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先生、ドラゴンが倒せません!4


「おやつ食べよう。ハッピーターンみんなで食べよう。大きいひともどうぞ」


 ポカーンとする私の手をすり抜けて、マナはドラゴンの前まで行くとカバンからレジャーシートを取り出し広げ、そこにチョコンと座り込んだ。そして手持ちのハッピーターンやらいつもの大福やらのおやつを4人分に分けていく。


「私も食べるー!」


「えぇっ!?」


 小さな大食漢シホがおやつに釣られてマナに駆け寄っていった。恐怖より食欲とか、コイツもすごいな。なんかもうまともな感覚を持った私の方がおかしい錯覚がしてきた。


 今、私の目の前では、数千人を一瞬でなぎ払う力を持った古代神の目の前でアホな女子高生ふたりがおやつを食べているというシュールな光景が繰り広げられている。


 すると、満足そうにおやつを頬張っていたマナが何かに気付きふと立ち上がってドラゴンに近付いた。


「開けてあげます」


 ……どうやら、ドラゴンの巨大な鉤爪ではお菓子の個別包装が開けられないと気付き、マナはいらん気遣いを発揮し出した。ペリペリとハッピーターンの包みを剥いて、なんと牙の隙間にそれを入れていく。


 く、食わせた……!! ハッピーターンを古代神に……!!


 シュールってレベルじゃない。空前絶後のこの状況に私はもうツッコミすら出てこない。


 ドラゴンに菓子を食わせ満足そうなマナは自分もハッピーターンをホクホクと食し、「あまじょっぱい」と幸せそうな表情を浮かべていた。その時。


『……確かに、あまじょっぱい……』


 ええぇぇぇーーーっ!!? ドラゴンが、古代神が、あまじょっぱいとか言った!?


 もう、この信じ難い状況に私はプルプルと震えながら成り行きを見守ることしか出来ない。


「あまじょっぱいのが、とても美味しい」


『……小娘、これはなんだ……』


「ハッピーターンです」


「これもあまじょっぱいよ!」


 おやつを通して勝手に親近感を覚えたのか、シホまでもがすっかり恐がる事無く手にした煎餅をドラゴンの牙の間に入れだした。


「これは歌舞伎揚げ!」


『……なるほど……あまじょっぱいな……』


 ヒヤヒヤと固唾を飲んで見ていた私だったけれど、やがて恐る恐るおやつの集団に近付くと


「こ、これは甘じょっぱくて酸っぱくて美味しい……ですよ」


自分の持っていた都コンブを、そっとドラゴンの牙の間に入れてみた。正直、自分でもとち狂った行動をしてるとは思うけど。でも馬鹿達に感化されてしまったのか、なんだか、甘じょっぱい談義に混じりたくなったのだ。


『……不思議なあまじょっぱさだ……』


 気に入ってもらえただろうか、都コンブ。ハラハラしながらも私はマナの隣に腰を降ろし、一緒になっておやつを口にした。


 幽界の森の奥、精霊や獣人が木陰からビクビク見守っている気配の中。私はどういうワケか、友達と古代神と一緒におやつを食べている。……きっと1時間前までの自分には絶対に信じられない状況だろうな。


「大きいひとは、お家はどこですか?」


 なんだかすっかりくつろいでいるマナが、お菓子の粉をくっ付けたままの口でそんな事を尋ね出した。不躾な質問にヒヤヒヤしたけど、正直私もそれは気になる。どうしてこんな森に住んでいるんだろう。


『……我々に住処など無い……気の遠くなるような年月の中、ただ一時身体を休めるために留まるを繰り返す。それだけだ……』


「で、でも。古代神って深淵に住まうものじゃないんですか? どうしてこんな幽界の浅い部分に貴方みたいな神が……?」


 恐る恐る私も聞いてみると、ドラゴンは表情こそ変えないものの瞳の色がどこかくゆった様な気がした。


『……退屈なのだ、神を続けると云うのも。戯れに幽界に迷い込む人でも喰ってやろうかと5千年前からここに居る。噂を聞きつけ、愚かにも我の血や眼を求めて来た人間を片っ端から食い散らかしてやったのも、もう千年以上前の話だ』


 や、やっぱりドラゴンって人を食うんだ。改めて分かった事実に今さら背筋が冷たくなる。私達生きて帰れるんだろうか。


『神に挑む愚か者も尽きたか、もうずっと我は退屈の中で眠り続けている。背に緑が芽吹きそこに鳥が巣を成して飛び立つ程に長い時間をな』


「……そこに私たちが落っこちてきて、目が覚めてしまったと」


『そう云う訳だ』


 ドラゴンを千年の眠りから覚まさせたのが、こんな間抜けな私達3人でいいんだろうか。とても歴史書には残せなさそうだ。けれど。よくよく聞いてみれば要はこのドラゴン、ものすごーく退屈してただけって話だよね。それで暇つぶしを探して深淵から出てきちゃっただけの。


 ドラゴンの小難しい話を聞いてもさっぱり理解できていないマナが「これはジューシーです」と言いながら苺大福を牙の隙間に入れている。なんかもうどうでもいいや。


『……今まで我に酒を捧げに来た人間は幾人かいたけれど……あまじょっぱい物を口に入れてきた小娘は初めてだったな……』


「すみません。この子本当に馬鹿なんです」


『かまわん。これはこれで退屈が紛れた』


 ドラゴンはそう言うと巨大な瞳を1度瞬きさせて、ゆっくりと首をもたげた。それだけの動きなのに風が起き地面が揺れて、マナがスッテンコロリンとひっくり返る。そうして首を持ち上げた高さからドラゴンはじっと私達3人を見つめた。


『ここに留まれ、人間。この神の退屈しのぎにお前らは丁度良い』


「ええっ!!? ええーーー!!?」

 

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