第34話 わたしを見て その6
一周300mのトラック。3周超えたところで前方・・・いや、後方か。他の4人の背中が見えて来た。佐古田くんは彼らを1人ずつ冷徹に抜いて行く。わたしもくっついて一緒に抜く。ギャラリーがざわついてる。
「おい、スゲーぞ」
「いくら他の4人がペース乱したって、普通一周抜くか?」
クラスでもう1人の陸上部100mの谷くんが興奮して声を出す。
「佐古田!県記録のペース、上回ってるぞ!そのまま行け!」
げっ!速いとは思ってたけど、そんなにもか!
ありがたや、ありがたや。佐古田くんのスリップストリームのお蔭でわたしもそのスピードを体感できてるってことがラッキーだね!
先生がしてやったりという顔で腕組みして怒鳴る。
「佐古田くん、上代さん、突き抜けろ!」
”突き抜けろ!”
Break onthroug to the otherside.
EKの宮二が敬愛する、ドアーズのボーカリスト、ジム・モリソン。
彼の魂の歌が、頭の中に鳴り響く。否が応にもわたしの身体が反応し、心の中で、”ぜえーっ!”と気合の声を上げる。佐古田くんが更に加速した。佐古田くんってやっぱりすごい。行け行け、どんどん行け!わたしもちゃっかりついてくから。




