第125話 Ordinary New Year's Day(その9)
「ねえ、お雑煮食べて行かない?」
お客さんをお見送りした後、10代以下限定で朝食会を続行することとした。檀家さんにも了解を貰ってお孫さんたちをお預かりした。3人の子たちも戸惑ったみたいだけど、はい、と言って参加してくれた。
「ちづちゃん、悪いけどレンジでお餅解凍してくれる?」
「うん、わかった」
予定外の朝食なので、ストックしてあった食材を大量投入せざるを得ない。全部で10人ほどの、”若者”、みんなでわやわやと準備する。黒衣を着替えたお師匠が、にゅっ、と入って来る。小学校低学年男子が年齢相応の応対を見せる。
「なーんだ、ただのおじさんだね」
冗談の通じなさそうなお師匠が真顔で、
「バチが当たるぞ」
と言うと、その子は本気でごめんなさい、ごめんなさい、と謝り出した。
「いや・・・冗談なんだけどな・・・」
お師匠は自分の性格にはちょっとだけ悩んでるらしい。
いただきます、と食べ始め、みんなで雑談し始めると、意外なことにその女の子が話しかけて来てくれた。
名前は、歌菜ちゃん。
わたしの見立て通り中学校2年生だった。
「このお雑煮とかおせちとかって、もよりさんが作ったんですか?」
「うん、大体はね」
「・・・すごいですね」
「ううん、いかに手抜きするかの勝負だよ。一部お師匠にも手伝ってもらったし」
「へえ・・・お2人ともすごいですね」
「ううん、別にすごくないよ。だってお師匠なんてさ・・・」
お師匠がじろっとわたしを睨む。構わず続ける。
「黒豆煮る時、さびた釘とか入れるの知ってる?」
「え?すみません。知らないです」
「うん。さびた鉄を入れると豆につやが出てきれいな色になるの。でね、お師匠が手伝ったのは釘を探してきたことだけだから」
あ、ちょっとだけ笑ってくれた。いやー、うれしいな。
ちづちゃんとわたしと歌菜ちゃんの3人で静かながらも話が弾んだ。特にちづちゃんの細やかさには感心させられた。もしかしたら似たような感情を持つ瞬間があるからなのだろう。
ちづちゃんは歌菜ちゃんの心のひだを解きほぐすことができるみたい。
向こうでは残りの2人の男の子を交えて男子共が小学生と同レベルではしゃいでいる。
「嘘?俺らの頃はそんな高いソフト買って貰ったこと無いよ」
「うわっ、やっぱジジイだ」
「こら!10年後のお前らの姿だぞ!」
男子高校生も男子小学生も大差はない。単純な彼らは、”男子共”、という一括りで事足りる。




