第151話 2年目の春(その6)
入学式の翌日は片貝先輩の話題で持ちきりだった。
「ねえ、片貝先輩、かっこよかったよねー。ちょっと近づきがたい感じはあるけど、リーダーシップ取ってくれそう」
わたしは夕べ、ネット小説に面白いのがあったので最終話までついつい読んでしまった。半分夢の世界の中でクラスみんなの話をふんふんと聞いていた。
と、宇部くんがすすっと教室に入って来てよく通る声を出した。
「片貝先輩、運動会を縮小する案を公約にするつもりらしいよ」
「縮小?」
「うん。陸上軌道競走も廃止するって」
「え!?」
あ、思わず勢いで立ち上がってしまった。しょうがないか。話を続けてみよう。
わたしはやや大げさなリアクションでこう言ってみた。
「せっかくまた2組になって連勝記録に挑戦できると思ったのに」
「だよねー」
女子も男子も口々に残念がってくれる。
「そうかな? 陸上軌道競走に違和感持ってる人もいたんじゃないかな」
「うん。あれって3年生も気合十分で参加するじゃない? 受験勉強に専念したい人には結構きついものがあるよね」
「ああ、それもそうだね」
わたしはあっさりと陸上軌道競走否定派にも同意する。
「ちょっと。もよりは陸上軌道競走に燃えてるんじゃないの?」
女子の疑問に、わたしはごく簡単に答える。
「いやー、実はどっちでもいいんだよね」
「え?」
「あれ、なんか意外」
「うん、ジョーダイさんはもっと熱い人かなって思ったけどね」
わたしがクラスの中の妙な雰囲気に取り巻かれそうになった時、助け船が出た。
「もよちゃんは、こだわりがないんだよ。いい加減なんじゃなくって、平等なんだよ」
ちづちゃん。
「平等?」
「そうだよ」
わたしには分かった。ちづちゃんは堂々と話してるように見えて、口元が少し震えている。
そうなのだ。彼女の、その奥ゆかしさに抗って、わたしを助けようとしてくれている。
「運動のできる人・できない人、勉強のできる人・できない人、背の高い人・低い人、どの立場にもこだわらないんだよ。もよちゃんはどんな人の立場にもなれる、やさしい人」
「ああ。千鶴の言ってる意味はなんとなく分かる」
「うん、確かに。もよりは物事にあんまりこだわらないよね」
5人組の男子3人も最初は心配そうに口を開きたそうにしていたけれども、今はちづちゃんに任せている。何となくよしよし、となりそうな雰囲気になりかけたところで女子の1人が再び疑問を投げかける。
「でもそれってつまり信念が無いってことなんじゃないの?」
一瞬、しん、と静寂の間があった。
ゆっくりと口を開いたのは、やはりちづちゃんだった。
「偏った信念なら、無い方がいいんじゃないかな?」
疑問を投げた女子が、はっ、とした表情でちづちゃんを見つめ、答えた。
「もよりもすごいけど、千鶴もすごいね」




