る・・・じゃあ、やめる」
横山高校の校風なのだろうか。大志くんも真面目な顔してるのにやることはやたら主流派の高校生っぽい。奈月さんも陰のあるキャラのはずなのに、最近は光の部分しか見せてない。
「もよちゃん」
「あ、ちづちゃん。ありがとう、来てくれて」
ああ、ちづちゃんを見ると本当にほっとする。
「もよちゃん、その女がそうなの?」
「え?”そうなの”って、どういうこと?」
「だから・・・その女がデートするって言っていた人なの?」
う、こわい・・・
ああ、入学当初の長閑な人間関係はどこへ行ってしまったんだろう。




