第127話 一応、バレンタイン(その1)
「じゃあ、その段取りで」
おー、素晴らしい!
そのミーティングは体育が終わった後の女子更衣室で開かれた。
議題:『バレンタインデーの取扱について』
議決:1年2組は義理チョコを一括購入し、一斉配布を行う。
詳細はこうだ。
ミーティング場所を女子更衣室としたのは、クラスの女子が全員揃っており、男子に気付かれるリスクが最小だから。
メールやラインでは気配で漏れる恐れがある。発議はバレンタインを、”社交辞令”、と捉える女子多数。発起人にはなっていないけれども、まあ、わたしもその1人だ。
少数意見を圧倒して決まったのは次のとおり。
①1人頭200円で市販のチョコを、ショッピングモールのディスカウント店で男子20人分一括購入(同一の商品)する。
②2/14(金)の帰りのHRに女子1人1人が男子1人1人に一斉に手渡す。
③渡す相手は自分と対応する出席番号の男子(男子20人、女子20人でぴったり。また、くじ引きすら面倒。モメたくない)。
・・・買い出しは女子3人が代表して行ってくれる。わたしがするのはその子らに200円渡すだけ。
「はい、200円。悪いけど、お願いね」
「うん、オッケー」
これで、今年のバレンタイン終了。
「もよちゃん」
「ん?ちづちゃん。いやーほんと助かるよねー。毎年自分の立ち位置が分からなくて苦労したけど、今年はほんとに楽。いやー、バレンタインに縁のないわたしにとって、こんなに実務的に済んで本当にラッキーだよ」
あまりに嬉しくて、ついちづちゃんにべらべらと喋ってしまう。
「もよちゃん、それでいいの?」
「え?」
「一応、ジローくんと空くんと学人くんには、それじゃ悪いかな、って
・・・すごいお世話になってるし・・・」
「うーん、まあそれを言われると確かに・・・」
「かと言って義理チョコの対応をクラスで決めたのに、それと別にチョコ渡すのもどうかって感じだし・・・」
うわっ、ちづちゃんも結構クールだな。つまりあの3人へは、”義理ですよ”、って宣言しちゃってるじゃない。まあ、それ以外の対応は確かにないけど。
「だから、ね。提案なんだけど」
ちづちゃんがスマホの画面を示す。
「ほら、オータムホテルでバレンタイン向けのケーキバイキングを来週やるのね。4人以上なら1人1000円。格安でしょ?たとえば女子2人が少し多めの金額を出して男子3人を招待するみたいな形にしたらどうかな、って。前にもよちゃんもオータムのケーキバイキングのこと言ってたよね?」
そうなのだ。奈月さんとデートする時、ちづちゃんの機嫌を取ろうとして、いつか行こうねと確かに言った。
「それにね」
ちづちゃんがよく喋る。珍しいことだけにわたしは迫力を感じる。
「一応、もよちゃんと、友チョコしたいっていうのも本音で・・・嫌?」
「え・・・と・・・」
「だって、奈月さんとばっかりデートして、ちょっとうらやましくって・・・」
いや、その顔は羨ましいって顔じゃない。”妬ましい”、って顔だよ、ちづちゃん。
「分かった。ちづちゃんの言うとおりにする・・・」
「ごめん、無理やりだった?」
「ううん、全っ然そんなことない。わたしは、ちづちゃんやみんなと一緒にバレンタインしたい」
ああ。自分の発する日本語もおかしくなってる。それに、前回心の中で述懐したように、今回改めてまた心の中で言います。
”わたし、ケーキ、大嫌いなんだけど”




