先生、魔法が使えません!4
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――感情感染。
それが本当なら、確かに今まで疑問だった事も全て合点がいく気がする。マナがどんなにポンコツでもからかわれたり虐められたりしなかったのも。あれだけ反抗的なビビが懐いたのも。レク大会で襲い掛かってきた熊が突然止まったのも。精霊や古代神までがマナに心を開いたのも、みんなみんな。
……じゃあ、やっぱり私も?
考えれば考えるほど淀んでいく思考を振り切るように、私は寮へ戻る道中の足を止めて目を堅く瞑り頭を横に振った。
「あーララちゃん来たー。おかえりなさいー」
私を待っていたんだろうか、門柱の所で座り込んでいたマナがこちらを見て立ち上がり、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ビビさんも一緒だー。おかえりなさい」
私に抱かれていたビビを見つけ、マナは手を伸ばし黒猫の身体を抱き上げる。胸に抱いたビビと私を交互に見つめ、マナはもう1度ニコリと幸せそうに目を細めた。
その笑顔を見て、涙が溢れそうになる。
…………友達だと思ってた。馬鹿だけどイイ奴だから大好きだって。コイツが笑うためなら魔法だって勉強だって教えてやろうって。ずっとずっと、呆れながらも一緒に笑っていたいって、思ってたのに。
全部、魔法のせいだったなんて。
「……ララちゃん? どうしたの、お疲れ?」
唇を噛みしめて俯いてしまった私を心配して、マナが顔を覗き込んできた。そのおせっかいなヤツの肩を、私は強く突き飛ばす。
「……しばらく話かけないで。放っておいて」
尻餅を着いてポカンとしているマナを置き去りに、私は涙を見せないように顔を背けると、そのまま寮の玄関へ向かって走っていった。
***
始業式を迎え、私達が2年生になって3日が経った。
魔法学科は学年に1クラスしかないから、クラスのメンバーは変わらないままだ。当然、マナともまた同じクラス。
けれど、私はあれからマナと一言も口を聞いていなかった。
いや、私が一方的に無視してると言った方が正しいのかもしれない。マナはおずおずと、けれどしつこく毎日こちらに話しかけてくる。『ララちゃん、おはよう』から『怒ってますか?』なんて、機嫌を伺うような言葉まで。
そんな彼女の態度が、私をますます頑なにさせた。だって、悔しいんだもの。マナを好きな気持ちを裏切られたみたいで。ずっと騙されてたみたいで。
子犬みたいな目をしてお願いするマナを放っとけないと思ってた気持ちでさえ、ウソだったんだ。今さらこの子がどんなに健気に寄って来ようと、何も思いたくない。
それがマナのせいじゃないと云う事ももちろん分かっていた。彼女が望んだ力じゃないし、知ってて使っていた力でもない。けれど――
「……ララちゃん。次の体育、いっしょに行こう?」
相変わらずめげずに話しかけてくるマナを無視して、私は席を立ち独りで体育館に向かった。眉毛を八の字に下げて、大きな目をウルウルさせているマナを置き去りにして。
――けれど、あまりにショックだったから。マナを大好きだった分、私は今の状況にどうやって向き合っていいか分からない。
「ララちゃん、マナちゃんとケンカしてるの?」
体育館に向かう廊下の途中で、駆け寄ってきたシホがそう話しかけてきた。
「別に」
そっけなく答えながら気付く。そう言えば私、最近シホともあまり喋ってない、と。……シホだけじゃない。クラスのみんなともだ。私、いつもマナといたから、それを媒介にみんなと喋れてた……?
「なんか最近、ララちゃんちょっと恐いよ。前はもっと優しかったのに」
「うるさい! あんたなんかに私の何が分かるって言うのよ!」
しょんぼりと呟いたシホの言葉にショックを受けて、私は思わず大声で怒鳴ってしまった。驚いて呆気にとられてるシホにそっぽを向き、早足で体育館に向かう。
ヅカヅかと大股で歩きながら、シホの言葉が痛く胸に残っていた。マナと居たときは、自分が自然と笑顔になれていた事に気付かされて。
「……今さら独りじゃ、上手に笑顔になんかなれないじゃない……マナの馬鹿……」
改めて痛感する友達の大切さに、また涙が滲んでくる。
なんでこんな事になっちゃったんだろう。出来る事ならマナの能力なんか知らずにずっと側にいたかった。騙されたままでいい。ずっと一緒に笑い合っていたかったのに。
誰も居ない廊下の影で涙を拭い、その手首につけられた忌々しいブレスレットを強く睨みつけた。




