先生、ゴーレムが動きません!5
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9月1日。夏休みもあっという間に終わり、今日から再び学校が始まる。
「おっはよー! マナちゃん! ララちゃん! 二学期もよろしくねー!」
久しぶりに顔を合わせたシホは休み中ずっと実家の沖縄に帰っていたらしく、ものすごく日焼けしている。木炭みたい。
「わあ、シホちゃんまっくろ」
一方、ヘラリとした笑顔のマナは一学期と変わらず生っちろい。仕方ないね。コイツは日向にいるとすぐ熱中症になるから日光浴や日焼けなんてとんでもない。てか、本当にマナって今までどうやって生きてきたんだろう。
魔法はもちろん学力も体力も底辺過ぎるマナの謎の経歴は、二学期初日、思いも寄らなかった形で解明する。
「えー、突然ですが本日より保険医の担当が変わる事になりました。新しく赴任されて来ました森尾ゴロウ先生です」
始業式の時間、校長の挨拶のあと突然新しい教員が紹介された。なんで急に?と多少疑問に思ったものの、さして興味はない。けれど、壇上に上がった新しい保険医の顔を見て、私の前に並んでいるマナが「あー!」と声を上げた。
「何でかい声出してんの。始業式中だよ」
小声でマナに耳打ちしたものの、彼女は変わらずポカンと壇上を見上げている。そして。
「ゴロちゃんだー」
驚いていた顔をふにゃあ~と微笑ませると、なんと壇上の先生に向かって手を振り出した。ええええっ!? 頭のおかしい行為にビックリしてドン引きしていると
「おおお! マナか!? マナー! 元気だったか! 約束どおり来てやったぞー!」
なんと、壇上の新任保険医は厳かな式典の最中にも関わらず、手をブンブン振りながらマナに向かって大声で呼び掛けるという狂った行為をしてきた。なんだこれ。
隣の教頭に「ゥオッホン!!」と咳払いされて、新任保険医は我を取り戻すと苦笑いをしながら一礼をし
「皆さん初めまして、今日からこの学校で保険医を勤めます森尾です。どうぞよろしく」
と、やっと教師らしい顔つきになって挨拶を述べた。って、そういう問題じゃない。さっきのはなんなんだ。
「ゴロちゃんだー。なんでうちの学校にいるのかなー」
新任保険医を眺めながら、マナが呆けた笑顔で独り言を言っている。私にはさっきのやりとりもマナの独り言もサッパリ意味が分からない。
「なんなのマナ。あの森尾って先生は」
小声で後ろから尋ねてみると、マナは振り返り大きな声で
「あたしのいとこ! 青森の学校で働いてたはずなのに、ここに来た。不思議」
ようやく合点がいくようないかないような答えを返してきた。てか、声のトーン落とせ。みんな見てる。
そうしてなんとも不審な空気を残したまま始業式は幕を閉じ、放課後になると
『魔法学科1年、高浜マナ。至急保健室まで来るように』
なんとも胡散臭い校内放送が流れ、マナは「呼ばれた」と半笑いの顔でコックリ頷いていた。
「ララちゃんとシホちゃんも行こー。ゴロちゃんにお友達紹介したい」
あの怪しい保険医にはあんまり関わりたくないと思ったけど、なんだかマナだけを行かせるのも不安だ。いくら従兄とは言え。
「ゴロー先生ってマナちゃんの従兄なんでしょ? 行く行く! 喋ってみたい!」
すでに保険医がマナと従兄と云う事はクラス中に知れ渡り、シホは好奇心いっぱいで行く気満々だ。別にマナの従兄だろうと私は興味ないけれど、女子高に堂々と男の保険医が赴任したり、そもそもこんな急な人事異動なんて怪しすぎて気になる。
「分かった、行こう」
そう答えるとマナは嬉しそうにニカーっと口を開けて笑い、私とシホの手を両手に繋いで歩き出した。恥ずかしいからやめんか。
「ゴロちゃん、きたよー」
1階にある保健室の扉を開けると
「来たか! 待ってたよマナ! さあさあ早く座って! 疲れてないか? おやつあるぞ? マナの好きなバナナ大福!」
白衣を着たもはや変質者に見えてきたテンションの保険医がマナにドタバタと駆け寄ってきた。あーなんかこの人もうやだ。まともじゃない。
どうやらマナしか目に入ってないのか、私とシホを置いてきぼりにグイグイと従妹の背を押し椅子に座らせる保険医。その光景にウンザリと言うかポカンとしていると
「ゴロちゃん、お友達連れて来たの。ララちゃんとシホちゃん」
こちらを指差しながら言ったマナの言葉に、保険医はようやく私達の存在を認識した。
「おお! マナ、お友達が出来たんだね! 良かったあ、心配したよ! ひとりぼっちだったらどうしようって! いやあさすが僕のカワイイ従妹だ! エライぞマナ! お利口だ! 天才だ!」
なんとなく私、コイツのキャラクター分かってきたわ。親バカならぬ従妹バカってとこか。歳の離れた従妹のマナが目に入れても痛くないほど可愛いんだろう。周囲がドン引くくらいに。
「こんにちはー! 如月シホです! マナちゃんと同じ魔法学科です!」
「……長谷川ララです」
個人的には絶対近付きたくないタイプの人間だけど、マナの従兄という事で私は嫌々声を掛け軽く頭を下げた。
「やあやあ、いつもマナがお世話になってるね。どうもありがとう。良かったら君たちもお茶でも飲んでいきなさい。バナナ大福もあるよ」
この一族はどうしてフルーツ大福に拘るんだろう。疑問に思いつつも私とシホは促されるままマナの隣に並べられたパイプ椅子へと座った。




