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先生、魔法が使えません!6


***


 ――私がマナと仲直りをした2日後。再び研究員がやってきて最初の経過観察が行われた。



「パッチをつけてからマナさんに対するララさんの心情に、自覚出来る変化はありましたか?」


 白衣を着た研究員が尋ねた馬鹿馬鹿しい問診に、私は胸を張って堂々と答える。


「ええ、ありました」


「ほう、それはどんな?」


「私、改めてマナの事が大好きだなあって自覚しました」


 バインダーにペンを走らせていた研究員が、パチクリとこちらに目を向ける。まるで鳩が豆鉄砲食らってるみたい。


「多分、この先何年経とうとも結果は変わらないと思いますよ。パッチがあろうと無かろうと、私はマナを1番の友達だと思ってます。多分、私以外の人に着けても同じじゃないかな。そんなあやふやな魔法より、みんなあの子のいい所に惹かれてると思うから」


 そう笑顔で答えた私に、研究員たちは困惑した表情のまま顔を見合わせていた。あはは、なんだか可笑しい。


「研究の協力が必要なら何十年だってパッチを着け続けてあげるわ。だってそれが、マナを他所へ連れて行かない条件だものね」


 さらに付け加えた私の言葉に、今度は研究員の顔が渋く歪む。


「確かにそれは当初の条件だが……場合によっては被験者の環境を変える必要性も」


 初老の研究員がそこまで口にした時、呻く様な地鳴りを上げて学校全体が大きく揺れた。「地震?」と驚いていた研究員たちも、それが尋常じゃない魔法力によるものだと直ぐに察知する。


「長谷川ララ、まさかこれは君の魔法か? アンチマジックの封印が掛かってるのに何故」


「魔法研究員なら知ってるでしょう? これは契約よ。研究に協力した魔女と、マナを連れて行かないと言った貴方たちとの。両者の合意に基づいた契約はアンチマジックの力を上回るわ」


 椅子から立ち上がり腕を組んだ私に、研究員たちは警戒の目を向ける。やっかいな人物と認定されたのか、捕獲の態勢を取り出した。


「君がいくら優秀な魔女とは言え、こちらも世界的研究機関だ。大きな魔力を無効化する術ぐらいは常備している。悪いが契約は破棄だ」


「そっちが世界的機関ならこっちは世界ごと焼き尽くしてやるわ!」


 叫ぶように言い返し、私は自分の手の甲に青く浮かび上がった烙印を研究員たちに向けて見せる。


「私の守護神はかつて神話の世界を焼き尽くした古の神竜よ。契約が破棄されたり私の身に何かあれば現世に現れ全てを破壊するよう命じてある。どんなに高度な研究を重ねたって、人が神に敵うと思う?」


 御印の烙印から発せられる異常な魔力に、研究員たちも私の言葉にウソがない事を察したのか顔色が変わった。ピンと緊張の糸が張った沈黙がしばらく流れ、やがて初老の研究員が


「……分かった。君に従おう」


と呟くと、周囲の研究員もおそるおそる捕獲の態勢を解いた。



 ――良かった。やっぱりへーさんの力を借りておいて。


 昨日急いで幽界に行き、マナを気に入っている古代神に力を借りた事を、私は心の底から正解だと思った。


 パッチを着けた私に変化が見られなければ、様々な環境で観察したい研究員はマナをどこか他所に連れて行ってしまうかもしれない。それを危惧した私は、個人の力では絶対敵わない巨大な機関に立ち向かうべく、それを上回る力を求め幽界の奥へと入った。


 事情を話すと、真名を教えるほどマナを気に入ってるヘーさんはぶっとい牙を剥き出しにして大地を震わす唸りを上げた。


『くだらん人間風情が、神の寵児を囚えようと言うのか』


 利害は一致した。有能とは言えたかが人間、しかもまだ子供である私がマナを守ると云う意思のおかげで、古の神と召喚の契約を結ぶ事に成功したのだ。


『マナに伝えろ。愚な者に己を晒す(いとま)があるなら我の元へ来いとな』


 帰ろうとした私に預けられたヘーさんの伝言を聞いて、コッソリと笑いを零す。だって、考えてみたら古代神にヘナチョコな感情感染なんか通じるはずないもんね。ほら、ここにも魔法なんか関係なくマナを好きで堪らない人がいた、って。私は古代神に勝手なシンパシーを感じながら、なんだか嬉しい気持ちで現世へと帰ってきた。

 

 

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