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もよりがシュジョーを救う法  作者: @naka-motoo
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第60話 文芸館/4Live その5

「もよちゃん、背、伸びたね」

「う・・・やっぱり分かる?」

「うん。一目瞭然」

「あーあ」

「何言ってるの。かっこいいのに。足も長くてすーっときれい」

「でも胸が」

「その方がシャープでおしゃれ」

 これはつらい。

 そういう詩織さんだって170cm近くあるのだ。しかも胸が大きい。

「お師匠は元気?」

 ちょっと言葉に詰まったけれども、

「うん、元気」

とだけ答える。

 詩織さんはお兄ちゃんだけでなく、お師匠のことも知ってる。お兄ちゃんのことがきっかけで。

「ア・ホーマンスは知ってた?」

「ううん。ただ、松田優作の映画だから観たいな、って」

「そっか」

 観客が座席に戻り始めた。

「じゃ、帰りに声掛けて。もよちゃんにいいものあげる」

 そう言って詩織さんは戻って行った。


 ア・ホーマンス。清々しい気持ちになった。

 設定は、”ん?ちょっとターミネーターっぽい・・・?”

とは思ったけれども、すごくよかった。

 大作ではないけれども、小さな宝物に触れたような。松田優作の姿が瞼に焼き付いたまま通路に出る。

「詩織さん」

 夕方からの上映の方がお客は増える。慌ただしそうにしているので遠慮がちに声を掛けた。

「あ、もよちゃん。ちょっと待っててね」

 カウンターの奥に引っ込んですぐまた戻って来る。

「はい、これ」

「CD?DVD?」

「CD。あ、そもそもCDプレーヤー持ってる?」

「ない・・・けど、デスクトップPCにドライブ付いてるから聴ける」

「よかった。中央通りの”アーティスティック”っていうライブハウス、知ってる?」

「あ・・・あれがそうかな。上京院の隣・・・っていうよりは上にある店」

「そう、それ」

 上京院はおそらく日本で一番小さな神社。1.5m程の間口に小さな鳥居があり、2m程の奥行にかわいらしいお社がある。おみくじ販売機まである。ジョギングコースにしているのでよくお参りする。

 夕方頃に上京院で柏手を打っていると、斜め左上の方からバスドラにベースをかぶせ、ギターのリフがガーン、と鳴り響いたので驚いた。

 隣の雑居ビルのコンクリートの階段を上った2階がライブハウスだって気付いた。

 ライブハウスのイメージよりも、”ロックの聴こえる神社”っていうのが先に立って、店の名前は曖昧なままに記憶していた。

「アーティスティックに出てるバンドの、自称ミニアルバム。わたしすごく気に入ってて、CDに落として人に配ってるの」

「売り物じゃないの?」

「ううん。バンドが自分たちをPRしたいからどんどん配ってくれって」

「へえ。詩織さんのお薦めなら期待できるな」

「バンド名は、フォー・リヴ」

「フォー・リヴ?」

「うん。数字の4に”ライヴ”で”4Live” 男の子3人、女の子1人」

「へえ」

「全員、まだ高1だよ」

「ほんと?」

「うん。女の子は確か北星高校のはずだよ」

「え?そうなんだ。名前は?」

「うーん、プライバシーあるからフルネームはちょっと言えない。けど、ライブでメンバー紹介の時は、”エミ”って言ってるよ」

「ふーん。パートは?」

「ベース」

「へえ、女の子でベースか。かっこいいな」

「まあ、お師匠の教育方針もあるだろうから勧めていいものかどうか分からないけど、CD聴いて気に入ったらライブハウスにも行ってみてあげて。ドリンク込みで1000円だから、学生でもなんとかなるでしょ」

「うん、わかった。ありがとう」

 わたしはCDを聴かない内から学校で”エミ”を捜そうと決めた。

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