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第六話 先生、ドラゴンが倒せません!


第6話 先生!ドラゴンが倒せません!



 私の心は曇っていた。


 11月の秋空は高く澄み渡っているのに、私の心は不安一色で塗り潰されどんよりと曇っていたのだ。なぜって。


「ララちゃん。ゆーかい見学楽しみだねえ」


 本日の郊外学習、魔法学科の行き先はなんと幽界。そりゃ魔女と精神世界である幽界は切っても切り離せない関係だけどさ。


 けど、いくら浅い箇所をまわるとは言え、人の心を狙う悪い生物がウジャウジャいるのが幽界の恐ろしい所。そんな所へ抵抗できる魔法力が皆無のマナを連れて行くなんて危なすぎる。


『私達もなるべく高浜さんから離れないようにしますので、悪いんですけど長谷川さんも高浜さんと行動を共にしてあげて下さいね』


 教師からはすでにそんな依頼を受けてしまった。私いつのまにかすっかりマナのお守り役だな。でもまあ今回ばかりは仕方ない。春のレク大会で山に行った時でさえ何回も死に掛けたマナだ。今回の郊外学習はちょっとでも油断すると確実に悪魔に魂抜かれる。


 そんなワケで私は数日前から抗魔作用のある護符を作ったり、邪気を祓う銀糸をマナの制服に縫い込んだりと余念がない。


 けれどまあ、こっちがこれだけ心配してるというのに。


「ララちゃん、あたしおやつにハッピーターン持ってきた。甘じょっぱいやつ」


 本人がこれだからなあ……。そもそもコイツは幽界が何かすら分かってない気がする。


「おやつなんていらないよ。幽界はアストラル界なんだからお腹空かないんだから」


「アスろ?」


「アストラル。精神世界ってこと」


 と、私がマナに1から説明していると


「そんなあ! 私おやつすっごいいっぱい持ってきたのに!!」


馬鹿2号シホが、マナの隣から嘆いてきた。そうだ忘れてた。もうひとり、目を離しちゃいけない危なっかしいのがここにいたんだ。まあ、シホなら低級悪魔の5匹や10匹ならぶん殴って倒せそうだけど。


「シホ。今のうち言っておくけど、アンタ絶っっっ対に幽界にある物は食べちゃダメだからね。ヨモツヘグリって言って、口にしたら二度と生きて現世に帰って来られなくなるからね」


 そうなのだ。シホが恐いのはそれなのだ。小さい身体で人の10倍は食料を必要とするシホが、見境無しに幽界の食べ物に手を出さないか、それが心配だ。


「そんなあ!! 幽界ご当地グルメ食べるの楽しみにしてきたのに!!」


 どこ情報だそれ。三軒茶屋巡るお散歩番組じゃないんだから。



 そんなワケで。出発前から思いやられ心を曇らせる私に構わず、本日、葛飾女子高等学校魔法学科の郊外学習は始まったのであった。



 今の日本には幽界に出入界していいスポットが法律で決められている。今日私達が出発する関東某所のとある樹海もそのひとつだ。元々魔力の高い土地であるその場所に魔法協会がゲートを開管理していて、一見すると本当に観光地みたいな感じなんだけど。


「幽界では時々人を襲ってくる生き物がいます。ゴブリンやオークなどの凶暴な精霊や獣人には充分気をつけましょう。それと低級悪魔が甘い囁きをしてくるので乗らないで下さい、魂抜かれます」


 ひったくりに注意しましょう、ぐらいの軽さで魔法協会のガイドは生徒達にペラペラと注意を促す。おっそろしい。魔女にとってはそんなものを退けるぐらいの強い精神力と魔法力がある事が前提なんだろうけどさ。でも。


「ララちゃん、ゆーかいって悪魔がいるんだって。恐いねー」


 半笑いのまま青ざめた顔で震えてるポンコツだっているんだから、もうちょっと安全を配慮して欲しいよまったく。


「それでは出発します。皆さん私の後に着いて来てください」


 引率用の手旗をヒラヒラと掲げながらガイドがゲートを通過すると、それに従って生徒達も続々と幽界へと足を踏み入れていった。


「おわー。モクモクしてる」


 ついに危険極まりないアストラル界へと足を踏み入れたマナが、辺りをキョロキョロしながら声を上げた。一見樹海と大差ない景色だけれど、空気中には霧が立ち込めている。もっともこれは霧なんかじゃなく大気に漂う自然の霊力や小さな精霊たちが具象化したものなんだけど。


「あんまりキョロキョロしてると転ぶよ」


 すっかり景色に気を取られてるマナにそう言うや否や。


「うわ、わ、わ、わーーーー」


「マナーー!!?」


 さっそく木の根に躓いたマナはスッテンコロリンそのまま緩やかな坂をコロコロと転げ落ちていった。幽界に入ってわずか1分足らずで行方不明者1名。ひそかに人の隙を狙って木陰から眺めていたいた悪戯妖精の木霊たちまで呆気に取られている。


「マナ! マナー!!」


「マナちゃーん!!」


「高浜さーん!!」


 私とシホと引率のキャサリン先生は、大慌てでもう見えなくなるまで転げ落ちて行ってしまったマナを追い掛けた。アイツなんであんなによく転がるんだ。チーズ祭りのチーズじゃあるまいし。


 すっかりコースから外れてしまい、一層木の生い茂る深い場所まで駆けつけたところで、どうやら木の切り株にぶつかって止まったたのだろうマナが目を回して伸びているのを見つけた。


「良かった、トロールに食べられてなくて」


 キャサリン先生が安堵の溜息を吐き出しながら駆け寄る。だからやめようってのに、そういう危険のある場所にコイツを連れて来るのは。


「ひとまずコースに戻りましょう」


 至極真っ当な先生の指示に頷き、伸びているマナを力持ちのシホに背負わせ今来た道を戻る事にした。

 

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