第61話 文芸館/4Live その6
朝。教室に着いてぐるっと見渡しながら、夕べ聴いた4Liveの演奏を思い出していた。
ライブの演奏ではなく、一応スタジオで録ったらしいもの。
全部で5曲。
ベース、ギター2本、ドラム、ヴォーカル。
4人ということは多分EKと同じ編成。
ギターの内1本はカッティングでリズムを刻むフレーズが多い。
ヴォーカルが歌いながら弾いているのだろう。
演奏は特別上手いとは言えないけれども、曲がとても美しい。
”甘酸っぱい”なんて表現を今時するのはちょっと恥ずかしいけれども、どう言えばいいんだろう・・・・レモネードのような、とでも言えば雰囲気が伝わるだろうか。
そして、詩もいい。
華やかさがある、っていう訳じゃなく、逆によく聴くと哀しい部分が見えて来る。ネガティブな要素もいっぱいあるのにどうしてだろう。
不思議と爽やかさ、清涼感が後に残る。
ヴォーカルの男の子の線が細いけれども切実な歌が、好きだ。
そしてわたしが引き込まれたのはキーボードだった。
4人だけでレコーディングをしてるんだとしたら、キーボードは誰かが弾いて後からかぶせたのだろう。キーボードだけは物凄い演奏テクニックだということはわたしにも分かる。
恐ろしく複雑なフレーズの連続なのに、とてもキャッチーなメロディー。
何よりも鍵盤を叩く演奏者の激情がわたしの心にそのまま伝わって来るようだった。
直感で1年2組の中にはいない、と分かる。
ならば他のクラスを調べたいけれども、もうすぐ始業なので休み時間に暇を見つけて捜すとしよう。
「お、ジョーダイさんだ」
わたしが他のクラスの入り口からにゅっと顔を出してぐるぐる見てるとそれだけで目立つようだ。
「もより、何何?」
と女子が声を掛けてきたりする。
「いやちょっと」
とへらへら笑って挙動不審のまま立ち去る、ということを、1組、3組、4組まで繰り返したところで既に疲れて来た。
昼休み。
急いで弁当を食べ、
「ごちそうさま」
と席を立つと4人が一斉に声を出す。
「どうしたの?」
わたしはまたもやへらへらする。
「いやちょっと」
「え?何?ちょっとって」
ああ。まるで親か姑のようなしつこさだ。わたしはへらへらから方針を変え、もじもじした態度に切り替えてみた。するとちづちゃんが、はっとした表情になる。
学人くんが、
「もよりさん、隠し事は無しにしようよ」
と言うと、ちづちゃんがたしなめる。
「学人くん、ちょっと・・・・」
「え?何?千鶴さん」
「あの、だから、女子には”そういう日”ってあるから」
あ、と男子3人も、はっとした表情になる。
「ごめんなさい」
男子3人が一斉に謝る。
完全に勘違いしている。
が、まあいい。
「じゃ、ちょっと」
わたしはへらへらもじもじしたまま5組に向かう。




