先生、水晶が映りません!4
「えへへへへへへへ」
私だけでなく家庭科部員たちからも「すごく薄く剥けてる、上手だね」と褒められまくったマナは、とろけそうなくらい目尻を下げて最高にゴキゲンだ。クッキーやらカップケーキやらが詰まった景品のお菓子袋を胸に抱きしめて、フワフワと空でも飛びそうな足取りで廊下を歩いてる。
「良かったね、マナ。料理得意なら就職口だっていっぱいあるし、いいお嫁さんにだってなれるんじゃない」
本当に、なんとも将来に生かせそうな特技で良かったよ。けれどそう考えるとコイツが魔法学科にいる意味ってなんだろうと新たな疑問が湧いてしまうけれど、それには気付かなかった事にしておこう。そんな事を考えながらふと隣を見やれば。
「……お嫁さん……」
顔を赤くしてホワホワと夢見がちな瞳のまま放心してるアホな姿が。
「……マナ? どしたの?」
「は、はずかしい」
えっ。何故そんなに照れている。どういう反応だそれ。赤くなった顔をお菓子の袋に突っ伏して隠してしまったマナの謎な反応に私はうろたえる。正直、今コイツが何に照れているのか分からない。
「なに? 何がそんなに恥ずかしいの?」
リアクションにすら困った私が尋ねると、真っ赤な顔のマナはお菓子の袋にうずめた目でチラリと私を見上げて
「……あたし、お嫁さんになれる……?」
なんともまあ、こちらが赤面したくなるような乙女ちっくな事を小声で聞いてきた。
「え、えーっと。……なれるんじゃない? 世の中には色んなシュミの人がいるし。多分」
「は、は、は、恥ずかしい」
ちょっとやめて。本気でこっちまで照れてきた。今時、お嫁さんなんてキーワードで赤面するのアンタくらいのものだよ。どんだけウブなの。どんだけ結婚に憧れ抱いてんの。
頭から湯気が出そうなほど赤くなってお菓子袋に顔を突っ伏してるマナに、何故だか照れが感染してしまった私は内心オロオロと焦る。なんだこの気まずい雰囲気は。どうしたらいいの。
焦った私はキョロキョロと辺りを見回して、話題を変えるために目に止まった一軒の模擬店へとマナを誘った。
「あ! マナ、次はあそこ入ろう! ほら、オバケ屋敷だって」
ところが。さっきまで茹で蛸のように赤かった顔を一気に青く反転させてマナはカチンと固まった。
「……マナ?」
「……イ・ヤ・デ・ス」
なんでロボ口調なのか。いつもの半笑いを顔に貼り付けたまま、マナはプルプルと震え、ギギギとぎこちなく首を横に振る。凄まじい否定っぷりだな。
「もしかしてアンタ、オバケ屋敷恐いの?」
私の質問に、案の定マナはコクリと首を頷かせる。ああ、確かにいかにも苦手そうだよね。……でも。あまりにも分かりやすく恐がっているマナの姿がちょっと可笑しくて、私の中に悪戯心が芽生えてしまった。
「いいじゃん、挑戦してみなよ。生徒が作ったヤツなんだからそんなに恐くないって。ほら、何事もチャレンジチャレンジ」
クスクスと笑いながら震える背中をグイグイと押しやると、マナは「あわわわわ」と言いながら手をバタバタとさせた。ペンギンか。
入り口まで押しやると、受付の生徒が「お1人ずつの入場でーす」と止めてきたので、私はニヤリと微笑むと
「1人ずつだって。ほら、行っておいで!」
カーテンで覆われた真っ暗い入り口に、マナの背中をポーンと押し出した。その勢いで転びそうになりながら「あわわわわわー!」と中へ入ってしまったマナ。ふふ、どうなるかな。ビックリしてすぐ戻ってきちゃうかな。なんて、クスクス肩を揺らしていると。
「あ゛ーーー!!! 恐いーー!! あ゛ーーーー!!!」
想像を絶するものすごい絶叫が聞こえてきた。驚いて思わず受付の人と顔を見合わせる。
「え……中、そんなに凄いんですか?」
「いえ……暗いけど、お化けのマスクかぶった生徒がいるだけです」
けれど、そんな生ぬるいものとは微塵も思えないような断末魔じみた絶叫が教室内からは聞こえてくる。
「あ゛ーーー!!! 暗いーー!! 恐いーー!! あ゛ーーー!!!」
……だ、大丈夫だろうか。さすがに心配になってきた。ここまでマナが恐がりだったとは。中で惨劇でも起きてるんじゃないかってほど恐怖に満ち満ちた声に、助けに入ろうかと思った瞬間。
「恐いー!! 恐いー!! ……ぅあ~~~こわい~~」
「ええっ!?」
ついに絶叫はマジ泣きの声に変わってしまった。ウソでしょ、そんなにか。そこまで文化祭のオバケ屋敷が恐いのか。
「あーーごめんなさい~~あーーゆるして下さい~~あーーあーーー」
廊下にまで聞こえてくる泣き声にザワザワと人が集まってくる。大慌てで教室内へ飛び込むと、入り口から10メートルも離れていない場所にマナは座り込んで、お菓子袋を抱きしめたまま大声で泣いていた。その周囲ではオバケのマスクをかぶった生徒がオロオロと見ている。
「マナ! ゴメンね、ほら大丈夫だよ。出よう」
「ぅああ~~~ああ~~~」
べチャべチャの泣き顔でマナは私にしがみつくと、腰が抜けてしまったのかヨタヨタとした足取りでようやっと外へと出た。




