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先生、魔法が使えません!3


 ――これから話す事は決して他言しないように、と注意しながら、大人は私の声帯に封印の魔法を掛けた。


 何さ、言いたくても封印掛けたなら言えないじゃない。だったらわざわざ注意までする事ないのに。と私は軽く苛立つ。こんな封印、私の魔法力なら解くのは容易い。解いて驚かせてやろうか。


 そんなイライラした気持ちで、連れて来られた学校の会議室をぐるりと見渡すと、白衣を着た大人にビビが抱えられてるのが目に入った。


 ビビは実に不機嫌そうな顔をしながらも大人しく抱かれている。そして、その首にはいかにも何かの魔法力が籠められた宝玉付きの首輪が填められていた。


「……なんでビビに首輪なんか填めるの? ビビはパートナーよ、ペットじゃないわ。外してあげて」


 不満を籠めて喰って掛かった私に、ビビを抱いた大人は少しも動じずにこちらを向くと


「これは首輪じゃない。高浜マナの魔法の影響を受けないためのパッチだ。悪いけど長谷川ララ、君にも付けて頂く事になる」


耳を疑うような事を言ってのける。


「……パッチ?」


 聞き返した私に大人はソファに座る事を促し、それに従うとゴロ先生と数人の白衣を着た大人が正面に座って真剣な面持ちで口を開き出した。


「まず紹介をしよう、我々は世界魔法研究機関の研究員だ。この度は高浜マナさんの魔法力について、長谷川ララさんに協力をお願いしたく来て頂いた」


 正面に座った初老の男性はわりと丁寧に私に喋りかけた。きっと彼が責任者なのだろうと伺わせる。


「先日、我々の行った精密検査で高浜マナさんにとある魔法力が備わっている事が判明した。被験者が大変に少なく未だ研究段階にあるため、どこの国でも公にしていない魔法だ」


「もったいぶらないで。あの子がいったい何だって言うのよ? もう検査は終わったんでしょ? マナは明るいポンコツのままでいいんでしょ? いつもの日常に戻れるんでしょ?」


 不安と苛立ちで思わず食って掛かってしまった。分かってる、きっと私の攻め立てるような質問に望む答えは返って来ないんじゃないかって。だからそれを払拭したくて、私は余計に目の前の大人に反抗してしまう。


 前のめりになった私に、落ち着いてと片手をあげていさめると、初老の男は


「彼女の人権に配慮してなるべく以前と同じ生活に戻す努力はする。けれど、その力をこのまま野放しに出来ない事は理解して頂きたい。何故ならそれが国家を揺るがす危険性も秘めているものだからだ」


そんな、聞きたくも無い説明を始めた。



『感情感染』


 研究者はマナの魔法力をそう呼んだ。


 それは呼んで字の如く、感情を周囲の人間に感染させる力なのだそうだ。大変に珍しく現在世界でその力を有する人間は50人にも満たず、それが魔法力の一種だという見解になったのもここ数年の事らしい。


 最新の研究によると、その力は非常に弱く周囲の自我を侵食する程の強さは無い事、そしてあくまで“感情”であり確固たる“思考”は感染しない事が分かっている。


「たまにいるだろう? その人物がいるだけで場の雰囲気が和らぐとか、どこに行ってもその人物が所属するとグループの雰囲気が変わっていくとか。あれをどんな条件にも拘らず魔法によって引き起こせるのものが“感情感染”能力保持者という訳だ」


 研究員たちは幾つかの事例を挙げながら私にそう説明した。そして。


「感染するのは継続する感情だけなんだ。雰囲気と表した方が分かり易いかな。つまり、いつもポジティブな人間なら周囲も明るい気持ちになっていくし、逆にネガティブな思想持ちなら周囲も鬱々としていく。マナさんに於いては、君が身を持って理解してるんじゃないかな」


 まるで、いい話でもするように微笑を浮かべながら私にそんな残酷な事を告げた。



「『みんなと仲良くなりたい』。それが高浜マナさんが継続して抱いてる思想であり、周囲に感染させている感情だ」



 ――ウソだ。


 だったら。私があのポンコツを手が掛かると思いながら見放さないのも、馬鹿だ馬鹿だと思いつつ一緒に居て楽しいのも、あの間の抜けた笑顔を見ると嬉しくなるのも、人嫌いだった私が初めてマナを友達だと思えたのも。


 全部、魔法に掛かってただけなの?



 ウソだ。ウソだ。



「マナさんがこの能力を持ちながらポジティブな性格だった事は幸いだった。もし彼女が危険な思想を持ち、暴力的ナ感情を周囲に感染させていたのなら、大変な危険人物として即隔離の国家命令が下されていた事でしょう」


 初老の研究員はどこか安堵した様子でそう言ったけれど、それがなんだって言うんだ。そんなの、全然問題にもならない。あのアホが危険思想なんて抱けるほど利口なワケないのだから。


「計測した感染力が非常に低い事、即刻隔離の危険性がない事からマナさんにはこれからも基本的には普通の生活を送って頂く。ただし、彼女が貴重な被験者である事には変わりない。マナさんとその周囲が監視体制に置かれる事をご理解頂きたい。特に長谷川ララさん、貴方は現在もっともマナさんと接触が多い。そこで」


 目の前の研究員が手を上げると、近くに居た助手らしき女が私の前に箱に入ったブレスレットを差し出した。ビビの首輪に付いてるのと同じ宝玉の埋め込まれたブレスレットを。


「先ほど述べたように、貴方には協力を願いたい。これは彼女の魔法に感染しないようアンチマジックが掛かっている宝玉だ。最も身近である貴方とパートナーの猫が、パッチをつけた状態でどれほどマナさんの感染力を退けられるのか。また、心境や関係性に変化は見られるのか。観察させて頂きたい」


「ふざけないで!!」


 研究員のあまりに勝手な言い分に怒りが爆発した私は、勢い良くソファーから立ち上がった。感情が抑えきれず、自分の魔法力も共に爆発するのが分かる。けれど。


 テーブルや窓ガラスが吹っ飛んでもおかしくない位の魔法力を放出したにも関わらず、会議室は変わらぬ静寂を保ちカーテン一枚さえはためいていない。


 不思議そうな表情をした私に、初老の研究員は座ったままこちらを見上げると


「悪いが、この会議室にもアンチマジックの結界を貼らせてもらった。君が有能な魔法使いだという情報は得ていたのでね」


悪びれる様子もなくそう言って、私にもう1度座るように促した。


 ……アンチマジック。私の強力な魔法力を抑えきれるなんて。やっぱり世界的組織の研究機関は伊達じゃない。どんなに私の魔力が強くったって、こんな人たち相手に反抗するのは無意味だと、一瞬で思い知らされた気がした。


「もう1度改めてお願いしよう。長谷川ララさん。私どもの研究に協力して頂きたい」


「……嫌だって言ったら?」


「影響力の測定が出来る環境に、高浜マナさんを移動させる。それだけだよ」


 私の力でも、きっとゴロ先生の力でも、こんな巨大な機関に逆らうなんて無理だ。人を実験台にしか見ていないみたいで悔しいけれど、本当に癪だけど、私は奥歯を噛みしめながら鈍く宝玉の光るブレスレットを腕に通した。


「これでいいんでしょ? だからマナを……どこにも連れて行かないで」


「ご協力に感謝するよ。では、早速だけど今後の予定を教えておこう。週に1度、こちらの研究員が伺うので脳波の検査と心理テストを――」

 

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