先生、ゴーレムが動きません!4
海の家の脇にパラソルを立て日陰を作ると、私はそこでマナに砂遊びをさせた。いや、これは遊びじゃない。立派な労働力。
「大きさは30センチくらい。なるべくしっかりしたのを作ってね」
「あいっ!」
さすがマナ。幼稚園児的作業ならわりと活けるようで、上手に水を含ませながら次々と私の指示通りの泥人形を作っていく。もっとも形は歪で、人形というか小山みたいだけど。けれど、それでも構わない。後は私が仕上げるだけだ。
マナの作った土くれ人形の額に順番にヘブライ語を刻んでいく。そうして魂を宿らせる詠唱。
「魔女ララの命に於いて、魔人の魂よ宿れ」
魔法力を籠めると、歪な土くれ人形たちは手足を持ち次々と自力で動き出した。
「わあー動いたあ! 泥のお人形が動いたあ」
自分の作った泥人形が動き出したことに何やら感動してるマナ。丸い目をキラキラさせてやたら嬉しそうだ。
「ゴーレムよ。これでアンタが作った泥人形は全部自力で動ける下部になったわ」
「ごーれむ!」
「ほら、土くれ共。店の中を手伝って来なさい」
私が命令すると全部で5体のゴーレム達はバラバラと散っていき、それぞれがテーブルの片付けや料理の配膳を手伝い出した。
「わー。ちゃんと働いてる。頭いい」
「私の魔法力で動いてるからね。魔法力の高いゴーレムは忠実で賢い下部なの。壊れても泥だから再生できるし便利よ」
珍しげに見ているお客さんの間を縫ってチョコマカと働くゴーレムは我ながらなかなか優秀な下部だ。けれど。
「あ、あの子ころんだ」
形を作ったマナの影響も受けているのか、やや間の抜けてるとこがあるのが玉にキズみたい。まあ、それでも。マナ本人が働くよりかは100倍は役に立ってるけど。
「あれ、ララがやったのかい? すごいね。可愛らしいしよく働くしで助かるよ」
店から伯母さんが驚きと笑顔を混ぜた表情で、私達の所まで来て言った。ようやく伯母さんの役に立てたようで、胸がホッとする。
「私だけじゃない。マナとの合作よ。どんどん作るから何でも命令してやって」
伯母さんにそう返した言葉に、隣のマナの顔がジワジワと明るくなったのが分かった。
「が……合作。ララちゃんとあたしの、合作」
「あらまあ、すごいわね! マナちゃんもララもさすがは魔法学校の子たちだね」
ニッコリ微笑んだ伯母さんが、褒められた子犬みたいな顔したマナの頭をグリグリと撫でて行く。マナはもう飛び上がらん勢いで喜びを表情に溢れさせていた。
「張り切ります。頑張ります。ゴーレムいっぱい作ります」
「よろしくね、頼りにしてるわ」
そう言って伯母さんが店に戻っていくのを見届けると、マナは「よーし」と一層張り切って、再び砂に向かい始めた。
「おっしごとー♪ おっしごとー♪ おっしごとー♪」
ゴキゲン満開で自作の歌を口ずさみながら泥を練るマナ。コイツ、歌も下手だったのかともはや感心しながら、私は出来上がった泥人形に文字を刻んでいく。
「張り切るのはいいけど、ほら、時々は休んで水分補給もしなよ。アンタ体力コンニャク並みなんだから」
「あいっ!」
顔にまで泥をつけながらマナは夕方まで人形を作り続けた。なんのかんのゴーレム達は店番からゴミ拾いやら呼び込みやらまでこなし、それなりの働きを見せたおかげで私とマナは対価分のお給料と労いの言葉を得て1日を終えた。
***
「楽しかったねーララちゃん」
もしかしたら人から褒められたり感謝されたりしたの初めてなんじゃないだろうか、マナって。それぐらい充足感に溢れた顔で輝きながら、マナは帰りのバスの座席で大切そうに給料袋を抱きしめている。
「働くっていいね。あたし大人になったら毎日働こう」
ウットリと目を輝かせているけど、それって当たり前のことだよ。まあ何はともあれ、将来に向けて勤労意欲が削がれるような事が無くて良かったと思う。
「ララちゃん、あたし来年もまたここで働きたいなー。またゴーレム作りたい」
「そうね。あんたでも出来る貴重な仕事だもんね。また来ようか」
「やったー! もっと早くキレイに泥人形作れるように練習しておこう。公園のお砂場に通うよ!」
「いや、それはどうかな」
小さな子供に囲まれてせっせと砂場で砂を捏ねるマナを想像すると頭が痛くなったけど、まあいい。
顔が痛くなりそうなほど、ずーっとニコニコと上機嫌な笑顔を絶やさないマナを見ていると、来年もまた一緒に働いてやってもいいかなと思えてきた。




