先生、ゴーレムが動きません!6
ほくほくとバナナ大福を食べるマナをとろけるような顔で見つめている保険医の顔はハッキリ言ってキモい。通報してやりたい。なのに、そんな眼差しなどいざしらず。
「ゴロちゃん。どうしてうちの学校にいるの?」
マナはわりと冷ややかな質問を投げかける。そんなの聞くまでもないと思うんだけど。
「そんなのマナが心配だからに決まってるだろう。マナが東京の女子高に入学したと聞いて大慌てでここへ移動願いを出したんだから。いやーさすがに東北の最先端から都内への移動を通すのは骨が折れたよ。しかも女子高だし」
マナに少し似たヘラリとした笑顔は、だがしかしキモイの一言に尽きる。これって身内じゃなかったら完全にストーカーだよね。
「よく移動が叶いましたね」
怪訝さ丸出しで尋ねてみれば
「まあ、魔法でちょっちょっとね」
ストーカー従兄は隠すことも無く得意げな笑顔で不正を暴露した。うわあコイツ大馬鹿だ。
「ゴロ先生も魔法使いなんですか?」
8個目のバナナ大福を口に放り込みながらシホが興味シンシンに質問する。まあ確かに、女性の能力者が9割を超える魔法使い人口に於いて、男性の魔法使いは珍しい。私だって初めて見たけどさ。
「まあね。婆ちゃんが魔法力強い人だったから遺伝かな。もっとも僕の魔法は中級程度で婆ちゃんの足元にも及ばないけれど」
私たち3人ぶんのカップに紅茶を継ぎ足しながら保険医は答える。わりとマメな性格だなと見ていたけど、マナのカップだけサービスのつもりなのか並々と紅茶を注いでる辺りやっぱりコイツは馬鹿だ。あーほら、マナ零した。
「ゴロちゃんはねー魔法の絨毯飛ばせるんだよー。よくあたしを乗せてくれたのー」
ニコニコしながらマナが言うと、零れた紅茶をふきんで拭いていた保険医がそれはそれはもう嬉しそうな顔をして頷いた。その思い出を馳せる幸せそうな顔が実にキモ。そろそろ帰りたくなってきた。
「幼稚園、小学校、中学校と毎日魔法の絨毯で送り迎えしてやったもんな、懐かしい。あーあの頃のマナは可愛かったなあ。今も可愛いけど」
「ゴロ先生、マナちゃんと一緒に暮らしてたの?」
「うん。今年の春までな。でもマナが高校にに上がると同時に東北に転勤になっちゃって。この数ヶ月もう毎日マナの事が心配で心配で心配で心配で仕方なかったよ」
「そのまま東北に封じ込められてれば良かったのに。寮暮らしなんだから送迎もいらないでしょ。なんでわざわざこっちに戻って来たんですか?」
「そりゃあ女子高生にもなればマナに悪い虫が付きかねないだろ。不順異性交遊など起こらないように見張って、万が一にでも害虫が可愛い従妹に付こうものなら僕が駆逐しないと」
異常な庇護欲で関東に舞い戻ってきたストーカー従兄はいらん使命感に燃えている。これ、相手がまともな感覚だったら警察に駆け込むところだよ。どん臭くてポジティブなマナで良かったね。
けれど。
「ゴロちゃんはねー赤ちゃんの時からあたしをいつも助けてくれたんだよねー」
当のストーカー被害者は至って素直に感謝している。
「そうそう。マナが犬に咬まれそうになった時も身代わりになったし、車に敷かれそうになった時も助けて僕が敷かれたし、滑り台の上から落ちたときには僕が下敷きになって助けたんだよね。イヤー懐かしい」
……なるほどね。納得。この従兄はどうしようもない変態気質のストーカーだけど、この15年間マナを守り続けてきたことだけは確かなようだ。
何をやらせてもポンコツでしょっちゅう命の危機に陥ってるマナがなんとかここまで生きてきた謎が解けたわ。ただ、甘やかしすぎて少々ポンコツに拍車が掛かってる気もするけど。
「だからたかが数ヶ月とは言え、マナと離れてる間は気が気じゃ無かったよ。良かった、きちんと五体満足で生きていて」
改めてホッと胸を撫で下ろしている保険医は、盲目的な愛情はあるもののマナのポンコツぶりもちゃんと分かっているようだ。迂闊に目を離すと死に兼ねないと理解している。
「……まあ確かにコイツはどうしようもなく手を焼かせるポンコツですけど。でも、友達作りは上手いって言うか、他人に助けてもらう才能には長けているから、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
紅茶を啜りながら言うと、保険医はキョトンと目を丸くしてマナを見たあと
「そうなんだよなあ。マナは昔から友達にだけは困ったこと無いんだ。そこだけは安心できる」
少しだけ不思議そうに小首を傾げた。それから。
「まあ、とにかくこの数ヶ月間、マナが無事だったのはきっとキミ達友達のおかげなんだろうね。ありがとう、彼女の従兄として感謝するよ」
保険医はようやくまともな大人の顔になってまともな台詞を吐いた。もしかしたらマナが絡まなければわりと常識人なのかもしれない。
「ゴロちゃん。あたし、ちゃんと頑張ってるよ。ララちゃんやシホちゃんやお友達や先生とか、みんな助けてくれるから高校生活とっても楽しいよー」
口の周りを大福の粉だらけにしながらマナが笑いかけると、ゴロ先生は
「おー、そうかそうか! ちょっと見ないうちにマナは成長したなあ! エライぞ! さすがマナだ!」
やっぱり気持ち悪く顔をとろけさせて褒めちぎっていた。やっぱダメだわ、コイツ。
それでもまあ、とにかく。マナがどうやってここまで生きてこられたかの謎は解けた。良かったね。熱狂的なストーカー従兄がいて。ここまで命がけでマナを助けてくれる人がいなきゃ、このポンコツは無事に高校生になれたか定かでない。そう考えるとゴロ先生にはちょっと感謝だ。けれど。
その日の夜9時。何やら寮の玄関が騒がしいので見に行ってみると。
「いやいやいや! 僕は変質者じゃありません! この高校の保険医で高浜マナの従兄です! マナが寝冷えしないように腹巻を届けに……!!」
「ウソ仰い! こんな時間に女子寮に入り込もうとした変質者が保険医なワケありますか! 誰か警察!!」
……なんと、ストーカー従兄が変質者に間違われ寮母さんに追い出されてる所だった。
「せ、せめてマナに寝る前の絵本を!!」
「誰かー! 早く警察―! 110番~!!」
やっぱりマナの血筋って壊滅的に頭が悪いのかもしんない。私は100パーセント呆れの色を含んだ目をしながら、面倒くさいのでフォローもいれず静かにその場を立ち去るのであった。
【つづく】




