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先生、媚薬が作れません!3


「ね、眠いの?」


「ねーむーいー」


 マナはグズグズとぐずりながら私の懐にモゴモゴと顔を埋ずめる。なんだこれ。


「シホちゃんが食欲なら、マナちゃんは睡眠欲ってとこ?」


 再び隣に立っていた子が見解を述べる。そんなもんなのかな? シホと言いマナと言い単純過ぎる。けれど、害の無さそうなマナの状態に私はひとまずホッと胸を撫で下ろした。


「はいはい、眠いならその辺で転がってな。今解毒剤作ってあげるから」


 とりあえずギュウギュウと抱きついて来るマナを鬱陶しいので引き剥がす。害は無いけどちょっと邪魔だ。けれど。


「ねーむーいー。ねーむーいーのーー」


 まるで駄々っ子のようにマナはしつこく私から離れない。これも媚薬の効果か? 面倒くさいな。


「ほら、離れてってば。纏わり着かれたら薬の調合が出来ないでしょ」


「やーだー。ねーむーいーー」


「マナ、どいてってば」


「ぅあ~~ねむいよーーねむいのにーー」


 なんと、駄々を捏ね続けたマナは私の拒否についに泣き出してしまった。子供か。幼児か。めんどくさー。


「マナちゃん、ほら、こっちおいで」


「ぅあ~~ララちゃんがいい~~ぅああ~~」


 他の子が見かねて引き剥がしてくれたけど、マナはジタバタしながらベソベソと泣き続ける。なんて手の焼ける駄々っ子だい。それでもとりあえずは手が解放されたので、私は他の子の懐で泣きながら駄々を捏ねるマナを横目に大急ぎで薬の調合を始めた。


「マナちゃんってきっと好きな人には甘えるタイプなんだねー」


 複数の小瓶から液体を抽出して混ぜる私の隣で、他の子たちがそんな会話を交わし出した。


「あれ、好きな人に甘える態度か? ただ眠いだけの駄々っ子じゃない?」


 やっぱりどう考えても色気とは程遠かったマナの反応に、私も口を挟む。例えどんなに甘ったれな女子でも、好きなひとにあの甘え方はないだろう。色恋とは程遠すぎる。


「でもそこがマナちゃんらしいって言うか」


 女子生徒の懐でグズグズとしゃくりあげてるマナを見ながら、その子たちはクスクスと可笑しそうに噂していた。まあ、真実のほどは分からないけどさ。でもあれが好きな人に対しての態度だったら、将来マナの彼氏になる人は大変だね。恋人っていうより保護者みたいになっちゃうんじゃないの。


 そんな事を考えながら、私はマナとシホが大人しくしてるうちに手早く薬の調合を進めた。


***


 その後、無事正気に戻ったマナとシホは私にたっっぷりとお説教を喰らいしばらくシュンとしていたものの、翌日には元の明るい馬鹿に戻っていた。



 そうして迎えた2月14日。私に媚薬の依頼をした一部の生徒達が実に乙女ちっくな雰囲気を醸し出す中、マナは相変わらず間の抜けた笑顔で


「これからもよろしくお願いします」


と、みんなに苺大福を配っていた。コイツ絶対にバレンタインがどんな行事が分かってない。


 学校で散々苺大福を配りまくったマナは寮に帰ると


「ビビさんにも。特別に作りました。鳥ささみ大福です」


パートナーの黒猫にまで大福を差し出す。何故にそこまでして大福に拘るのか。どうしたってお前の謝礼は大福で換算されるのか。


「なんで大福なんだよ。猫に餅を食わすなよ。一手間加えるなよ。中身だけ食わせろよ」


 たいそう真っ当なツッコミを連続で入れつつも、ビビは餅をはがした鳥ささみを美味しそうに食していた。それを見て満足そうな笑顔になるとマナは


「ララちゃんには明太子大福を作りました」


今度は私に向かって丸い餅を差し出す。うわあ。


「なんで大福にするのよ。一手間加えないでいいから。中身だけでいいから」


 黒猫と似たようなツッコミを口にしながらも、辛党の私のためにわざわざ作ってくれたと云う厚意を汲み、一応ありがたく受け取っておいた。


「はー。これでみんなに配り終えた。良かった良かった」


 どういう使命感なのか、予定していた人たちに全て大福を配り終えたマナは、無事バレンタインを終えられた事に充足しているようだった。


 私はベッドに腰掛けると、もらった大福を恐る恐る齧りながらマナに尋ねる。


「マナさ、みんなに大福配るのはいいけど本命のチョコとか誰かにあげないの?」


 まあ聞くだけムダだろうけどさ。てか、明太子大福が思ったより美味しくて驚いた。


「ほんめい」


「好きな男の子とかいないの? って事」


 マナは半笑いで口を開けたまま何か納得したみたいにコクコクと頷くと、丸い目をニッと細めた。


「お父さんと、ゴロちゃんと、ビビさんと、ヘーさんと、火の精さんと……」


「うん、それは分かってる。てか私今『男の子』って言ったよね。今もれなくオッサンと人外しか出てこなかったよね」


 私の返しにマナはキョトンとした不思議そうな表情を浮かべた。実にアホっぽい。


「恋、したことないの? 分かる? “恋”」


「こい」


「そう。好きなひとにドキドキしたり胸がキュンとした事ないの?」


 そう尋ねた質問に、マナはアホ面のまましばらく考え込んでしまった。私そんなに難しいこと聞いただろうか。そして3分くらい悩んだあげく返って来た答えが。


「あのね。あたし湯豆腐がとっても好きなんだけどね。いつもお口に入れるとき熱いかなーってドキドキする」


 これである。『好き』と『ドキドキ』のキーワードだけ合っていて180度違う話になってしまった。是が非でも恋話にはならないらしい。このスルー能力、天然でやってるんだとしたら凄いな。

 

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