第66話 メイド その3
今月、現田さん家の月参りはお師匠とわたしと2人で行くことになった。
高校の先輩の家だから、なんとなくわたしは「パス」と今までは避けていた。けれども今回はお師匠のたっての頼みを断り切れず、付き合うことにした。
その日は折しも朝から冷たい雨が降っていたので、お師匠もわたしも薄手のコートを着て出掛けた。
「こんにちは、咲蓮寺です」
インターフォンでわたしが挨拶すると、応答したのは現田先輩だった。
「現田先輩、こんにちは」
先輩はドアを開けながら、
「お、ジョーダイさん、よく来てくれたね。じゃあ今日は俺もお参りしなきゃな。住職さまこんにちは。さあ、どうぞ」
「先輩、今日はちょっと肌寒いので、コートのまま上がらせて頂いていいですか」
「え?うん、全然構わないよ。どうぞ」
お邪魔します、と仏間まで案内される。お仏壇の前でお師匠はコートを脱ぎ、黒衣で座布団に正座する。その後ろには100歳のひいおじいちゃん、更にその後ろにおじいちゃん、そのまた後ろに現田先輩が座る。
お父さんお母さんは今日も仕事らしい。
おばあちゃんは座らずにお茶の用意をしている。
「おばあちゃん、俺やるよ」
そう言って現田先輩が立ち上がろうとすると、おじいちゃんが鋭く制する。
「和也。お前は跡取りなんだからちゃんと座ってお参りしろ」
「でもさあ、おばあちゃんだってお参りしたいでしょ」
「いいから!」
こわい。わたしは小声で尋ねる。
「すみません。失礼だとは思うんですけど、風邪気味なのでコート羽織ったままでおつとめさせてください」
途端におじいちゃんの顔が険しくなる。
「仏説阿弥陀経~」
お師匠が前触れなくお経を読み始める。絶妙のタイミングだ。
わたしも後に続く。
おじいちゃんは舌打ちするぐらいの勢いだった。
が、今はとりあえずおとなしくしている。
現田先輩は申し訳なさそうな表情。
ひいおじいちゃんは・・・・なんだかよく分からないけれども幸せそうだ。
お経が終わると同時におばあちゃんがお茶を淹れてくれる。
「住職さま。また今日も何かありがたいお話を聞かせてください」
”家長”みたいな態度と雰囲気でおじいちゃんが場を仕切る。
一口お茶で唇を湿らせてからお師匠が顔を上げる。
「はい。今日は冥途の土産話でもしようと思います」
「?」
「ひいおじいちゃんに」




