先生、ネコがしゃべりません!4
「……あっちゃー。だから言ったのに……」
あまりの阿呆さに目も当てられない。本当に首に縄でも括りつけておくべきだったわ。
「大変ララちゃーん!マナちゃんがー!!」
「分かってるって、ちょっと待ってな」
マナがスッポリ落ちていったホールを覗き込むと、どうやら中は異空間に繋がっているようだった。多分、他の落とし穴と繋がっていて何処かへ飛ばされてしまったんだろう。
「仕方ない、追いかけよう」
どこに繋がってるか分からない以上、私たちも同じように飛び込むしかない。あーあ、戦略どころじゃないやこりゃ。虚しく溜息を吐き出した私に、キョウもやれやれと同情の眼差しを送る。
シホと一緒にホールへ飛び込むと空気がうねる様な異空間を通過した後に、ぽーんと山林の何処かへ放り出された。
「どこだろう、ここ」
辺りを見渡せばスタート地点より遥かに薄暗い。遊歩道から大分外れた森の中のような気がした。
「あー!マナちゃーん!」
シホが指差して叫んだ方を見ると、ホールから放り出されたときに頭でも打ったのか、目を回して木陰に倒れているマナの姿が。
「うわ、でっかいコブ。まあいいや、水でもぶっかければ起きるでしょ」
目を回してるマナに駆け寄って様子を診ていた私は、その横で静かに座っている黒猫の姿を見つけた。
「……ビビ。偉いじゃん、あんたマナから離れなかったんだね」
ビビはチラリと私を見上げたあと、つまらなさそうにフイっと顔を背けながら
「……仕方ねえだろ。勝手にフラフラして迷いネコになるより、ここでお前らの助けを待った方がマシだったんだから」
反抗期の子供みたいな悪態をついてきた。
「わ!ビビさんが喋った!ビビさん喋れたの!?」
「あたりめーだろ!これでも魔女のパートナーとして育成されたネコだ、人の言葉くらい朝・飯・前・だ!ただ俺は喋りたくねーから喋らなかったんだよ!!」
驚いてるシホに喰いつかん勢いでビビが歯向かう。初めて口をきいたと思ったらこのふてぶてしい態度。マナはポンコツ魔女だけど、コイツも違う意味でパートナーとしてはポンコツだわ。黒猫のクセに魔女への敬意が足りなさ過ぎる。
「そんなに喋れるんならマナともさっさと喋ってやんなさいよ。アンタから魔法力送れば会話ぐらいできるでしょ」
「いやだね。そもそも俺はこの女を主人どころか魔女とも認めてねえ。あーあ、せっかく魔女のパートナーとして育成されて来たっつーのに、こんなヤツに指名されちまった俺の悲しさが分かるかよ?ほんっと悲劇だよ」
まあ……気持ちは分かるけどさ。確かにマナは魔女とは言いがたいほどの劣等生だし、アホだし、いっつも半笑いだし、よく転ぶし、カボパン穿くほど色気も無いけど。でも。
「……でも、頑張ってるでしょ。アンタのこと不良品として送り返す事だって出来るのに、諦めずに話しかけてるじゃん」
もうかれこれ1ヵ月無視され続けてるのに、パートナー交代をマナは決して言い出さなかった。もしかしたらそこまで考えが及ばないだけかも知れないけど。
「ビビさん!マナちゃんはビビさんの事が好きなんだよ!」
シホもビビに向かって力説する。……って、なんか既視感のある台詞だな。
「……ただの諦めの悪い馬鹿じゃねえか。俺は絶対コイツを主人だなんて認めないからな!」
すっかりふてくされてしまったビビは、八つ当たりでマナの額にネコパンチする。バシッと勢い良く当たった肉球の刺激に、偶然にも目を回していたマナの意識が元に戻った。
「う、うーん。あれ、ララちゃん、シホちゃん」
「マナちゃん、良かった!起きたー!」
喜んで勢い良くシホに抱きつかれたマナは「わあ、シホちゃーん」と再びスッテンコロリンと転がったけど、すぐに身体を起こすとキョロキョロと辺りを見回した。
そして、背を向けて座ってる黒猫の姿を見つけて目を細める。
「良かったあ、ビビさんも無事で。ゴメンね、私が抱っこしたまま落とし穴に落ちちゃったから」
あーあ、またそんなに謙って。だからビビに舐められるんだよ。そう思って呆れた溜息を吐き出そうとしたけれど。
ビビはチラリとだけマナの方を見やると、再びフイッとそっぽを向き尻尾を一回だけパタリと動かした。
「さー行こー。レク大会の続きー」
立ち上がったマナがビビを抱っこしてニコニコと私達に言う。さー行こーじゃないよ。誰のせいで無駄な時間過ごしたと思ってんの。
「まったく。もう勝手に動いたりしないでよ。今度勝手な行動とったらそこら辺にいる蛇でアンタのこと縛り上げるからね」
「恐い!」
脅し文句でマナたちを大人しくさせたところで、私は気を取り直し再びキョウと作戦をたてなおした。