最終話 先生、魔法が使えません!
最終話 先生、魔法が使えません!
「はやく立派な魔法使いになりたいなー」
間もなく1年生も終わろうという修了式の日。マナは酷い有様の成績表を抱きしめながら、うっとりと夢見るような目で言った。
留年スレスレのその成績からよくぞそんな前向きな考えが出来るもんだと、私はマナのポジティブさに改めて感心する。
「あんたのポジティブもブレないわよね。そもそもなんで魔女になりたいワケ? 魔法の才能がある訳でもないのに」
「あのね、あたしお婆ちゃんみたいな魔女になって、みんなのお役にたちたい」
「うん、それは知ってる。具体的にはどんな職業に就くつもりなの?」
ごくごく簡単な私の質問に、マナはいつものアホっぽい半笑いで固まったあと
「……魔法屋さん?」
幼稚園児レベルのぼんやりした答えを返した。しかも疑問系で。つまりまあ、具体的には何も決まってないって事か。
「ま、いいんじゃない。まだ卒業まで2年あるし。そのうち具体的な進路も浮かぶでしょ」
「うん。浮かぶ」
まだ余裕がある事に安堵したのか、マナはニッパと笑顔になると嬉しそうにコクコクと頷いた。そんな風に呑気な進路の話をしていると
「マナちゃん! ララちゃん! 今日、学校終わったら皆でカラオケ行かない? 打ち上げパーティー!」
相変わらずパワーの有り余ってるシホが元気良く私達の間に滑り込んで来た。
「わー行く行くー。 あたし歌好きー」
諸手を上げて喜んでるけどアンタ歌も下手だったよね。と、はしゃぐマナを見て心の中で苦笑いを零しながらも
「じゃあ私も行こっかな」
とりあえず、みんな揃って進級できた事を今日は喜ぼうと思った。
マナが、魔法教育委員会に呼ばれたのはその翌日。
「魔法力の再測定?」
「うん。学校は問題なく進級のさせるつもりだったんだけど、教委の目に止まっちゃったみたいでね。再測定の要請が来たんだ」
教員でもありマナの従兄でもある事から保護者的立場のゴロ先生が、朝早く寮にやって来てそう言った。
寮の入り口で、私はマナが支度に部屋に戻ったのをいい事に、憂うべくその先を聞いてみる。
「再測定って……もし、結果が悪かったら?」
「本来なら学科の変更を余儀なくされるね。でもまあ、大きな声じゃ言えないけど僕がそうはさせないよ」
そう言ってゴロ先生は爽やかにウインクなんてしてみせたけど、私には寵愛する従妹のためなら職権乱用を厭わないクズ大人にしか見えない。本来なら即刻通報してさしあげたい所だけど。まあ今回はマナの在学が掛かってるので聞かなかった事にしておこう。
「ゴロちゃーん、おまたせー」
支度を済ませて来たマナが、慌てた様子でこちらへ駆けて来た。もちろんマナが走れば転ぶのがお約束。「うわぁ」と1回ほどスッテンコロリンと転げてから、マナは恥ずかしそうに笑ってやって来た。
「マナ大丈夫かい? ケガしてないかい? 痛かったら今日は行かなくてもいいんだよ?」
「んーん大丈夫。わりと元気です」
「そうかそうか。マナは偉いなあ」
相変わらずの気持ち悪い愛を撒き散らすゴロ先生と何故か誇らしげなマナ。やっぱこの血統って変人なんだな。なんて、いつもと変わらない光景にどこか安堵しながら、私は教育委員会に向かうふたりを見送った。
――けれど。
どうせすぐ帰って来るでしょと思ったマナもゴロ先生も、夜になっても帰って来ず。翌日の昼、寮に来たのはマナの荷物を取りに来たゴロ先生だけだった。




