先生、ネコがしゃべりません!5
キョウの偵察に寄ると、どうやら歩道からは大きく外れてしまったものの距離的にここらか第1チェックポイントはそう遠くないらしい。風を読んで方角を確認しながらチェックポイントへ地道に歩いて向かう。ただし。
「わーいわーいララちゃんと手が繋げて嬉しいなー」
「すごく仲良しチームって感じがするね!」
実に。実に不本意ながら、私は右手をマナと左手をシホと繋いで歩いている。だってコイツら、3秒目を離すと勝手にどっかいなくなるんだもん。気が付けばドングリ拾ってたり、ウサギ追いかけてたり。
まだ15歳のうら若き高校生だと言うのに、気分はすっかり幼児連れのお母さんだ。母親って大変なんだな。帰省したら母の肩でも揉んであげよう。
「ときにララちゃん。おやつタイムにしませんか?」
「さんせーい!」
……いや。幼児より手が掛かるわ。間違いない。幼児でもここまで空気読まない発言しない。
「しません。誰のせいでタイムロスしたと思ってんの。第1チェックポイントの制限時間まであと10分しかないんだから、おやつ食ってる暇なんか無いっての」
「でも、おなかが」
「ガマンしろ」
グーキュルル、と漫画みたいな音をたてるマナのお腹。しかし私はそれを無視してズンズン歩き進める。半分引き摺るようにマナの手を引きながら。
「マナちゃん!こんな時こそキャラメルだよ!」
「シホちゃんナイスー。それなら歩きながら食べられるね」
手つなぎとビビの抱っこで手の塞がってるマナに代わり、シホはキャラメルの包装を剥いてあげると
「マナちゃん、あーんして」
そう言ってキャラメルをマナの口へ向かって放り投げた。……全力投球で。
「んがっんっぐっ」
「わあ!! マナちゃん大丈夫!?」
「何やってんだアホー!!」
怪力のシホが投げたキャラメルはストレートにマナの気管に入り、お年寄りの餅さながらの殺傷力を発揮した。マナが苦しそうに目を白黒させている。
「水!シホ、水!!うわ、マナしっかりしろ!」
マナの顔がだんだん青白くなってきた。ヤバイ。レク大会で死者とか新聞に載りたくない。私は必死でマナの背中をバンバンと叩いた。確か餅を喉に詰まらせた老人はこうやって救う筈。とにかく生きろー!
数分後。四苦八苦の応急処置で一命を取り留めたマナは
「やー死ぬかと思ったよー」
ヘラヘラと笑いながら額の脂汗を拭った。こっちも冷や汗びっしょりだよ。なんでたかがレク大会でこんな心労を負わなくちゃならんのか。
「わーん! マナちゃんゴメンねー!! 今度はちゃんと口に入るように投げるからね!」
「シホは人の口に食べ物投げるの絶対禁止!!」
人を殺しかけておいて懲りないシホに私は禁止の魔法を掛ける。手の甲に封印の魔方陣。これでシホは私が許可するまで物を投げられなくなった。
「って、おい。あと3分しかないぞ」
キョウの言葉に腕時計を見れば、第1チェックポイントの制限時間まであと3分を切っていた。
「やばい!! マナ! シホ! ダッシュだ!!」
「アイアイサー!」
アホくさい返事にツッコむ気力もないまま私はふたりの手を引いて走る。けど。
「マナ遅い! 遅すぎる!!」
そうだ忘れてた。コイツ、運動神経もまっったく無いんだっけ。50メートルも走らないうちに息切れしているマナの足は、もうドン亀並の速度まで落ちていた。
「し、死んじゃう~」
「死なないから早く走れ! ってかアンタ本当に15歳か!?」
本当にコイツは今までどうやって生きてきたんだろうと、老人以下の体力のマナを引き摺りながら走る。重い。そんなマナに四苦八苦しているうちに、時間は残りあと1分だ。
「ダメだ、間に合わない……!」
馬鹿ふたりと同じチームで苦労するとは思っていたけど、まさか第1ポイントすらクリア出来ないとは。学校一の天才魔女の肩書きが泣くわ。
悔しい想いで唇を噛みしめてると
「マナちゃん、疲れちゃったの? じゃあ私が抱っこしたげるね!」
そんな事を言いながらシホが涼しい顔でヒョイッとマナを肩に担ぎ出した。
「えっ! ええー!!?」
軽々とひとりの人間を担いでしまったシホに目を丸くしていると
「ララちゃんもどーぞ。さっきのお詫びね」
なんとシホはもう片方の手で私を軽々と抱きかかえ、小さな肩にヒョイっと乗せてしまった。
「キョウさん、あと何分?」
「あ、あと1分だが……」
「距離は?」
「おそらく、あと800メートルはある」
「余裕、余裕」
ひたすら呆気にとられている私の耳に、シホとキョウのそんな会話が飛び込んできて、そしてザッザッと云う地面を足で掻く音が2,3回聞こえたと思ったら。
「ふたりともしっかり掴まっててね!ロキも!」
その声掛けを合図に、シホは私とマナを抱えてカタパルトみたいに豪速で走り出した。