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先生、ホウキが飛びません!4

***



 放課後。先生の手を焼かせて今日も1日を終えた若干二名の魔法学科劣等生は、仲睦まじく生徒玄関でお喋りをしていた。


「マナちゃんはー何色が好き?」


「ピンクー」


「私はねー黄色」


「ひよこ色」


「マナちゃんのはカラーひよこ色だねー」


 そんな小学生みたいな会話を楽しそうにしていたマナとシホが、靴箱からローファーを取り出して履こうとした私を見つけ笑顔満開で駆け寄ってくる。やめろ。


「ララちゃん!一緒に帰ろ!」


「やだ。っつーか寮なんだからすぐそこじゃん。敷地内で一緒に帰るも何もないでしょ」


「でも。でも」


 さてはコイツ、まだ私に魔法を教えてもらう事あきらめてないな。ったく、変な根性だけはあるんだから。


「あたし、もっとララちゃんと仲良くなりたいなー」


「あんた充分友達足りてるでしょ。そっちと仲良くしなよ」


「友達無制限」


「イミ分かんない」


 マナと話してると脳みそがムズムズしてくる。馬鹿がうつりそうでヤダ。


「ララちゃん、マナちゃんはララちゃんの事が好きなんだよ!」


 馬鹿二号が熱く私に訴えてくる。倍になるとウザさも倍増で発狂しそうになるんだけど、こいつら幽界のゲート開いて放り込んだらダメかな。


「どうせ私に魔法教えてもらいたいってんでしょ?駄目だっつーの」


「ギク」


「ギク」


 本当にこいつらは果てしない馬鹿だと冷ややかな視線を送りながら、靴を履き終えた私はその場を去ろうとした。


「魔法も教えて欲しいし、ララちゃんとはもっと仲良くなりたいし、そしたら仲良しで魔法も教えてもらいたいし」


 私が行ってしまう事を焦ってるのか、支離滅裂な事を口走りながらマナが必死で引き止める。


 振り向いて見れば、夕暮れのオレンジに染まりながらもいつもの笑顔を絶やさないマナの顔。眉毛は少し困ってるみたいだけど。


 その間の抜けた顔に近付いてから、私は手でマナの肩をドンと押しやった。


「いい加減にしてよ。なんで私がアンタに魔法を教えなくちゃなんないのよ。そもそもアンタ魔法向いてない。っつか才能ゼロ、皆無。魔法学科辞めて普通科に行った方がいいんじゃない?」


 苛立ちが限界に来て、口走ってしまった。だって、しょうがないじゃない。全然能力無いのに無駄な努力ばっかして。学校来て無駄な授業受けて。見ててこっちまで虚しくなってくる。迷惑。


 私に突き飛ばされたマナは丸い目をさらに真ん丸くさせていたけど、カーブを描いてる半開きの口元はいつも通りだった。コイツ、この顔がデフォか。


「ご……ごめんなさい。でも。でも。あたし、魔法学科がいい」


 顔に似合わず意外と食い下がるな。キツく睨んで「無駄」と言い切ってやっても、マナはそこから一歩も動かず表情を崩すことも無かった。けれど。


「……む、無駄じゃないよー。あたし、頭も悪いし運動も出来ないけど、魔法ならきっと上手くいくっておばーちゃんが言ってくれたから」


 震える声でそう言いながら、マナは子犬みたいな真ん丸な目からボトボトと大粒の涙を落とし出した。


 うっそ。泣かせちゃった? え、ちょっと。


「マナちゃん、泣かないでー! 大丈夫、イイ子イイ子!」


 駆け寄ってきたシホが一生懸命にマナの頭を撫でる。うぅ……なにこの罪悪感。


「マナちゃんの亡くなったおばあちゃんは、地元でみんなに好かれてた大魔女さんだったんだって。薬草作ったり、探し物を見つけてあげたり。マナちゃんもそんなおばあちゃんに憧れてこの学校に来たんだよ」


 シホがマナの頭をシャカシャカと撫でながら話を補足する。ってか、そんなに勢い良く撫で続けると禿げるよ。


 マナはグイグイと涙を拭ったあげく鼻水を垂らしながらそれでもデフォルトの笑顔を絶やさないで言った。


「おばーちゃんが、マナは人を笑顔に出来る魔法の能力があるよって。死ぬ前に教えてくれたから」


 ……ばーさん、孫が可愛いのは分かるけど無責任な遺言残すなよ。その可愛い孫はあんたのせいで毎日補習三昧の劣等生扱いですよ?


 ボトボトと大粒の涙を落とすマナの目は、濡れてウルウル光って水晶みたいに私を映す。


 あーもう。ちくしょう。こんな目で見つめられて、そんな話聞かされちゃって、努力家だってことだって分かっちゃってるのに。ここで断ったら私カンペキに悪人じゃん。すっごい後味悪いじゃん。おまけに。


「そ、それに、魔法が使えるようになったら、1番最初にララちゃんを笑顔にしてあげたいと思う」


 愛想が悪くていつもひとりでいる私の事まで気遣われちゃってさ。くっそ。こんなの、こんなの。


「うるさい。もう泣くな。分かったから」


 断れないじゃん。こんなの。もう私の負けだよ。


「え……」


「分かったっての。魔法教えればいいんでしょ?その変わりビシビシいくからね」


 ただでさえ大きかったマナの目が、瞳孔開いちゃうんじゃない?ってくらい大きく見開く。


「本当!? 本当!? ララちゃん!? 本当に!?」


「本当だから何回も聞くな」


 溜息と共に気だるげに答えた私を見てから、マナは身体をフルフルと震わせギューっと膝を曲げてから


「やったーー!!!」


と大きく飛び上がった。そのまま天井に頭をぶつけてしまえ。


「やった! やったよシホちゃん! ララちゃんがいいって言ってくれたよ!」


「良かったねマナちゃん! 本当に良かったね!」


 興奮してる子犬みたいに、マナとシホは抱きあいながらジタバタと喜びを全身で表した。大丈夫かコイツら、嬉ションとか漏らさないでよ。


 マナはジタバタ喜んだあと、ハッと何かを思い出したみたいに顔を上げると突然カバンをガサゴソと漁り


「お礼に苺大福あげます」


 ビニールに包まれたピンク色の餅を差し出してきた。やっぱりそれか。こいつの価値感は全て苺大福で換算されるのか。


「いや、それはいらないから」


「どうぞ遠慮せずに」


「遠慮じゃなく、私甘いもん嫌いなの」


 手を振って断った私を、マナが「ほへー」と零しながらキョトンと見ている。なんだその驚きは。世の中の人間全てが苺大福好きだとでも思ってたのか。


「お礼はいいから。それはアンタが食べな」


 そう言ってやると、マナの表情がパァッと餌を前にした犬みたいになった。


「いいの?」


「いいってば」


 もう1度断った私に、マナは「では遠慮なく」と頭を下げると、キラキラの幸せオーラを全開にしながら苺大福をホクホクと食べ始めた。


「良かったね、マナちゃん。魔法教えてもらえる事になったうえ、苺大福まで食べられて」


「幸せすぎて恐いなー」


 そんなにか。安い幸せだな。心の底から嬉しそうなマナの笑顔を見ながら、私は苦笑いの溜息を零す。


 学校一のポンコツ魔女。こんなやつの面倒を見るのは容易じゃないけれど。私の言葉ひとつでこんなに幸せになっちゃうヤツなんて。まあ、一緒にいれば退屈しないで済むかな、とは思う。


 大福を食べ終えたマナは粉を口の周りにくっつけた顔で


「ララちゃん。改めてよろしくお願いします」


と結んだ前髪を揺らしながら深々と頭を下げた。


「はいはい。よろしく」


 無愛想だけど、この時の私は確かに笑ってて。


 これが学校一のポンコツ魔女高浜マナと、学校一の天才魔女と呼ばれる私長谷川ララの馬鹿みたいな友情の始まりだった。



【つづく】

 

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