第153話 2年目の春(その8)
「ジョーダイさん、確かにこの北星高校は県でも御三家なんて呼ばれる有数の進学校だ。大多数の生徒は将来の目標につながる大学進学を目指してこの高校に入学してる。それは否定しない」
「ええ、そうですね」
「だが、北星はそれだけじゃないだろう。五十嵐先輩を見てみろ。確かに五十嵐先輩は北星を代表する秀才だったが、学内の様々な活動に心血を注ぐ情熱は勉学だけでなく、人間的にも尊敬に値する人だった」
因みに五十嵐先輩は陸上軌道競走で完全燃焼した後、すさまじい集中力で受験勉強に臨み、見事東大文Ⅰに合格した。まさに絵に描いたような学生の鑑だ。
「はい。五十嵐先輩は素晴らしい方です。でも、わたしは片貝先輩のおっしゃってることもそれに通ずるような気がしましたけど」
「全っ然違う!」
うわ、びっくりした。怒鳴られてるみたいな大きな声だ。森先輩の勢いは止まらない。
「なんで運動会を縮小しようとする? なんで陸上軌道競走を廃止しようとする!?」
「はあ・・・」
「ジョーダイさん、君も会長選に出ろ!」
「はあっ?」
ありゃー、うちのクラスのみんなも、”ええっ?”、て顔になっちゃったよ。何を言い出すんだ、この人は。
「ジョーダイさんなら適任だよ」
「ほら、山口もこう言ってる」
”ほら”、じゃないんだけどなあ。
しょうがない、諦めさせるにはこれしかないか。
「でも先輩、わたし成績悪いですよ。自慢じゃないですけど、真ん中より上に行ったこと、ないです」
「だからいいんだ」
「え?」
「片貝さんと同じ土俵で戦ってどうする。彼女はご両親の仕事の都合で去年他県から移って来ていきなり北星に転入できるぐらいの秀才だ。君にそんなレベルは期待してない」
えらい言われようだな。
「あの・・・」
あ、ちづちゃんだ。助けてよー。
「君は?」
「脇坂と言います。もよちゃ・・・ジョーダイさんに頼むよりも、森先輩が生徒会長に立候補されたらいかがですか?」
「俺では勝てん」
「そうですか?」
「片貝さんを見ただろ? 頭が良くてスジが通ってて、何と言っても美人だ。俺のこの風貌ではどうにもならん」
「なるほど・・・」
はっ、とちづちゃんはこう言ってから、すみませんすみませんと謝り出した。別にいーのに。ちづちゃんは正直でいいよ。
「ジョーダイさんはスポーツは申し分ないだろう。去年里先生とやり合ったことも知ってる。それで、君も見た通り美人だ」
「いえ・・・」
否定するしかなじゃない、こんなの。
「身長は片貝さんに勝ってる」
山口先輩も結構セクハラだな。
「なあ、みんなどう思う? このクラスから生徒会長が出たら誇らしいだろう。ちょうどいいから、脇坂さん、だっけか。君がジョーダイさんの応援演説してあげたらどうだ?」
「あ、それいい!!」
森先輩の呼びかけに女子何人かが同調する。いやいや、無責任すぎるだろ。
「やりなよ、もよりー」
「わたしも応援するよ」
「うん。ジョーダイさんならいいと思うな」
森先輩が満足そうに頷く。
「ジョーダイさん、是非出てくれ。それで、北星の学内活動をつぶさず盛り上げて行ってくれ。立候補の締め切りは今週金曜だよ」
じゃあ、と言って柔道野郎2人は教室を出て行った。
ちづちゃんは・・・と。あっ、やっぱり顔面蒼白になって固まっちゃってるよ。かわいそうに。
「千鶴、大丈夫だよ。さっきもよりを弁護してた時みたいにやればいいんだよ」
女子から声を掛けられ、今にも泣きそう。なんとなく5人組がちづちゃんの所に固まって来る。
「もよちゃん、どうしよう」
「もよりさん、どうする?」
「断りなよ」
「うん、そうだよ」
まあ、そりゃそうだよね。別に雰囲気に呑まれること無い。お・・・と。新担任のさゆり先生が入って来た。HRの時間だ、と思ったら、さゆり先生が開口一番。
「聞いたよ。ジョーダイさん、会長選出なよ。内申思いっきり引っ張り上げてあげるから」
うーん。どうしたものか。




