先生、魔法が使えません!2
「ちょっと予想外の結果が出てね」
いつもいつも変態的な笑顔を浮かべているゴロ先生が、珍しく神妙に表情を固めていて。それは、そう思いたくないけれどやっぱり“嫌な予感”を感じさせる。
「……どういう事? やっぱりマナ、学科変更されちゃうの?」
不安になって問い詰めた私に、ゴロ先生は横目で周囲を伺いながら人差し指を自分の口に当ててから話し出した。
「マナの魔法力はほぼ0だった。普通に測定したのならね。けれど今年から実験的に取り入れた検知器で周波数の違う魔法力が感知されたんだ」
「周波数の違う魔法力? 何それ、そんなの聞いた事ない」
「まだ研究段階だからね。臨床試験を行いつつ世界中の魔法学者が分析してる状態なんだ。マナはその不確定な魔法力を有してる可能性があるらしい。これから神奈川の研究機関で精密検査を行う予定だよ」
そう教えてくれたゴロ先生の話はなんだか急すぎて、私は頭が付いていかない。だって、マナが? あの呑気なポンコツが? そんな、未知の魔法力を有してる貴重な人材なの?
「……ゴロ先生。マナ、ちゃんとここへ戻ってくる?」
不安な表情を消せないまま尋ねた私に、ゴロ先生はニコリと安心させるように微笑むと
「当たり前さ、マナはここが大好きなんだからね。大丈夫、どっかの研究機関に閉じ込められるような事態には僕が断固としてさせないから」
こちらの心を見透かしたような頼もしい答えを口にして、最後にポンポンと私の頭を撫でてから寮を出て行った。
「マナちゃんいないと淋しいねー」
その日の夜、部屋に遊びに来たシホがマナの愛用してるクッションを抱きしめながらボンヤリと呟いた。
「早く帰ってこないかな、マナちゃんもビビさんも」
マナのパートナーと云う事でビビまで連れて行かれてしまったせいで、私の部屋はなんだかすっかり静かになってしまった。正直、今シホが遊びに来てくれてホッとしてる。
「本当ね。早く帰ってこなくちゃ春休み終わっちゃうのに。あの馬鹿、お花見に行きたいって張り切ってたくせに……桜、散っちゃうじゃない」
窓の外には咲き初めの桜。生ぬるい春の夜とマッチして幻想的に浮かび上がって見える。その不確かさがなんだか、今日聞いたゴロ先生の話を頭に過らせて。
――マナの持つ未知の魔法力ってなんなんだろう……。
私はホワホワとしたルームメイトの笑顔を切なく思い出した。
***
「ただいまー」
ようやく間の抜けた明るい声が聞けたのは、始業式の前日だった。
「ララちゃん、会いたかった。これ、お土産」
部屋に入ってきたマナは嬉しそうに私に微笑みかけると、横浜限定海軍カレーキャラメルなる不気味なものを私の手に握らせた。なんじゃこりゃ。
「マナ……! あんた大丈夫なの? 精密検査とか実験とか嫌なことされなかった?」
「お部屋にひとりぼっちでいさせられたから淋しかった。あーまたこのお部屋に戻ってこられて良かったー」
ニコニコと自分のベッドやクッションを愛しそうに撫でるマナの様子を見ると、どうやらトラウマになるような酷い検査とかはされていないようで、ひとまず私は胸を撫で下ろす。
「とりあえず、帰ってこられて良かったね。おかえり、マナ」
「うん。でもお花見行けなかった。残念だなー」
「あはは、そんなの春休み終わったって行けるよ。今度の日曜日にでも行こうよ、みんな誘ってさ」
「やったー! あたし桜もち食べる。お団子も」
「おやつばっかじゃん。まったく、“花より団子”なんだから」
「えへへ」
結んだ前髪を揺らしながら恥ずかしそうに笑うマナを見て胸が熱くなる。本当に戻ってきてくれて良かったって。またこの間の抜けた笑顔に会えて、良かった。
そうしてふたりで笑い合っていると、ふいにドアをトントンとノックする音がした。
「シホかな? あの子もマナの帰り待ってたし」
椅子から立ち上がり、元気いっぱいのポンコツ2号の顔を期待してドアを開けた私の目に映ったのは、けれど。
「長谷川くん、ちょっと来てくれるかな」
真剣な顔をしたゴロ先生と、その後ろに立つスーツを着た知らない大人の姿だった。




