先生、ドラゴンが倒せません!2
それにしても。随分とよく転がったなマナのやつ。夢中で走ってきた斜面を振り返ってみれば、距離はもちろん、元のコースは随分と上のほうに見える。これは戻るのに骨が折れそうだわ、と私が溜息を付いたとき。
「おお!? 馬だ! 先生! ララちゃん! 馬が空飛んでるよ!」
マナをおぶりながら空を見上げてたシホが、はるか上空を指差しながら叫んだ。
「あら珍しい、ペガサスね。聖獣の一種よ」
キャサリン先生は落ち着いた様子でそう言ったけど……聖獣がいるってかなりマズいんじゃ。わりと幽界の奥の方って事だと思うんだけど。私がそんな風にヒヤヒヤしていると言うのに。
「あれ乗りたい! あれ乗りたーい!」
シホはピョンコピョンコとツインテールを揺らして跳ねながら子供みたいな駄々をこね始めた。無茶苦茶言うな。あれ神様の乗り物だぞ。
「おーいペガサスー! 乗せて! のーせーてー!!」
「シホ、無茶言わないで。あれ特別契約が必要な類だから」
呆れ顔で私がシホをなだめていると
「じゃあ今契約しちゃいましょっか」
キャサリン先生が新しい靴でも衝動買いするようなノリで驚くべきことを言った。えっ。
呆気にとられてる私に構わず、キャサリン先生はカリカリと地面に魔法陣を描くと、お上品な声で物騒な呪詛を詠唱し始める。そして。
「捕獲魔法!」
辺りに黒い電流を撒き散らしながら、空に向かって魔力の檻を放った。し、信じらんない。現世では違法とされてる黒魔術な上、そんなもので聖獣を捕まえようとするなんて。キャサリン先生っておっとりした顔してけっこう恐い。
現世で禁止されてるだけあって、その効果は抜群。禍々しい電流に捕らえられ、大きな白い天馬はあっさりと魔法陣の中まで落ちてきた。すごい。ってかこれ便利だな、私も覚えたい。チョコマカするマナやシホを捕まえる時に便利だよね。
「うふふ、捕まえたっ」
バチバチと黒い電流を身体にまとわりつかせ苦しげにいななくペガサスを見ながら、キャサリン先生は『新しい靴買っちゃったっ』みたいなノリで愛らしく笑う。本当におっかないわこの人。
抵抗の出来ない馬に、これまた呪詛の刻まれた紐を手綱代わりに巻きつけるとキャサリン先生はヒラリとその背に跨った。
「ほら、みんな乗りなさい。これなら元のコースまでひとっ飛びよ」
「やったー! ペガサスに乗れるー!」
ああ、可愛そうな聖獣。本来は神様を乗せる尊い動物のはずが学生と教師のタクシー代わりに使われるなんて。心なしかペガサスの表情もションボリして見えた。
強いまじないの掛かった手綱のせいでキャサリン先生の言いなりになったペガサスは、私達4人を乗せてその大きな馬体を大空へと舞い上がらせた。
「ひゃーすごーい! 飛んでる飛んでるー!」
シホがはしゃぐのも無理はない。これはなかなか快適だ。鬱蒼とした森を遥か下に見下ろし、ペガサスはぐんぐん空を駆けて行く。と、その時。
「ひゃー気持ちいいー!」
すっかりテンションのあがったシホが空を仰ぐように両手をバッと上に伸ばした。気持ちは分かるよ、その開放感。でもさ、あんたマナを抱えてたこと忘れてるでしょ?
「シホの大バカ野郎ーーーー!!!」
落ちていった。見事に。ぴゅーって。マナが。
「マナーー!!!」
私は大慌てで落ちていくマナを追いかけて飛び降りる。間に合うか!? 飛翔と浮遊の魔法を全開にして森に吸い込まれていくマナと自分を守った。
なんとか上空でマナをキャッチ出来たものの、バキバキと木の枝を破壊しながらふたりの身体が森の深くへ落ちていく。
「あた、あいたたたた!」
キズだらけにはなったものの、全開にした魔法力のおかげでなんとか致命傷は負わず、私たちは弾むように地面へと着地した。
「……よ、良かった。死なずに済んだ」
本当に良かった。今日ほど自分の魔法力が高いことを感謝した日はない。自分が生きてる事と、どうやらマナも無事な事を確認してホッと息を吐き出したとき。
「ララちゃあーーーん!! マナちゃあーーーん!!」
頭の上から自分の魔法力も省みず友を心配する一心だけで高度数百メートルから飛び降りたバカが降って来た。
「シホの大バカ野郎ーーー!!!」
降って来るシホに向かって大慌てで浮遊の魔法を放出する。けれど勢いがありすぎる、間に合わない。
シホの命の危機を感じブワっと冷や汗が吹き出した時。小柄な身体はクルクルクルっと上空で回転をして勢いを弱めると、ダンッと力強い音をたてて地面に見事な着地を決めた。
「うは~足しびれた……」
さすがに少々ダメージは負ったようだけど、あんた凄いよ。凄すぎるよ。あの高さから飛び降りて足が痺れた程度で済むって、どんだけ頑丈な身体してんの。いや、これも魔法力なのか?
連続して起きた自分と友達の命の危機に、ドッと心労に襲われた私はその場に座り込むと大きく息を吐き出した。




