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先生、ホウキが飛びません!2

***



 翌日。寮の食堂で朝食を食べていると、パンセットのトレーを持った如月シホが、私の向かいの席でホクホクとトーストを頬張ってるマナに声を掛けてきた。


「おはよう、マナちゃん。ララちゃんに魔法教われた?」


「ダメだったよー」


「そっかあ、ララちゃん気難し屋さんっぽいもんね。でも諦めないでガンバだよ、マナちゃん」


「うん、がんばる」


 おいコラ。マナをたきつけるな。ってか、本人の目の前で『気難し屋』とか言うな。実際その通りだけどさ。


「何度頼まれたって私は教えないよ。って言うか、シホが教えてあげればいいじゃん。マナの友達なんでしょ」


 明太子を乗せた白米を口に運びながら目の前のふたりに反論すると、今さら私に気付いたシホは「あれ? ララちゃんおはよう!」と遅ればせながら挨拶をしてきた。


「ララちゃん、マナちゃんに魔法教えてあげてよ。私じゃあ馬鹿だから教えてあげらんないんだよね」


 堂々と馬鹿宣言をしながらシホはマナの隣に座り、トーストにバターを塗り始める。


 ……そういえばコイツも馬鹿だったな。皿に山盛り積まれたトーストを片っ端から平らげていくツインテールの小柄なクラスメイトを見ながら、私は思い返していた。3日前に行われたスポーツテストで如月シホが全ての競技に新記録を樹立させたことを。


 はたしてその驚異的な記録が魔法力に寄るものなのか、それともただの体力馬鹿なのか。教師は首を捻っていたけれど、私は絶対的に後者だと思う。


 だって実際シホの体育以外での魔法力は怪しいモンだった。浮遊系は全部ぶん投げてるようにしか見えないし、変身も召喚も出来ない。ぶっちゃけ、マナと同類だと思われる。


「どっちにしろ嫌だよ。マナに教えたところで私に何の得も無い」


「苺大福……」


「いらない!」


 口の端にジャムをつけた顔で尚も苺大福で買収しようとするマナに一喝して、私は残りのご飯を掻きこむと勢い良く席を立ち食堂を出て行った。



***



 その日は一日中、マナの視線が突き刺さる日だった。子犬みたいにまん丸な目してるくせに、なんであんな鋭利な槍みたいな視線が投げられるんだ。


 背中にザクザクと刺さる視線に苛立ちを感じていた英語の時間。


「じゃあ次の訳文を高浜マナ、答えなさい」


 教師が私の斜め後ろに座るマナを指名した。その途端、クラスの空気がどこか張り詰めたものになり『マナ、がんばれ!』と小声での応援があちこちから飛び交う。


「えーと、えーと、トムは椅子です」


 級友のエール空しく、マナの口からは教科書にこれっぽっちも掲載されてない情報が飛び出した。トムって誰。つか、アンタの教科書それ本当にみんなと同じもの?


「先生は高浜の個性的な答えは嫌いじゃないが、教師として君に後で補習課題をあげよう」


 英語教師が複雑な笑顔で言うと、マナはやっぱりニコニコとはにかんだ笑顔を零した。何照れてるんだよ。おかしいだろ。


 マナは魔法だけじゃなくハッキリ言って頭も悪い。国語、数学、理科、社会、英語。5教科全滅だ。いくらAOとは言え本当によく高校に入れたと思う。


 あまりの劣等生っぷりを目の当たりにして、なんだかちょっと憐れな気持ちになってきたけど。


「じゃあ代わりに、長谷川ララ。答えなさい」


 寄りによって指名が私に回ってきた事がムカついたので、マナへの同情は消し飛んだ。



 休み時間になるとマナの周りにはクラスメイトが集まってくる。


「マナ、さっきは残念だったね」


「でも答え惜しかったよ。次はがんばろ?」


 どこが惜しいんだ。揃いも揃って馬鹿ばっかりかこのクラスは。

 まあでも、お人よしが揃っているなとは思う。マナほどの落ちこぼれを馬鹿にしたり虐めたりする奴がいないのは大したもんだ。


「補習プリント手伝ってあげよっか?」


「だいじょーぶー。自分で頑張れるよ」


 おせっかいにも補習の手助けをしようとした級友の言葉を、マナはやんわりと断る。その点はなかなか偉いじゃん、と思った私の頭に毎晩遅くまで机に向かっていたマナの姿が過った。


 あーそっか。毎晩毎晩遅くまで起きてると思ったら、アイツ補習のプリントやってたのか。鼻歌歌いながらやってたから、てっきりお絵描きでもして遊んでるのかと思ってた。

 机のライトが眩しくて眠れないから、今晩辺り強制的に魔法で消してやろうかと思ってたけど……勘弁してやるか。


 それにしても毎日毎日補習プリントって。凄まじく頭悪いな。もはや感心しながらみんなの中心でヘラヘラ笑っているマナを見ていると、突然バッチリと目が合った。


「ララちゃん。ララちゃんは魔法だけじゃなく頭もいいねえ」


 ニコニコと笑いながら急に話題をこちらに振るもんだから、その場にいたクラスメイト達の視線が一斉に私を注目する。おい、やめろ。


「別に。フツーだし」


「フツーでござったか」


 なんでサムライ口調なのよ。イライラする。こちらは思わず口をへの字に押し曲げたと言うのに。


「私もララちゃんみたいになりたいなあ」


 マナは結んだ前髪をゆらゆら揺らしながら羨望の眼差しで私を見てる。その前髪、掴んで引っ張ってやりたい。


「大丈夫だよ、マナは頑張ってるからきっと長谷川さんみたいになれるよ!」


「ファイト!マナちゃん!」


 コラコラコラ。無責任に焚きつけるなっての。全く朝の如月シホと言い、どうしてマナに私を焚き付けるのか。

 だいたいマナだって。こんなに友達がいるなら、憧れるのも頼るのも私じゃなくていいじゃんか。ほんっと、変な子。


 あきれた溜息をひとつ吐き出してクルリと背を向けた私を、マナの丸い目はいつまでもキラキラと見ていた。……視線が痛い。


 

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