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先生、水晶が映りません!3


「おつかれさまー。じゃあマナちゃん達は休憩ね」


 教室へ戻ってクラスの子にそう言われた私たちはコスプレ衣装を脱ぎ、早速校内の模擬店巡りへと出発する。さっきからマナのお腹がグーグーと絶え間なく鳴っていてうるさい。てか鳴りすぎて恐い。


「なに食べよう。なに食べよう」


 ウキウキと廊下を歩くマナは、ヒモの付いたガマグチをポシェット状態にして斜め掛けにしている。なんだこれ。可愛いのか?流行なのか?


「あーワッフル食べたい」


 ビミョーなガマグチファッションに気を取られていると、マナはいい匂いに釣られてワッフルカフェを開いている教室へと吸い込まれていった。あーあー食いしん坊だなあもう。仕方なく私も後を追う。


「ワッフルください。とても甘いのをひとつ」


「私はあまり甘くないのをください」


 空いてる席に案内された私たちは、それぞれ正反対の趣向のワッフルを注文した。注文を受けた生徒がやや困った顔をしていたけど、テーブルには生クリームとジャムがごってり乗ったワッフルと、シンプルにバターだけが乗ったワッフルが運ばれてきた。やるじゃん。


「はー…………おいしい」


 よほどお腹が空いていたのか、クリームをごてごてに乗せたワッフルをひとくち食べて、マナは感嘆の溜息を零す。なんて幸せそうな顔だい。作った人もこんだけ喜んでもらえて本望だろうね。


「ワッフルはすばらしい」


 ホクホクと甘いかたまりを食べ続けながらマナはひたすらにそれを賞賛していた。ベルギー人に聞かせてやりたい。そして、ペロリと全てを食べ終えた時、至福の表情を浮かべる口の端にはやっぱりジャムが付いていたのであった。さすがにこれから一緒に歩くのに恥ずかしいから拭いてやったけど。


 ようやくお腹の虫が鳴き止んだマナを連れて、さて次はどこへ行こうと校内を見渡していると。


「ララちゃん、面白いのやってる。皮むきコンテストだって」


 家庭科室の前に大きく立て掛けられた看板に私たちは目を止めた。なんだこれ? 料理部主催、大根の皮むき大会? 景品はお菓子詰め合わせ……くだらない。


 大して興味の惹かれない企画に、私はスルーしようとしたんだけど


「出たい。あたし出たい」


どういうワケか、やけに興奮した面持ちでマナは大根コンテストに関心を示している。何故。コイツのツボが分からん。


 まあ暇つぶしだしと思い家庭科室に入りマナにエントリーさせると、さっそく部員のひとりが10センチほどに切った大根と包丁を手渡してきた。


「なるべく薄く長くかつら剥きにして下さい。身まで全部剥ききれたら景品をさしあげます」


 なるほどね。そーいうルールか。やっぱくだらない。見学者用の椅子に座りながらボンヤリと眺めていたけど


「よーし。やるぞー」


包丁を持って気合を入れるマナの姿に言われようのない不安がよぎった。コイツに刃物ってまずいんじゃないの? ものすごく危険な取り合わせじゃないの?


 けれど。どっと冷や汗を掻いた私の心配をよそに。


「あれ? あれれれ?」


 意外や意外、マナはゆっくりとではあるけれどスルスルと大根の皮を剥いていった。うすーく均一に剥かれた皮はじわじわと伸びていき、30分の時間をたっぷりと掛けてついに大根は全て一枚の薄い帯状へと変化した。


「おめでとうございまーす! 文句なしの合格です!」


 景品を持って駆け寄ってきた部員も、均一に薄く剥けた大根に感心している。


「えええ!? アンタすごいじゃん! 何やらせてもダメだと思ってたけど、こんな特技があったんだ!?」


「えへへ」


 マナと出会ってから半年。毎日コイツの徹底したポンコツを目の当たりにしてきた私にとって、これはとんでもない大事件だ。魔法も勉強も運動もポンコツのスペシャル劣等生のマナに、まさか、まさか、特技なるものが存在しただなんて! 神様も完全にコイツを見捨てたワケじゃなかったんだね!


「お料理、好きだから」


 驚きと喜びで、思わず両肩を掴んでしまった私に、マナは照れくさそうにへらりと笑ってそう言った。


「料理? アンタ料理出来るの?」


「おばあちゃんがいっぱい教えてくれたから。時間は掛かっちゃうけど」


 へーなるほど。そういうワケか。お婆さんの賜物ってワケね。そういえばこの学校では1年生の家庭科は裁縫だけだから、マナが包丁握る機会ってなかったもんね。もったいない、たった1個の取り得なのに。まあでも。


「すごいじゃん、見直したよ。誇れる事があって良かったね、立派だよ」


 ほんと、徹底したポンコツじゃなくて良かったよ。マナのお婆さん、いいもの孫に残してやったね。


 心から感心した私が珍しく褒めちぎったモノだから、マナは凄まじく照れくさそうにモジモジと身を捩ると「でへへへへへへへへへへ」とくすぐったそうな笑いを延々と零していた。

 

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