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先生、媚薬が作れません!2

***


 かれこれ時間が経ち、おまじないの依頼もあと少しとなった頃。


「あっ! やだ、どうしよう」


 ガチャンと云う音と共に、たった今チョコクッキーに魔法を掛けてあげた女子生徒がそれを落としてしまった。しょんぼりと肩を落とし、床に散らばってしまったクッキーを拾いながら泣きそうな顔をしている。


「ごめんね長谷川さん、せっかくおまじない掛けてくれたのに」


「いいって気にしないで。それよりまだ材料残ってるんでしょ、もう1回掛けてあげるから急いで作り直しなよ」


 慰めようと、床に落ちたクッキーを一緒に拾ってあげながら言った。私の言葉にその子が少し安堵した顔をする。


「ありがとう。でも媚薬は……」


「大丈夫、まだ余裕あるから」


 そう答えて机の上にある小瓶を振り返った時。


「ちょっとだけ」


「ちょっとだけ」


 私の目を盗み悪戯っ子の小学生みたいな表情をして、マナとシホがもらったカップケーキに小瓶の液体を振りかけてるのが見えた。


「あーーっ!!! コラ!! ダメーー!!!」


 パパパとラーメンにコショウでも振るが如くケーキに素早く媚薬をかけると、マナとシホはふたり揃ってアホみたいな大口を開けてパクリとそれにかぶりついた。


 私の絶叫で家庭科室にいた全員が振り返り媚薬を食してしまったふたりに注目する。私もふたりに駆け寄りながらこめかみに冷たい汗を流した。


 ……どうしよう。この馬鹿たち媚薬食べちゃった……。媚薬は特定の相手の情報を入れ、呪文をかけて初めて恋の魔法としての威力を発揮する。それをしなければこの液体はなんと言うか……限りなく淫剤に近い無差別な惚れ薬だ。


 大馬鹿ふたりにそんな危険な薬。いったいどうなってしまうのか恐ろしすぎて予測が付かない。


「た、大変! 急いで解毒剤飲ませなきゃ!」


 私がパニくりながら鞄から薬剤の瓶を取り出そうとした時。


「……なんか……胸がドキドキする……!」


 薬がさっそく効いてきたシホが、赤い顔をして勢い良く椅子から立ち上がった。げげげ! やばいやばい! このままでは淫魔と化したシホに周囲の子が無差別に押し倒されかねない。


 辺りをぐるりと見回したシホが、紅潮した顔で目を爛々と輝かせ出す。


「どうしよう、なんか我慢出来ない……! みんな、ゴメンね!」


「わー!! シホやめろーー!!!」


 ケダモノの目をしたシホが、近くの席でトリュフチョコをラッピングしていた子に凄い勢いで飛び掛かった。


「キャー!!」


 叫び声と共に床にバターンと押し倒される音が響く。よりによって学校1の怪力シホが暴走だなんて。解毒剤を調合するまで彼女を抑えきれるだろうかと、魔法で拘束しようと構えた時。


「……へ?」


「チョコ! チョコ! ああ、チョコ我慢出来なーい!!」


 シホは襲い掛かった子の手に持っていたトリュフチョコに、空腹の野良犬の如くガツガツとかぶりついていた。


「……チョコ?」


「チョコ好き! チョコ愛してる! もっと食べたーい!! もっとよこせー!」


 そうしてトリュフチョコをペロリと食べたシホは、今度は別の子が持っていた材料の割りチョコを見つけると、それに向かって再び獣のように飛び掛っていった。


「……長谷川さん。媚薬の効果ってああ云うものなの?」


「……いや……」


 隣に立っていた子がポカーンとしながら尋ねてきたけれど、私だって混乱状態だよ。どういう事これは。


「シホちゃんってまだ恋したこと無いから、食欲と性欲がゴッチャになってるんじゃない?」


 近くにいた別の子が、ボリボリとチョコを貪り食うシホを眺めながら頭を捻った見解を出した。隣の子と揃って「なるほど」と納得してしまう。


 “恋せよ乙女”にはほど遠い未熟さえ故に、抑え切れない欲望が食欲に移ってしまったのか。それともシホってチョコに恋してるんだろうか。どっちにしろまあ、そんなところだろう。


 とりあえずシホの対応が分かった私は、女子達が持っていた余ったチョコを掻き集めてケダモノと化しているシホの前に置いておいた。よし、これで解毒剤を調合するまで時間が稼げるだろう。


 けれど安心してる場合ではない。もうひとり、媚薬をガッツリ食べてしまった馬鹿がいるんだから。


 暴走したシホと比べ、振り返って見たマナは未だに椅子に座ってボーっと呆けている。これはこれで不気味と言うか心配だ。けれど、いつも真ん丸い目はどこかトロンとして潤んでるし顔も赤い。薬が効いてる事には間違いない。


 まあマナなら暴走しても簡単に取り押さえられるけど、でも、変に欲情して『うっふん』なんて服でも脱ぎ出されたら、なんだかイヤだ。カボチャパンツ姿で色目使われたらなんだかトラウマになりそうだ。


 そんな心配をしながら横目でマナを見つつ解毒剤の調合を始めると。


「…………」


 カタンと音を立ててマナが無言で立ち上がった。げ。ついにマナも始動か。


 固唾を飲んでその動向を他の子達と伺っていると、マナはうつろな目のままフラフラと私の元までやってきた。そしてジッと私を潤んだ瞳で見つめる。


「……ま、マナ……?」


「………………ねむい」


「へ?」


 予想外の発言に目をパチクリさせていると


「ねむい。ねむいーー」


マナは私にムゴムゴと抱きつきながらグリグリと額を胸にこすり付けてきた。まるで眠くて甘えてくる猫みたいに。

 

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