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第二話 先生、ネコがしゃべりません!


第2話 先生、ネコがしゃべりません!




「にゃー?」


「……」


「にゃー?」


「……」


「はろー?」


「……」


 さっきからベッドの上で高浜マナが一生懸命ネコに話し掛けている。最後なんで英語になったかは不明だけど。けれどネコの方は頑なにシカト一択だ。


 ネコに話し掛けるなんて、アホの子のマナがやってるとヤバイ行為にしか見えないけれど、これは魔法学科の必修実技。


 魔女と言えば動物のパートナーを持つのが大昔からの決まりごと。スタンダードな黒猫に始まり、カラスやイモリ、変わったとこだとフクロウやハトのパートナーなんてのもいる。


 我が私立葛飾女子高等学校の魔法学科では1年生の1学期にパートナーを作ることが義務付けられていて、学校を通して購入した動物とは、以降在学時だけではなく卒業してもずっと一緒に暮らさなくてはいけない。


 いわば魔女人生の伴侶とも言えるだろう。だからパートナー選びはみんな真剣そのもの。学校が提示したサンプルだけでなく、自ら魔法専門のペットショップを見て回る生徒もいるくらいだ。


 パートナー選びの基準は魔力と相性、それに能力。人によってパートナーに求めるものは違うだろうけど、私は高い魔力と知能を有するカラスを選んだ。主人である魔女の能力が高ければパートナーに変身魔法を掛けて人型にする事も出来る。将来、自分がどんな仕事に就くかはまだ決まってないけれど、カラスの知能と機動力は人型になっても大いに私の役に立ってくれるはず。


 魔女とパートナーの関係は独特だ。主従であり友人であり伴侶でもある。絶大な信頼と強固な契約がなくてはやっていけない。つまり、高い魔力を持つ魔女ほどその関係は築きやすいのだけれど。


「にゃーにゃーにゃー?」


「……」


「ララちゃん、この子しゃべらないみたい」


 マナのように魔法力が測定不能なほど低い魔女には、当然動物だって従ってくれるはずが無いのだ。


 マナが学校を通して購入したのは一匹の黒猫。スタンダードだけど、黒猫は魔女への忠誠心が高いし潜在的な能力も高い。選択的には間違ってなかったと思う。しかし。購入してから1週間が経とうというのに、マナは未だこのネコと契約どころか言葉も交わせていない。


 そもそもポンコツのマナは従わせる以前に動物と喋れない。魔女が全ての動物と話せる訳ではないけれど、魔力の高い黒猫やカラスとならば大抵の魔女は会話が出来る。これも魔法学科の基礎中の基礎なんだけどね。


 ところがその基礎中の基礎も出来ない例外なポンコツもいるわけで。マナは黒猫のビビを購入してから寝る間も惜しんで話しかけているけれど、ビビは会話どころか「ニャー」とさえ鳴きもしない。


 これはもうカンペキに反抗している。ビビはこのポンコツにパートナー指名された事に全身全霊で歯向かっているのだ。まあ、気持ちは物凄く分かるけど。


「今日はその辺にしといたら?アンタ、今日も補習の課題プリントあるんでしょ、寝る時間なくなるよ」


「うーん、そうだね。じゃあビビさん、また明日ね」


 クリクリと頭を撫でてからマナがベッドを離れると、ビビはようやく邪魔者がいなくなったとばかりに安心して目を閉じ寝息を立て始めた。


「……根性のある娘だな」


 私のパートナーであるカラスのキョウが部屋の隅に置いた止り木の上からボソリと呟いた。


「それだけがマナの長所だからね。でもあのネコも相当根性あるわ。いくら認めたくないからって主人を一週間も無視しつづけるなんて前代未聞じゃない?」


「どっちが先に折れるか、見ものだな」


 キョウは楽しげに目を輝かせると窓枠へ向かい羽ばたいた。


「外にいる。何かあったら呼んでくれ」


 カラスにとってやはり部屋にいるのは窮屈なようだ。キョウは基本、外で過ごすことが多い。それでも私が指笛を吹けばどこにいたって即刻帰ってくるのだけど。キョウとパートナーになって1週間、主従関係はカンペキに築かれたと思って間違いないだろう。


 それにくらべ。ポンコツとやさぐれネコと来たら。


「キョウさんとお喋りしてたの?いいなあ、ララちゃんはパートナーと仲良しで」


 キョウの声が聞こえないマナは、まさか自分が話題になってたとも知らずニコニコといつもの笑顔で私に話し掛ける。


「仲良しじゃないわ、魔女にとってこれくらいフツーなの。てか、いいからアンタはプリントやんなさい。先に寝ちゃうからね」


「はーい」


 素直ないい返事。小学生か。再び机に向かったマナを見て、私は寝転んだ自分のベッドから隣のベッドで丸まっている黒猫を眺めた。せめてマナが会話ぐらい出来ればコイツも折れてくれるかもしれないのにね、なんて考えながら。



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