先生、媚薬が作れません!4
「コイツには恋以前に雌雄的な概念がないんじゃねえのか」
ベッドの上で丸くなっていたビビがさすがに呆れたのか、口を挟んでくる。うーん、猫の方が主人より恋に対する認識が深いってどういう事なの。
「下手すりゃコイツ、子供はコウノトリが運んでくると思ってるぜ」
半ば小バカにしたようにビビは笑ったけれど、多分……いや、かなりの高確率でマナはそれを信じてる気がする。このポンコツ頭にに生き物の生殖が理解できてると思えない。
「マナ。……キスって分かる?」
ポンコツがどれぐらい男女の知識を持っているのか。オブラードに100枚くらい包んで聞いてみる。けれど、意外な事にマナは私の質問を聞いてみるみる顔を赤くさせた。
「……知ってる。王子様とお姫様がするの……」
そんな認識かい。ずいぶんと幼稚でメルヘンな認識ではあるけれど、本人にとってはとんでもなくロマンチックで恥ずかしいものなんだろう。マナは真っ赤になった顔を両手で覆うと「はずかしい」と言って俯いてしまった。
以前“お嫁さん”で盛大に照れていた時も思ったけど、この子の性に対する意識はすさまじく純情でロマンチストなんだな。今日日、幼稚園児だってお嫁さんだのキスだのでここまで赤面しない。マナのあまりの照れっぷりに、ビビまでポカンとしている。
けれど、“恋”よりは“キス”の方がマナには理解しやすいようだ。よし、と思って私はマナにもうちょっと突っ込んだ質問をしてみる。
「じゃあさ。マナはキスしたい相手とかいないの?」
私の言葉を聞いて、マナは頭から湯気が出そうなほど照れてしまった。耳まで真っ赤にそめて汗まで掻いている。そんなにか。この質問はそんなに羞恥を感じるか。けど、ちょっとはガールズトークっぽくなってきたんじゃない? となんだかワクワクしてきた。
「…………さん……」
「え? なになに? 聞こえない」
「……しょ、将来あたしをお嫁さんにしてくれるお婿さん……」
うわー聞いてるこっちがこっ恥ずかしくなるような少女チックな答え。
「あのね。お嫁さんとお婿さんは結婚式でキスするんだって……」
ああ、うん、まあ知ってるけれど。でも多分一般的にはそれ以前にしちゃうもんだし。けれどマナには一世一代の夢のようにロマンチックで恥ずかしいイベントなんだろうな。
時代錯誤の純朴な返答ばかりだけれど、面白くなってきちゃった私はさらにマナを質問で責める。
「じゃあさ。じゃあ、マナはどんな人のお嫁さんになりたいの?」
この聞き方なら上手にマナの“理想のタイプ”が聞き出せるだろう。我ながら上手い質問だと思いながらワクワクとその答えを待った。けれど。
「……お、お嫁さん……あたしの、お婿さん……はひぃ」
「わ、わー!! マナしっかり!?」
質問攻めしすぎたか、羞恥で頭をオーバーヒートさせたマナはついに赤い顔をカッカさせて目を回してしまった。そう言えばこの子、熱中症になりやすかったっけ。
「恥ずかしさでぶっ倒れるヤツなんているんだな。初めて見た」
「私も初めて見たわ。と言うかこんな質問で倒れるとは思わなかった」
ビビと揃って驚きながら、私は魔法で出した氷塊をマナの真っ赤になってしまったおでこに乗せる。そしてそれがジュウ~と音を立てて溶けていく様に、人はここまで照れられるものなのかと、再びビビと目を張ったのであった。
それにしても、色恋に対してマナがここまで無知で恥ずかしがり屋だとは。その夜は
「う~ん、う~ん……お婿さん……むにゃむにゃ」
なんて夢でまで恥ずかしがりながらうなされてるし。
しかも翌朝。起き抜けに赤い顔をしたマナは弱弱しい声で
「……あ、あのねララちゃん。き、昨日の答え。あたしね、あたし……湯豆腐を冷ましてくれるひとのお嫁さんになりたい……」
などと、これまた純朴な回答を告げてくるものだから、私とビビはまたも揃ってポカンとしてしまった。
「……随分ハードルの低い条件だな」
「いやー、もしかしたら案外深い答えな気がするわ」
赤い顔を手で覆って洗面所へと駆けて行ってしまったマナの後姿を見ながら、やっぱりこの子が恋をするのはまだまだ先だろうなあ、なんておせっかいな母親みたいな気持ちになった。
【つづく】




